個人が信用によって資本をレバレッジさせる時代:評価経済に訪れる新たな闘争

テック, メディア

公開日 2017/06/29 03:16,

更新日 2017/06/29 03:16

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「これまでの全ての歴史は階級闘争の歴史である。」 ― カール・マルクス『共産党宣言』(1848年)

カール・マルクスらが著した『共産党宣言』は、世界に大きなインパクトを残した。マルクスらは、人類の歴史をブルジョワジー(資本家)とプロレタリアート(労働者)による闘争の歴史と位置づけ、工場のように生産する手段を持つ資本家が、自分の身体以外に生産する手段を持たない労働者を搾取してきたことを批判した。

マルクス主義は、1989年にベルリンの壁が崩壊したことで瓦解したが、今あえてマルクス風に言うならば、テクノロジーによって新たな階級闘争の歴史が生み出されつつある。

それはブルジョワジー(資本家)とプロレタリアート(労働者)の闘争ではなく、「信用を持つ者と持たざる者の闘争」だ。

世界で進む格差と断絶

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世界中で、階級による格差と断絶が生じている。本誌で紹介したC・マレーの著作はまさにこの問題を扱っており、NYやシリコンバレーのように似たような文化圏で暮らす上流階級と、彼らとは異なる規範や価値観、文化の中で暮らす下層階級の間に、アメリカ国内でも大きな分断があることが指摘されている。

文化的な断絶以外にも、経済的不平等はかつてないほど拡大しており、それは民主主義を脅かす。こうした現象は、トランプやBrexit、そしてフランスにおけるルペンの躍進などに繋がっていると懸念されており、いまやグローバルな課題の上位にノミネートされている。

テクノロジーが加速させる格差

しかし、こうした格差はテクノロジーによってますます拡大させていくだろう。それが「信用を持つ者と持たざる者の闘争」だ。

信用が新たな価値になっていくという話は、決して目新しいものではない。2011年ごろには、Kloutというソーシャルメディアの影響力をスコア化するサービスが話題になったし、2013年前後には「評価経済」という言葉が多少話題になった。

それらはいずれも、ソーシャルメディアの興隆によって人からの信頼や評価が重要になり、その評価を媒介として商品が売れたり、価値が増幅される時代が来るという文脈だった。

しかし現在の「信用を持つ者と持たざる者」は、より踏み込んだ意味になっている。

最近、個人が仮想通貨によって資金調達のようなものができる「VALU」というサービスが話題になった。他にも、目の前のアイテムを一瞬で現金に変えられる「CASH」が登場したり、給与の前借りを実現するレンディングサービス「Payday」などもリリースされる。いずれも、従来の現金の使い方からは想像できない、テクノロジーによって金融領域を大きく変化させる可能性があるサービスだ。

ネガティブな話題では、メルカリで現金が出品されたり、ZOZOのツケ払いによって若者が滞納を続ける事例なども話題になったが、いずれも信用や現金(キャッシュ)のあり方の変化を予感させる。

個人の信用によって資本をレバレッジさせる時代

この流れは、どのようにまとめられるだろうか?簡単に言ってしまえば、「個人の信用をもとに資本(キャッシュ)をレバレッジさせる時代」と言える。

ツケ払いしかり前借りしかり、鍵となるのは個人の信用力だ。これは古代ローマの金貸しの時代から変わらない仕組みだが、同時に、今この時代だからこそ生まれ得たサービスだといえる。

それは我々一人一人がスマートフォンを持ち、FacebookやInstagramなどのソーシャルメディア、Google、そしてAmazonに喜んでデータを提供しているからだ。これは10年以上前にPaypalが構想した未来でもあるが、PCが主流の時代には決して実現性は高くなかった。

スマホに紐付いたデータは、かつてないほど個人の信用力を可視化する。それはソーシャルメディアの評判という曖昧なものではなく、ソリッドでリアルな購買力や資産、そして貸し倒れリスクなどの情報だ。

個人は、そのデータと引き換えに得た信用をもとに資本(キャッシュ)にレバレッジを掛けることができる。より手軽に借入ができるようになり、その現金が新たな資本を生み出す。

そこからの仕組みはマルクスが指摘した様な話と、あまり変わりない。例えば手元に現金があれば、それを担保に不動産をローンで購入し、新たにそれを貸し出すことから収益を生み出せる。自分の肉体を労働力にせずとも、今度はその不動産を担保に、新たな収益を生むことも出来る。

この連鎖は、近代であれば土地を持っていなければ始められなかったものだし、個人のデータ収集を爆発的に増加させたスマホやインターネットがなければ、不可能だった。

資本をレバレッジさせる人と消費を続ける人

ではこの状況は、どのような格差を生み出すのだろうか?

個人の信用によって資本をレバレッジさせることが出来る人(=信用を持つ者)はほんの一部だ。大半の人は、ツケ払いやモノの現金化、あるいは給与の前借りをしても、それを消費に回すだろう。

その差は初めは僅かに見えるが、徐々に信用を積み上げて巨大な利益を手にする人と、延々と信用が積み重ならないまま消費を続け、自転車操業を続ける人(=持たざる者)の間に大きな格差が生まれるだろう。

企業は、より巧妙にデータを集めながら貸し倒れリスクを避ける。しかし消費者もまた、スマホで手軽に現金を手に入れられるならば、様々な方法で自らの信用と引き換えに、借入れを進めようとするだろう。

個人的には、キャッシュレス社会は望ましいものだし、ツケ払いや前借りによって個人の選択肢が広がることが倫理的に問題だとは思わない。しかし、そこには一定の留保が着く。

大手消費者金融がどれほど好感度の高いCMを流したとしても、それを利用することは後ろめたい。ところがもし、それと同じことがスマホによって異なる切り口で、ワンクリックで可能になれば、人々は積極的に借入れをおこなうだろう。

そうした状況で、人々の自己責任に基いてサービス利用を促すことは倫理的な問題を孕んでいるはずだ。

おわりに

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テクノロジーが格差を拡大させているという批判は、それほど目新しくない。アメリカのカリフォルニアではIT企業の膝下でホームレスが急増しており、多数のビリオネアが住む地域に多くの貧困が生まれている。

ラッダイト運動を念頭に、人工知能やロボットが人々から仕事を奪うという批判は数年前から盛んに聞かれているし、Amazonのように多数の労働者を雇っている企業は対応を始めている。

しかし格差拡大の傾向は、「信用を持つ者と持たざる者の闘争」に向かって、ますます広がっていくだろう。これまで富裕層やインナーサークルの参加者のみが加われた資金調達のプロセスに多くの人々が関われるようになること、すなわち「資本の民主化」と言うべき流れは概ね好ましく、不可避の流れだ。

しかし近代から現代に移り変わる中で、政府や企業が持っていたパワーが個人に落ちてきた時、今後は個人間において新たな格差が生まれることになる(下図)。

21世紀は、この格差問題がより顕在化する世紀になることは間違いなく、それは、新たなテクノロジーや仕組みによる「個人のエンパワーメント」とパラレルに進んでいくはずだ。

NC

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著者
株式会社マイナースタジオ代表取締役CEO。同社を創業後、2015年に株式会社メンバーズ(東証一部)に企業売却。早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。関心領域は、メディア論や政治思想など。Twitter : @ishiken_bot
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