NYTによる衝撃のFacebook暴露記事:その内容とポイントは?

公開日 2018年11月27日 18:24,

更新日 2018年11月27日 18:24,

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11月15日、米・New York Times(NYT)紙に衝撃的な記事が登場した。この記事は「Delay, Deny and Deflect: How Facebook’s Leaders Fought Through Crisis」と名付けられ、2017年から今まで揺れに揺れているFacebookの内情を暴露するものだ。

同記事は骨太な調査報道であるとともに、騒乱の1年を経験した今年のFacebookを総括するに相応しい内容であり、米国で大いに話題を呼んでいる。同記事を簡単に整理するとともに、注目すべきポイントを見ていく。

記事のサマリー

5名の記者による長文記事は、ロシアゲートやケンブリッジ・アナリティカなどの危機が立て続けに襲ったFacebookの内情について、匿名の同社経営幹部を含む50人ものインタビューを通じて明らかにしたものだ。

「Delay, Deny and Deflect(引き伸ばし、否認、はぐらかし)」という記事タイトルの通り、問題に直面したマーク・ザッカーバーグCEOやシェリル・サンドバーグCOOら幹部が、社内改革やサービスの在り方を検討するよりも、ロビイングなどにより、その場しのぎの(不誠実な)対応に注力したことが記される。

なかでも話題を集めているのが、下記3つの内容だ。

  • Facebookが、ロシアからの不正アクセスに気づいたのは2016年春だったが、その事実を年末まで意図的に伏せていた。
  • 自社に対して不利益な報道を監視するため、コンサルティング企業Definers Public Affairs社と契約。同社は、Facebookのプライバシー保護に関して批判的だったApple社を攻撃する記事を公開。他にも、Facebookに批判的な大富豪ジョージ・ソロスについて調査をおこなった。
  • Facebook関係者から献金をもっとも集めており、娘が同社マネージャーに昇進したチャック・シューマー上院議員は、共和党の上院議員が主導したFacebookへの調査を遅らせようと試みた。

特筆すべきは、これまで一連のスキャンダルを通じてザッカーバーグ氏の一挙一動に注目が集まっていたものの、実際にはサンドバーグ氏の役割が大きかったことが明らかにされている点だ。サンドバーグ氏は、もともとワシントン(アメリカ政界)と繋がりが強い人物であり、Facebookにおいてもその手腕がいかんなく発揮されている。

ただしその手腕は「人と人がより身近になる世界を実現する」という崇高な理念のためではなく、ワシントンに擦り寄り、自社の利益を守るために発揮されていることが分かる。

3つの注目ポイント

同記事を読むと、大きく3つのポイントが印象に残る。1つはサンドバーグ氏の強大な権力・存在感だ。

記事の冒頭は、「You threw us under the bus!(あなたは、我々を危機に陥れた!)」という同氏の叫びで始まり、彼女が招集された上院情報委員会の一幕で締めくくられている。ロビイングや政策絡みの主要な決定をする彼女の挙動は、最近のFacebookを理解する上でもっとも鮮明な映し鏡となっている。

世界銀行でローレンス・サマーズの助手を務め、その後GoogleからFacebookへと移籍したサンドバーグ氏は、著書『リーン・イン』によって力強くキャリアを歩む女性たちの世界的なロールモデルとなった。その彼女が、ロシアによる不正アクセスから目を背けたばかりでなく、強力なロビイングを仕掛け、コンサルティング企業を通じて競合を叩きのめす姿勢は、強いインパクトを持っている。

もう1つは、Facebookは決して不正や隠蔽をおこなったわけではないものの、強いイメージダウンは避けられないだろう、という見通しだ。サンドバーグ氏の積極的な対応と裏腹に、ザッカーバーグ氏の対応は傍観者の様ですらある。良く言えば、政策絡みの問題をサンドバーグ氏に一任することで静かに事態の推移を見守っていたのかもしれないが、悪く言えば問題の重大さに気付かないまま凡庸な対処に留まっていた。

特にDPA社の利用は、Facebookのイメージを凋落させる決定打となるだろう。フェイクニュースの問題にこれだけ注目が集まる中、正当なロビイングであったとしても、Facebook自身が競合相手のネガティブなニュースを探し出していた事実は壊滅的だ。

最後に、Facebookは良くも悪くも1つの私企業であるという当たり前の事実を再認識せられる。ロビイングや競合への対処は、私企業としては当然の姿勢である。世界をつなげるという崇高なミッションや、世界中でインフラ化しているサービス、そして政治家のように全米を行脚するザッカーバーグ氏の姿は、あたかも同社が公的機関のような印象をもたらしたが、それは幻想である。

彼らもまた、投資家への利益還元を至上命題とした私企業なのであり、永遠にユーザーやマーケットから愛され続ける保障はどこにもない。(もちろんNYTも、Facebookのアルゴリズムに長らく苦しめられてきた私企業であることを付言しなければフェアではないだろうが。)

記事の反応・今後の影響は

同記事の公開後、Facebookは釈明に追われた。唯一の救いは、記事中でサンドバーグ氏から責め立てられていた元最高セキュリティ責任者のアレックス・スタモス氏が、「Facebookだけが問題なのではない」と述べ、経営陣が意図的にロシアに関する問題を隠したわけではないと明言したことだ。

しかしながら、ジョージ・ソロス氏はFacebookに公式な抗議を申し入れており、報道をうけたFacebook社員の動揺が大きいことも報じられている。米国に限らず各国メディアもNYTに追随しており、しばらく騒乱の気配は収まりそうにない。

サービスとしては引き続き栄華を謳歌しているFacebookだが、ヨーロッパからはじまった政治的な風当たりは、米国内でも日に日に強まってきている。膨大なコストを掛けてフェイクニュースや不適切なコンテンツに対処している同社にとって、政策絡みの問題は利益を圧迫するだけでなく、政治的な規制をうける可能性が高まることから、自社を揺るがす巨大なリスクとなっていることは間違いない。

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✍🏻 著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『スッキリ』月曜日コメンテーターの他、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。わかりやすいニュース解説者として好評。
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