先月26日、Apple社はApple Storeにおける制限緩和を発表した。主に7つの優先的な制限緩和があるものの、多くの開発者から注目を集めているのは、AppleがApp Storeを経由しない決済方法を認めたことだ。
この決定は、2019年に始まった開発者による集団訴訟を受けての和解案だ。訴訟では、同社が設定しているApp Storeの手数料の高さや、価格設定の不自由さが争点となった。そして、2008年にストアがリリースされて以来、App Store経由の決済にこだわっていた同社が折れる形で決着がついている。
では、事の発端となったApp Store経由の決済や手数料はそもそもどのような問題を抱えており、どのような経緯からApp Store外での決済が承認されるに至ったのだろうか?また、App Store外での決済を受け入れたAppleの狙いは何だろうか?
2つの決済方法
App Store外での決済とは、App Storeを介さずに外部決済サービスなどを活用して決済することだ。これまで同社は、iPhoneやiPadでアプリ購入・アプリ内課金をおこなう際、App Store経由の決済を義務づけてきた。その理由としては「安全性」が挙げられており、同社のティム・クックCEOもその点を強調している。
今回の和解案では、App Storeを経由しない決済が全面的に認めたわけではない。今回認められたのは、あくまで「デベロッパがメールなどのコミュニケーションを使ってiOSアプリケーション以外の支払い方法に関する情報を共有できる」ことのみである。言い換えれば、アプリ内で外部決済を使用したり、外部ページへのリンクを設置することは依然として認められていない。
リーダーアプリへの対応も
ただし日本の公正取引委員会の指摘を受けて、今月1日には新たな措置も発表されている。それはリーダーアプリに限って、外部決済をおこなえるリンクを1つまで設置できることで、これは世界中に適用される。
リーダーアプリとは、「デジタル版の雑誌、新聞、書籍、オーディオ、音楽、ビデオの購入済みコンテンツまたはサブスクリプションコンテンツを提供」する類のものであり、SpotifyやNetflixなども含まれる。ただし、Fortniteなどのゲームアプリは対象になっておらず、これはApp Storeの収益源の大部分をゲームアプリが占めているためではないか?と推測されている。
こうした補足があるものの、決済の制限をデベロッパに課してきたAppleが、外部決済を認めたことは大きな譲歩だと言える。これまで、App Storeの手数料をめぐってどのような問題が指摘されていたのだろうか?
「Apple税」への批判
Apple社は、App Store経由の決済に対して最大30%の手数料を課しており、これが度々批判の的となってきた。
例えば、音楽ストリーミングサービスを提供するSpotifyの定期購読料は、公式ウェブサイトから支払った場合は10ドルで済む一方で、App Store経由(アプリ内からの登録)で支払うと13ドルかかる。(現在は公式ウェブサイトからのみ購読可能。)
同社は、App Storeを安全に運営してくためにはこの手数料が必要だと主張している。確かに同サービスは、全世界のiOSユーザーにアプリを配信できる他、独自にセキュリティや決済手段を設定する必要がないなどの利点もある。しかし、同社がStore外からの購入やダウンロードを認めておらず、実質的に高い手数料などを避ける手段がないことから、一方的あるいは独占的なApple税と批判されてきた。
小規模事業者への措置
この批判を受けて同社は、条件付きで手数料を15%に半減する「Apple Small Business Program」を2020年1月から開始している。このプログラムの対象となるのは、年間の売り上げが100万ドル以下のアプリ開発者だ。米国のApp Storeにおける有料アプリは全体の15%で、そのうちの99%は年間売り上げが100万ドル以下なので、このプログラムは多くのアプリ開発者にとって緩和策となった。
しかし、年間売り上げが100万ドルを超える大手開発者はこのプログラムの対象とはならない。その割合は1%にしか過ぎないが、先に見たSpotify社やNetflix社などの世界中にユーザーをもつサービスがその一例である。これらの大手開発者らは、App Store内決済において30%の手数料を支払わなければならない。
そのため、Spotify社やNetflix社は、アプリ内ではなく自社サイトにユーザーを誘導して定期購読の決済をさせることで、「課税」を回避しているのだ。
手数料をめぐる訴訟とは
しかし「課税」回避は暫定的な措置であるため、手数料をめぐってApple社と開発者の間ではいくつもの衝突が起きてきた。
2019年、Spotify社は欧州委員会に対してApple社が健全な競争を阻害していると申し立てをおこなっていたり、大手開発者らと反Apple同盟(Coalition for App Fainess)を結成したりしている。
人気オンラインゲームFortiniteを展開するEpic Games社も、手数料をめぐってApple社と対立するデベロッパの一つだ。同社は、意図的にApp Storeを経由しない課金アイテムをアプリ内で展開することで、規約違反としてApp Storeからアプリが削除された。(AndroidのアプリストアであるGoogle Play でも同じようにして削除された)この措置を受けて、Epic Games社はApple社に対して訴訟を起こした。
Spotify社やEpic Games社に共通するのは、世界中にユーザーをもつ大手開発者であることだ。彼らは莫大な収益と認知度から、App Storeを利用せずとも、世界中への配信やセキュリティの確保、決済処理を独自におこなうことが十分に可能となっている。だからこそ、App Storeの規約に対して強い姿勢を取ることができ、訴訟をしてでもApple税と戦う理由があると言える。
Apple側の狙い
では改めて、 Apple がiOSアプリ外での決済を認めた背景にはどのような狙いがあるのだろうか。これは、大きく2つの視点から理解することができる。