パパ活試論 - 1

議論 / 編集長より

公開日 2020/02/06 13:55,

更新日 2020/02/24 09:50

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2017年にテレビドラマの名前として冠されるなど、パパ活という言葉は人口に膾炙した感がある。一方、その定義は曖昧なままである。ただの「善意による援助」なのか、「下心を含めた投資」なのか、はたまた援助交際を都合よく言い換えただけなのか。

その曖昧さこそが、法的なグレーゾーンと社会的な注目を集める所以ともなっているが、その背景に若者の経済的不遇があることも含め、非常に現代的な現象の1つだと言える。

パパ活には、「倫理的に許されるのか?」というシンプルな問いがつきまとっている。これは新しい概念であるにもかかわらず、哲学者や倫理学者が向き合ってきた古くからの問題 ― すなわち、売買春が倫理的に許されるのか?という問題 ― とほぼ同義である。

今回から、この問題を原理的に考えていこう。

社会学者として知られるゲオルク・ジンメルは、1892年に「現代と将来における売春についての覚え書き」というエッセイを発表している。彼のエッセイは、リベラリズムや功利主義の理論に裏打ちされているわけではないものの、貧困など「社会問題」が問題視された19世紀後半の視点を興味深く伝えてくれる。

ジンメルは冒頭でこのように述べる。

そもそも少女たちが身売りするようになったのは、貧乏や、やるせない孤独が理由だったかもしれません。あるいは、純潔へのしつけが欠けていたり、また周りに悪いお手本があったせいかもしれません。けれども、彼女たちの運命が行き着く先は、普通は、筆舌に尽くしがたいほどの悲惨な状態なのです。


その上で、以下のような指摘を展開する。

この哀れな者たちは、「悦楽の乙女たち」と呼ばれますが、彼女たちが悦楽の日々を生きているような印象を与えることほど誤った言葉遣いもないでしょう。他の人にとっては悦楽かもしれない。けれども、彼女たちにとってはけっして悦楽ではありません。それとも、毎晩毎晩、暑かろうと寒かろうと、雨が降ろうとも、通りをうろついて、どこの馬の骨とも分からぬ男の餌食となることが歓びだと考える人間がいるんでしょうか。(略)。おぞましい病気の恐怖におののき、はたまた貧しさと飢えとに苦しめられ、さらには警察の手入れにおびえるといった生活が、本当に自由意志によるものだと信じるような人がいるのでしょうか。


この後にジンメルは、「高級売春のほうがもっとマシ」だと述べつつ「売春婦たちが高級であればあるほど、攻撃の矛先がゆるみます」と続けて「まるで、貧乏なのは道徳的な不正であって、道徳的な憤激を受けても仕方ないとでもいうようです。」と鋭い指摘を投げかける。

ジンメルのエッセイは、19世紀に書かれたものとは思えないほどの慧眼ぶりである。売春の背景に貧困があること、それが自由意志であるかのように受け取られること、背景にある貧困の問題が(今風に言えば)「自己責任」として見なされている時代状況を分析しながら、静かに社会を糾弾する。

彼のエッセイの中で、最も根源的な問いを投げかけているのは以下の箇所だ。

本来でしたら、その人しかもっておらず、その人のもっとも大切であるものが欲しい場合には、それを求めるほうも、自分の全人格をかけ、自分にとってもっとも大事な価値となっているものを差し出すべきです。正しい婚姻生活ではそういう関係になっています。けれども、手に入れるのに金だけ出せばいい場合には、当然ながら貧しいゆえに自分のすべてをあまりに安価に差し出す人間は軽蔑され、その人間の人格は無視されます。私たちのように地位ある者は、こうした人格の無視があまりにあっけらかんと行われるので、ときに驚いてしまう、いや逆に驚きもしないことがあります。


パパ活であろうが、売春であろうが、一般的に経済的な等価交換と見なされる。そこに人格の問題を持ち出すのはナイーブに思えるかもしれないが、ジンメルは異なる見方をする。性行為や擬似的恋愛関係に感情が介在しないことを糾弾しているのではなく、むしろその交換行為における人格・個性の欠如が、貧困など社会的・経済的諸条件によって生じていることを問題視しているのだ。

ジンメルがこの後に述べる「売春問題は、一般的な社会情勢と文化状況との関連で理解されなくてはなりません」という一文は、端的でありながらも真に迫った指摘だろう。

彼が述べるように、売春やパパ活はその社会的背景や問題の中で理解しなくてはならない。もちろん、純粋な理論のみで善悪を語ることも可能であるが、そうであっても、その規範は社会的諸条件によって規定されている。

ではジンメル以外の理論家たち、すなわち倫理学者や哲学者は「売買春が倫理的に許されるのか?」という問題に、どのような説明を与えているのだろうか?

次回から、彼らの主張をいくつか見ていこう。

 

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著者
The HEADLINE編集長。株式会社マイナースタジオを創業後、2015年に株式会社メンバーズ(東証一部)に企業売却。早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。関心領域は、メディア論や政治思想など。Twitter : @ishiken_bot
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