アフター・コロナに何が起きるか:『サピエンス全史』ハラリの見解と国際社会の変化

政治・国際関係

公開日 2020/03/24 16:49,

更新日 2020/03/25 09:28

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今月18日、筆者も出演したTV番組『AbemaPrime』において詫摩佳代・首都大学東京准教授が、「新型コロナウイルスをめぐって米中対立が拡大する中、国際協調が重要である」と指摘していた。国境を超えて拡大する感染症が、各国のパワーバランスを反映して複雑な論点を生みつつあるが、国際社会は果たしてどのように変化するのだろうか?

こうした疑問に答えているのが、『サピエンス全史』で知られるユヴァル・ノア・ハラリが、Financial Timesに寄稿した「the world after coronavirus」である。筆者は、ハラリの『サピエンス全史』について首肯しがたい部分も多かったが、アフター・コロナ論については概ね賛同できる内容であった。

そこで今回は、ハラリのアフター・コロナ論を紹介した上で、そのシナリオが実際にどちらに向かうのか、すなわち国際社会がどのように変化していくのかを考えていく。

アフター・コロナの世界

新型コロナは、2019年12月に中国・武漢市で症例が確認されてから瞬く間に世界中で拡大、3月11日にはWHOから「パンデミック相当」とする見解が示された。 感染者の拡大以外にも、アジア開発銀行によって世界経済全体の損失は最大3,470億ドルと予測されたほか、ニューヨーク株式市場は3月後半より主要指数が軒並み下落する事態となっており、世界経済への悪影響が懸念されている。

一方、新型コロナがもたらす変化はネガティブなものに留まらないという見方もある。例えば、リモートワークや働き方などのワークスタイル、そして休暇の取得方法などに変化が生まれるかもしれないという指摘やオンラインツールの普及を後押しするという指摘がある。新型コロナの終息後、リモートワークやオンラインツールの活用などは一時的な措置として終了する可能性もあるが、これらを社会に定着させる契機だと見る向きも強い。

では、国際社会はどのように変容するのだろうか。ハラリによれば、新型コロナをめぐって我々の社会は2つの選択に直面するという。1つ目は全体主義的監視社会と市民のエンパワーメントであり、2つ目は孤立主義とグローバルな連帯である。

以下では、ハラリの論を概観していこう。

全体主義的監視社会か、市民のエンパワーメントか

流行を止めるため、政府はテクノロジーによって市民を監視し、規則を破った人を罰することができる。感染症を封じ込めるための監視は、皮膚の上だけでなく、温度と血圧など皮膚の下にある個人情報にまで及ぶ。これは中国政府が実際におこなっていることであり、彼らは個人のスマートフォンを監視し、数億台もの顔認識カメラを利用し、人々に体温と病状を報告させている。

こうした世界がディストピアであることは言うまでもなく、ハラリは以下のように語る。

生体認証の監視により、ケンブリッジ・アナリティカのデータハッキング戦術は、石器時代のことのように思えてくる。すべての市民が24時間生体認証ブレスレットを着用しなければならない、2030年の北朝鮮を想像してみよう。偉大な指導者によるスピーチを聞き、ブレスレットが怒りの感情を示したならば、あなたは終わりだ。

しかしハラリは、全体主義的な監視と処罰が、感染症を封じ込めるためのガイドラインを人々に遵守させる唯一の方法ではないとする。すなわち、市民に科学的事実を伝え、彼らが公的機関を信頼するならば、ビッグブラザーの監視がなくとも正しい行動が取れるという。例えば、人々が手を洗うのは警察を恐れているからではなく、適切な知識を持っているからだ。

ただし、そのためには市民が科学、公的機関、そしてメディアを信頼している必要があるとも述べられている。過去数年間、無責任な政治家はその信頼を故意に弱めており、テクノロジーなどを活用しながら、信頼を再構築する必要があると指摘されている。

孤立主義か、グローバルな連帯か

ハラリはまた、流行とその結果として生じる経済危機のため、各国は情報共有と医療従事者の共有のような世界的な取り組みが必要だとも述べる。 経済政策や人の移動においても各国は協力をおこなう必要があるが、2008年の金融危機や2014年のエボラ流行などでグローバルリーダーの役割を担っていた米国が孤立主義を取りつつある中、「現在の流行を止めることがはるかに困難になるだけでなく、その遺産は今後も国際関係を害し続ける」だろうと言う。

