「個人へのパワーシフト」が進む時代の未来予測:メガトレンドは何をもたらすのか?

編集長より

公開日 2017/09/11 06:08,

更新日 2017/09/11 06:08

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先日筆者は「個人が信用によって資本をレバレッジさせる時代:評価経済に訪れる新たな闘争」という記事を書き、多くの人に感心を持ってもらいました。

記事の内容は、個人の「信頼」が新たな資本の一部となり、それがテクノロジーによって一層加速するという主張ですが、その通底にあるのは、個人の力がかつてないほどに大きくなるという未来予測です。

こうした未来像を筆者は強く確信していますが、それは筆者独自の予測ではなく、多くの専門家も同意するものでしょう。先日『シフト-2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』という著作を読んだので、その内容も踏まえつつ、未来の社会について簡単に考えてみます。

近い未来は高い精度で予測できる

個人的には、未来は(1)高い精度で予測できるものと(2)予測することが限りなく難しいものの2つに別れると思います。例えば、世界的な人口動態の変化や技術トレンド、その変化から導かれる各国の経済成長予測などは、限りなく高い精度で予測できる未来です。

反対に、突発的に起こるテロや自然災害、予想外に生じた政治的運動などは、非常に予測困難だと言えます。もちろん、突発的に見える政治的事象であっても、様々な変数から予測することは不可能ではないかもしれませんが、専門家によっても意見が別れるような事象は、予測困難な未来に分類するべきです。

また国の経済成長や技術トレンドは、様々な変数によって規定されるため(例えば規制や自然現象)、高い精度で予測できる未来であっても、長いスパンを経れば未来予測が変更を余儀なくされることも多々あるでしょう。

しかし、10-20年程度の限られたスパンを取ってみれば、高い精度で未来を予測することは、それほど難しくないはずです。

「個人へのパワーシフト」というメガトレンド

『シフト』において最も大きなトレンドとして挙げられているのは、「個人へのパワーシフト」です。これは同書だけでなく、世界中の専門家が指摘しているもので疑う余地はないでしょう。

インターネットによって個人の声が世界中に届くようになり、相対的に国家や企業の影響力は低下しています。21世紀となりグローバル企業が主にインターネット産業に登場しましたが、GoogleやFacebookを見ても分かる通り、こうした企業すらも「個人のパワーシフト」を背景に拡大しています。

イアン・ブレマー
イアン・ブレマー

「個人へのパワーシフト」の背景には、世界全体が豊かになり巨大な中間層が登場した事実があります。中国やインドなどの大国は急速に経済力を増しており、こうした国々で豊かな人が増え、ついにはアジアの中間層が欧米の中間層の数に追いつきました。(上図)

1.経済的格差の拡大と民主主義の脆弱性

ただし中間層の拡大は、経済的格差の拡大とは別の問題だと考える必要があります。

中間層が増えているのに、拡大する格差によって政治的リスクがもたらされていることは一見すると不可解に見えます。しかし、最富裕層(スーパー・リッチ)の登場によって先進国の中間層に不満が溜まっていることと、その中間層の経済水準にアジア諸国の中間層が追いつき始めていることは、同時に起きている変化なのです。

この背反する現象が、人々に政府への不満をもたらしやすくなり、民主主義の脆弱性を高めつつあります。これは「個人へのパワーシフト」が生み出す1つ目の影響だと言えます。

短期的には経済的格差の拡大は進んでいくはずで、そこに対しての処方箋は存在しないでしょう。ただし民主主義や国家運営に悪影響をもたらすことは明白であり、この問題に適切な対処が出来るかが、先進国を中心とした中長期的な課題となるはずです。

2.国家主義の台頭

「個人のパワーシフト」が進んでいるにもかかわらず、トランプ大統領をはじめとして国家主義的な動きが加速しています。

なぜソーシャルメディアによって国や地域を超えて人々が繋がった時代に、国家主義は消えるどころか、ますます力を増しているように見えるのでしょうか。

『シフト』ではその理由として、新興国の人々が科学的合理主義や世俗主義などの西洋的な考え方を受け入れつつも、「文化的アイデンティティや政治的伝統を捨てたくはない」と考えていることが理由だと説明していましたが、筆者の考えは少し違います。

それもあるでしょうが、先進国の中間層が経済的格差に不満を抱き、そのことが国家主義や人種主義などを呼び込んでいる可能性も考えるべきでしょう。

例えば、中国やアジアの中間層は今後ますます増えていきますが、日本の中間層はアジア諸国よりも相対的に生活水準が低下することに嫌悪感を抱くはずです。それによって、日本人が自国の文化的アイデンティティなどにすがり始めるシナリオは、十分に予想されます。

