人はなぜ、非合理的であるにもかかわらず投票に行くのか?

政治・国際関係

公開日 2016/07/10 06:37,

更新日 2016/07/10 06:37

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明日は、参議院選の投票日です。

ネットメディアでも、「選挙に行こう!」という呼びかけをよく見かけるようになりましたが、その中でBuzzFeedが出していた「【参院選】選挙にいかない若者はバカですか?政治学者に聞いてみた」という記事は、面白かったです。

もちろん(一般論として)投票率は上がったほうが良いんじゃないかなーと思いますが、同時に当該記事でも指摘されているように、選挙に行かないことは合理的な側面がありますし、個人的にも政治参加の方法は多様であるべきだと思います。

ただ、筆者のタイムラインには「選挙に行かない男と、付き合ってはいけない5つの理由」という記事が選挙前になると流れてきたり、若者の投票率が低いことを嘆くツイートを見かけたりと、多くの人が投票率が低いことを問題視していることは、事実なようです。

選挙に行くことは非合理?

しかし興味深いことに、政治学においてはしばしば、選挙に行くことは「非合理的」な行動とみなされます。

なぜ人は投票するのか?という議論は、広くおこなわれてきましたが、有名な研究としてはアンソニー・ダウンズによる先駆的なモデルと、ライカー&オードシュックによるモデルがあります。

ライカー&オードシュックのモデル

よく知られるライカー&オードシュックのモデルは、以下のように示されます。

R=P×B+D-C

この時、それぞれの独立変数は以下のとおりです。

R(reward) :投票に参加することで、有権者個人が得られる効用
P(possibility) :自分の投票行動が、選挙結果に影響を与える確率の予測
B(benefit) :最も好ましい有権者が当選した際の利益-最も好ましくない有権者が当選した際の利益
D(democracy/duty) :自分の投票がデモクラシー維持に寄与するという信念、あるいは市民としての義務感
C(cost) :投票に関して生じるコスト

ライカー&オードシュックは、Rがゼロより大きい場合に有権者は投票に行き、小さい場合は投票を棄権すると考えたのです。

1票の価値は大きくない

しかしこの時、合理的な有権者であれば、投票を棄権する結果となってしまいます。なぜなら、「自分の投票行動が、選挙結果に影響を与える確率(P)」が限りなく小さいからです。

大阪都構想での住民投票や、Brexitのような例もありますが、現代の選挙において有権者個人の1票の価値は、大きくないことで知られています。

そのため、いかに利益(B)を大きく想定したとしても、P×Bの値が限りなくゼロに近づいていきます。

すなわち、「自分の投票がデモクラシー維持に寄与するという信念(D)」を強く持っていない限りは、投票に関するコスト(C)が大きくなってしまうのです。

また合理的な有権者であれば、デモクラシーの維持に自らが寄与する確率(1票の価値)が小さいことを知っているため、(D)の値は小さいままです。

コストが上回ってしまう

ちなみに、ここで言うコスト(C)は単に投票所に向かうコストだけではありません。投票に参加する上では、適切な候補者や政党の政策を理解しようとしますが、こうした情報収集にかかわるコストも含みます。

デリカーピニ&キーターなどによる実証的研究で、有権者の政治的知識は、一般的にそれほど大きくないことが知られています。有権者が投票行動をおこなうコストは、物理的なコストに加え、こうした情報に関するコストもあるのです。

こうしてライカー&オードシュックが述べる「R=P×B+D-C」を考えると、合理的な有権者ほど効用(R)がゼロよりも小さくなってしまい、投票を棄権する結果となります。

投票参加のパラドックス

しかし現実は異なります。この理論では投票率はどんどんゼロに近づいてしまいますが、国政選挙の投票率はいまでも50%を保っているのです。

自らにとって最適な選択をする合理的な有権者を想定して、その行動から政治的事象を説明するアプローチは、政治学において合理的選択理論という有益なフレームワークとなっています。(もちろんこれは、モデルで予測された行動をとらない有権者を「非合理的」だと罵るものではありません。)

このフレームワークで考えた時、なぜ現実と理論にパラドックスが生じているのか?という問いについては、多くの政治学者がアプローチをおこなってきました。

「自分の投票がデモクラシー維持に寄与するという信念(D)」をより大きなものとして想定し、人間が社会的な存在であることを重視したり、他者との協力関係や承認という観点から考える学者もいます。

また、より最先端で強力なアプローチも生まれています。例えば、いま話題の人工知能でもしばしば名前が出てくる「強化学習」によるモデルを利用した荒井紀一郎氏の研究は、このパラドックスに対する最先端の応答です。(わかりやすい説明が、読売新聞に掲載されています。)

政治学においてシミュレーションを使った研究は、今後ますます増えていくでしょう。

おわりに

というわけで、選挙に行くことは政治学において、「非合理的」な行動だと見なされているという話でした。

だからなんだというわけでもないのですが、そんなことを考えてみると、「選挙に行くべきだ!」という主張も、ちょっと違った景色から見えて面白いかもしれません。

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著者
株式会社マイナースタジオ代表取締役CEO。同社を創業後、2015年に株式会社メンバーズ(東証一部)に企業売却。早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。関心領域は、メディア論や政治思想など。Twitter : @ishiken_bot
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