ハラリの論は、概ね世界中で好意的に受け止められている。Twitter創業者のジャック・ドーシーから各国のジャーナリストまで、傾聴に値する指摘だと受け止められている。しかしハラリの論では、アフター・コロナの世界がどちらに転ぶかが結論付けられていない。果たして私たちの世界は、市民がエンパワーメントされ国際協調が進むシナリオに向かっていくのだろうか、それとも監視された市民と孤立主義が蔓延するディストピアが待っているのだろうか。

この答えを見ていく前に、私たちの世界が現在いる場所を確認しておこう。

リベラルな国際秩序の終焉

第二次世界大戦後の国際社会は、リベラルな国際秩序と呼ばれるシステムによって形作られている。このシステムは、リベラル・デモクラシー(自由主義)と経済的相互依存、国際制度を基軸としており、ジョン・アイケンベリーは「開放的であり、緩やかにルールに基づいた秩序」だと指摘する。1989年のベルリンの壁崩壊によって、世界は米ソ二極体制から米国のみが主導する時代を迎えた。共産主義という強力なイデオロギーが亡くなった21世紀、民主主義やリベラルな国際秩序といった概念が世界中に浸透していくのは、もはや時間の問題だと思われていた。

ところが21世紀に入って、この戦後秩序に綻びが見られるようになった。アフガニスタン戦争からイラク戦争まで国際社会を導く超大国としての米国の在り方に疑義が唱えられるようになり、アルカイダやISなどイデオロギーを持った非国家主体が出現しはじめ、強大かつ広範な影響力を持つイスラム教の存在が無視できなくなったことなどが挙げられる。そして驚くべきことに、米国やEUなどリベラル社会の内部から、そのイデオロギーに挑戦する者たちが現れた。

トランプの出現やBrexitは、リベラルな国際秩序への挑戦者である中国やロシアを勢いづけた。現在の中露は共産主義イデオロギーではなく、アザー・ガットが「権威主義的資本主義」と呼ぶシステムに特徴づけられている。このシステムは、経済的には資本主義を導入しつつ、政治的は権威主義体制を敷いている。なぜ中露は幾度もリベラル社会に挑戦しようとするのかには多くの見解があるが、少なくとも現在が彼らにとって最良の時期であることは間違いない。

2000年代に入って徐々に綻びを見せてきたリベラルな国際秩序は、欧米内部からの挑戦者と権威主義国家による攻撃で、いまもっとも脆弱な時期を迎えている。

アフター・コロナの国際社会

歴史から現在を俯瞰すると、ハラリの主張する2つの選択には限りなく悲観的にならざるを得ない。

まず米国は、もはやリベラルな国際秩序にコミットする意思はなく、孤立主義の傾向を強めている。「世界の警察官」として内政干渉・覇権主義から距離おいた米国を想像することは難しいかもしれないが、むしろ彼らがアジアや中東政治にコミットしていたのは、わずか7-80年の話である。むしろシリアが今世紀最大の人道危機に陥っているにもかかわらず、前オバマ政権は人道的介入ではなく内政不干渉を選択した。米国の孤立主義は、決してトランプの気まぐれによるものではなく、長い戦争に辟易した米国の合理的選択と言えるだろう。

米国の最も強い同盟国である英国もまた、Brexitを経て自国ファーストに舵を切りつつある。フランスやドイツ、カナダなどは未だにリベラルな国際秩序の良心であるが、メルケル以後のEUがそれを護持できるかは甚だ疑問である。

各国が孤立主義的傾向を強めた時、ハラリの主張する「全体主義的監視社会か、市民のエンパワーメントか」という問いにも答えが見えてくる。中露は全体主義的監視社会を強めるだろうし、欧米諸国の中にも中国のテクノロジーを採用することで監視社会を実践する国々が出てくるだろう。

全体主義的監視社会の予期

全体主義的監視社会を予期させる、2つの論点が存在する。

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著者
The HEADLINE編集長。株式会社マイナースタジオを創業後、2015年に株式会社メンバーズ(東証一部)に企業売却。早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。関心領域は、メディア論や政治思想など。Twitter : @ishiken_bot
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