グローバル化と国家主義の拡大という矛盾する現象は、短期的には加速していくはずです。そこにどう折り合いを付けるかは今のところ不明ですが、旧ソ連圏や中国周辺の東アジアと東南アジアなどの地域では、国家主義が国境をめぐる争いに転換して政治リスクが増していくはずです。

3.都市への集中、孤立化する個人

世界的に文化的アイデンティティや宗教的アイデンティティが強まっていく理由は他にもあります。「個人へのパワーシフト」と同時に進んでいる世界的な現象の1つに、都市への集中があります。

2010年ころから、世界的に都市への人口集中が加速しました。(下図)都市に流入した個人が孤立化した時、宗教的・文化的アイデンティティは人々の拠り所として機能します。

UrbanisationPatterns

宗教が都市部におけるコミュニティとしての役割を担っているだけでなく、最近ではISISのようなテロ組織が都市部で孤独感を感じる若者に触手を伸ばしています。

宗教的アイデンティティは決して悪いものではありませんが、対立を生み出しやすい側面もあります。孤立化する個人につけこむ思想や、対立を呼び起こす宗教原理主義などは、「個人のパワーシフト」と共に加速しているリスクであるといえるでしょう。

都市部への人口集中は、都市間の競争をますます激しくします。起業に最適な都市がシリコンバレー1択だった時代から、サンフランシスコやNYなどに起業家は移りつつあります。

都市が国家以上にイニシアチブを持ち、優秀なクリエイティブ・ワーカーを呼び寄せ、企業や大学の誘致を進める時代はすでに始まっていますが、その流れはますます進んでいくでしょう。

地域に根ざしたコミュニティの繋がりが薄まり、人々が都市に集まる傾向は、文化的アイデンティティや地域主義を弱める様に見えるかもしれませんが、実際にはアイデンティティの形を変える結果に結びついています。国家や企業の影響力が相対的に弱まる中で、新たなアイデンティティの拠り所が求められているとも言えるでしょう。

4.秩序のない多極的な世界

第二次世界大戦後、アメリカとソ連による冷戦構造からアメリカによる一国秩序を経た社会は、「個人へのパワーシフト」に向かっています。しかしその変化は、国家や企業の消滅を意味しているわけではありません。

むしろアメリカ以外の他国の力が相対的に増していき、企業や非営利団体、利益団体などの力が乱立していく世界がやってくるでしょう。つまりアメリカ一国による秩序が崩れ、GoogleやFacebookなどの超国家企業、中国やインドなどの新興国、そして大規模な中間層やスーパーリッチをはじめとする個人などが多極的な力を持つ時代です。

「個人へのパワーシフト」と言うと、インターネットなど新しい産業を中心に国家や企業を超えて活躍するクリエイティブ・ワーカーをイメージするかもしれませんが、それは一部のエリートのみです。

実際には、どんな個人であっても社会や国家の影響を受けていますし、その国家の秩序が不安定になれば良い影響よりも悪い影響を被るはずです。多極的な社会は、個人の未来をより不安定にしていくはずです。

5.激しくなる競争

中間層が増えて都市部に人々が集まることは、経済的格差の問題とも関わってきますが、個人により激しい競争をもたらすでしょう。それは教育について考えれば容易に想像できます。

アメリカの大学に、アジアから多数の留学生が流入していることは、グローバルな教育機会が生まれ教育格差が是正されている証左だといえますが、それは同時に激しい競争が生まれているとも言えます。

教育がもたらす将来的な収入やチャンスが平等な競争に晒されることは、恩恵を受ける人と不満を抱く人の対立を煽るでしょう。移民は世界的な政治問題になっていますが、今まで国家による恩恵を受けてきた先進国の中間層は、激しい競争に耐え難くなり、より国家主義に走っていくことが予想されます。

「個人へのパワーシフト」によって、人々が国家主義への揺り戻しを求めることは皮肉な現象ですが、教育や労働の面で激しい競争が加速していくことは、短期的な未来予測において、もっともセンシティブで根本的な問題だと言えるかもしれません。

おわりに

以上簡単に、5つの未来予想について考えてみましたが、今回挙げた内容以外にも、確度の高い未来予測はいくつも出来るでしょう。

特にテクノロジー分野においては、人工知能や機械との競争がもたらす変化について、様々な議論が飛び交っています。その中には、概ね専門家の見解が一致しているトピックから、真反対な意見が対立しているトピックまであり、それらを冷静に分けていくことが求められます。

そして最も大事なのは、未来予測それ自体ではなく、こうした予測をもとにして、個人がどのようなキャリアを積み、どんな社会を構想するかという点です。

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著者
株式会社マイナースタジオ代表取締役CEO。同社を創業後、2015年に株式会社メンバーズ(東証一部)に企業売却。早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。関心領域は、メディア論や政治思想など。Twitter : @ishiken_bot
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