[訳者注]21日夜、香港政府の報道官は「逃亡犯条例」改正案について、来年7月に廃案になる声明を発表した。しかし改正案の撤回及びキャリー・ラム(林鄭月娥)行政長官の辞任は否定しており、26日にもデモが予定されている。本論は、このデモが単なる一法案をめぐった運動ではなく、本質的な変化のプロセスであることを示している。

6月16日、香港の抗議デモ主催者によれば200万ちかい人々が「逃亡犯条例」改正案へのデモに参加するため、黒い服と喪の象徴である白い花に身を包みながら、大通りに足を運んだ。総人口わずか700万人の場所で、それは驚くべき草の根の政治運動であった。

数多く指摘されているとおり、「逃亡犯条例」によって犯罪者が中国へ引き渡されることが可能になる。現在の香港は、1997年にイギリスから中国への返還後に生まれた「一国二制度」に基づき、誰かを中国に送還する義務を負っていない。北京とロンドンによる共同宣言は、香港返還から50年間、市民の自由および自治が享受されるべきと明確に定めている。この協定によって、香港は中国司法から独立を保証されている。

世界的なメディアから注目を集めた抗議デモによって、キャリー・ラム(林鄭月娥)香港特別行政区行政長官は、法案審議の休止を表明したものの、政府が非を認める形となる廃案の明言を避けた。法案への謝罪をおこなったラム長官は、市民の懸念が解消されるまで審議は再開せず、2020年の立法会(議会)会期末までに法案が通過する可能性が低いことも明らかにした。

しかし当局は、きわめて厳しい法案に反対する市民を批判しており、中国政府の後押しを受けたラム長官は、「文明社会において(抗議デモ)は受け入れられない」と述べていた。

もし法案が可決されれば、香港における司法の独立性を根本的から変化させ、「一国二制度」の終わりが始まることを示唆している。法的に保護されたデモの権利を行使する市民にむけた警察による過度な武力行使は、その道程が終りに近いことを示している。

林鄭月娥 行政長官
林鄭月娥 行政長官

他国のための設計

「一国二制度」のモデルは、1980年代初頭に中国の指導者、鄧小平(とう しょうへい)によって確立された憲法上の枠組みである。原則的に中国の各地域は、独自の行政制度、経済的・財政的な自立、そして法制度と対外貿易関係を持つことができる。

過去20年間、香港でこのモデルを導入することは困難であり続けた。なぜなら、これは旧植民地を対象としたものではなく、もともと理論的には台湾との将来的な合意を想定していたからだ。台湾は、中国そのものと本質的な交渉をおこなっており差し迫った期限は存在していない。しかし香港の場合、交渉をおこなったのはイギリス人であり、そこに住む人々と協議されることなく設定された期限をともなった制度であった。

1842年の南京条約によって香港島が恒久的にイギリスへと譲渡され、1898年の追加条約によって365平方マイルにわたる「新界」が清国政府によって99年間に渡り租借されたにもかかわらず、中国政府は一貫して、香港全土が中国領土であるという見解を崩さなかった。

1984年4月、中国は香港を特別行政区とする提案をおこない、英中両国は、香港に住む人々の生活および自治権が維持されることへの保障に合意した。同年9月、両国は中国語と英語で記された声明に合意して「一国二制度」モデルが採用された。

司法の独立

共同宣言は、8つの条項と3つの附属書によって構成されている。この声明において、香港特別行政区は中華人民共和国政府の直接的な権限下にあるものの、外交と防衛をのぞく高度な自治権を保証されており、執行権と立法権、そして終審権も含めた司法権の独立が認められている。

共同宣言は「一国二制度」の根幹をなしているため、「逃亡犯条例」改正案によって司法権と終審権の独立が遠くないうちに取り除かれると香港市民は考えている。もし法案が最終的に署名されれば、司法権の独立が撤廃されることとなり、現行の「一国二制度」モデルが事実上の終焉を迎えることになるのだ。この提案は台湾にも繰り返し提案されてきたものの常に却下されてきた経緯があり、台湾当局と人々は今回の香港における出来事を注視している。

このモデルは、しばらく前から侵食が続いており、2014年の民主派による「雨傘運動」はこれを証明するものだった。草の根の抗議活動の規模を考えると、香港当局と市民社会の関係性は本質的に変化しており、もはや避けることはできない。われわれの知る「一国二制度」は変化するだろう、ただしその行方は不確実なままだ。

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Author

ニキ・J.P.・アルスフォード

セントラル・ランカシャー大学アジア太平洋研究研究所所長、アジア太平洋研究リーダー

Translator & Editor

石田健 / 石田健

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本記事は、THE CONVERSATIONに掲載された論考を翻訳したコンテンツ。同サイトは、アカデミック・ジャーナリズムを実践する非営利メディアであり、本論考は同プロジェクトの理念に則り、すべて本誌編集部が非営利目的で翻訳している。