『マリー・アントワネット』や『ジョゼフ・フーシェ』等の著書で知られるオーストリア出身の作家シュテファン・ツヴァイクは、1942年、ナチ政権からの亡命先で客死を遂げた。彼の死後出版された回想録は『昨日の世界』と題されている。かつて平和だった時代、コスモポリタンな共栄を信じることができた世紀末ウィーンの情景を「昨日の世界」として回顧した随想である。
2019年12月以降、我々の生活は一変した。新型コロナウイルスの感染者数の推移は今なお予断を許さず、長引く外出制限は一向に出口が見えない。経済活動の停止は、景気の拡大局面に終止符を打ち得るインパクトを有しており、すでに事業主やフリーランスを中心として、市民生活に甚大な影響を及ぼしつつある。格安航空券で世界中を飛び回り、経済成長の持続を素朴に期待することのできた時代は、もはや「昨日の世界」となってしまったのかもしれない。
こうした先が読めない状況の中、識者は何を語っているのだろうか。とりわけ、新型コロナウイルスの被害が顕著な欧州の知識人たちはどのような言葉を発しているのだろうか。彼らのメディア上における発言は、COVID-19以後の来たるべき情勢を予測するための指針となり得るはずだ。
トマ・ピケティ「必要なのは、オルタナティブな経済制度がいかなるものであるかを説明することだ」
ベストセラー『21世紀の資本』で知られ、不平等に主な関心を寄せる経済学者のトマ・ピケティは、フランスの左派週刊紙 L’Obs のインタビューに答えて「『経済体制を変えなければならない』という言表では不十分だ」と述べる。「必要なのは、オルタナティブな経済制度がいかなるものであるかを説明することである」。ピケティは歴史的事例を参照しながら、COVID-19以後の経済制度に関連して将来的に起こりうるシナリオを考察する。