ポスト冷戦時代が生んだトランプ勝利:「歴史の終わり」の終わり

政治・国際関係

公開日 2016/12/31 05:59,

更新日 2016/12/31 05:59

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アメリカ大統領選挙でのドナルド・トランプの勝利と、イギリスのEU離脱という結果に驚きと衝撃をうけた世界は、その原因を経済に求めた。

現代の経済発展の中核を担ってきたグローバリゼーションによって世界には勝者と敗者が生まれた。消費者は低価格の中国製品から恩恵を受け、投資家は巨大な資本の移動によって利益を得た。しかし高いスキルを必要としない製造業の雇用はアジアに流れることになり、バンカーに支給されるボーナスがトリクルダウンすることはなかった。こうして持たざる人々は、その不満をポピュリズムへの支持という形で示しはじめたのである。

経済的原因は一面的

この説明は一理あるものの、十分ではない。この問題に対する処方箋、すなわち所得分配の調整や失敗した産業・地域への支援は、結果としてその場しのぎでしかなかった。問題の規模と性質を軽視したことにより、一度分裂してしまった人々がふたたび結束することは困難になってくるだろう。

EU離脱派とトランプ氏いずれの勝利も、貧しい地域で不満を持っている労働者階級の支持なくしてはあり得なかったのは事実だ。しかし実際に彼らに一票を投じた有権者の多くは、経済的弱者などではなかった。世論調査によれば、トランプ氏に投票した有権者の平均年収は、ヒラリー・クリントンの支持者を上回っていた。投票行動の最も強い予測因子は、年齢や教育レベル、人種的背景であり所得レベルではなかった。

富は広く配分されている

さらに富の不均衡とグローバリゼーションに関する証拠は、トマ・ピケティの著作『21世紀の資本』を読むよりもはるかに微妙なものだ。欧米諸国における富の不均衡とグローバル化の直接的な関係性は、ほとんどの調査において実証することが難しい。持家居住率の向上と年金受給権によって、富は広く分配されるようになっている。現実に恩恵を受けるのは主に団塊の世代に限定されるという問題があるにせよ、現時点で人々が持っている不満の直接的原因ではなかった。他にも人々の不満の原因としてあげられる、”平均収入の低成長”も誤った見解である。基調となる人口において移住や世帯構造の変化が生じている場合、平均収入という指標は典型的モデル世帯の実情を表すものではなりえないからである。

現実に所得分配の問題というのは、各国によって事情が異なるために一般化することは難しい。しかし欧米諸国では一様に、ポピュリズムのうねりが勢いを増している。来月オーストリアで行われる大統領選のやり直し決戦投票では、極右候補の勝利も現実味を帯びてきた。イタリアでは憲法改正を問う国民投票においてマ、ッテオ・レンツィ首相が敗北。オランダでは年明けの総選挙に先駆けて、ヘルト・ウィルダース党首が率いている移民排斥を掲げた自由党が勢いを増している。さらにフランスでも同様に、移民排斥派であるフランス国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首が、大統領選の決選投票に進むことが有力視されている。

各国の多様な事情には、また別の側面がある。ポピュリズムは、これまで非主流派と言われてきた政治的立場の人々に恩恵を与えているのである。左派で言えばイギリス野党労働党のジェレミー・コービン党首、ギリシャの急進左派連合スィリザ、スペインの左派政党ポデムスなどの台頭が見られる。また環境保護、各種マイノリティの権利擁護など独自の主張を掲げる圧力団体の存在感の高まりも、今の時代をあらわしている。

経済がポスト冷戦構造を崩壊させた

今日生じている政治的亀裂は、直接的には経済とは無関係である。経済が引き起こしたのはむしろ、旧来的な政治構造の崩壊であると言えるだろう。

フランシス・フクヤマが「歴史の終わり」と述べた、緩やかな規制下にある資本主義と自由民主主義に代表されるポスト冷戦構造は、行き詰る宿命にあったとも言える。人々の驕りは欲望を正当化して、株主価値を高めることばかりが専念されたが、その結果として2008年には世界金融危機が生じた。これによって、資本主義体制そのものの正当性が著しく損われる事態となった。

社会主義の終焉は、同時に従来の政党組織の基盤をも崩壊させた。現在、ヨーロッパ諸国における既存の社会民主主義政党のリーダーは、都市部のエリート層であり、従来の労働者階級とは自然保護に関しても差別問題に関しても温度差がある。旧来の保守勢力においては、社会主義という共通の敵が消滅したことにより、相互の政治的連携が不安定になっていった。企業・富裕層・個人主義者・保守派・宗教団体は、反社会主義というスタンス以外に、そもそも共通項などなかったのである。

自滅する既存政党に取って代わったトランプ

こうして自滅しつつ崩壊していった既存政党に、見事とって代わったのがトランプ氏である。

ソーシャルメディアの台頭により人々は表現の自由度が増し、発信されている情報の全てに根拠があると感じるようになった。これらは「truthiness」と呼ばれる、「自分が真実であってほしいと思い込んだことのみ、真実として受け容れる性質」を意味する造語が生まれる背景にもなっていった。既存メディアは情報のフィルタ機能としての役割を放棄してしまい、今や人々は自らの偏見を助長させるような、自分にとって都合の良い情報ばかりをいともたやすく目にするようになっている。

これまで民主主義制度に対する批判は、タブーとされてきた。EU離脱には議会承認が必要とした高等法院判事らの顔写真に対して英タブロイド紙がつけた「人民の敵」という見出しや、トランプ氏の集会でクリントン氏に向けて叫ばれ続けた「刑務所送りにしろ」という表現は、人々の良識の欠如をあらわすだけでない。異なる主張を尊重する姿勢、民主主義がよりどころとする権威を重んじる姿さえも、人々は放棄してしまったことを象徴している。

トランプ氏は、歴史の流れの中でリーダーとしての役割を与えられた、単に最も新しく登場してきた外国嫌いの独裁主義者に過ぎない。中枢権力が常に互いに牽制しあう、抑制と均衡という高度な仕組みを持った近代民主主義制度は、これまでの歴史においてトランプ氏のような民衆煽動ともいうべき動きのほぼ全てを掌握してきた。しかし例外は存在しており、そこに危険が伴っているといえる。世界経済危機における民主主義世界における政治家の無力さが露呈されて以来、反対勢力は抗いようがないほどに勢いを増している。

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