中央アジアから見たウクライナ問題

政治・国際関係

公開日 2014/03/23 09:08,

更新日 2014/03/23 09:08

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編集部注:本記事は翻訳家・平井和也氏の寄稿。同氏は、人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳をおこなっている。

前回の寄稿ではイスラエルから見たウクライナ問題というテーマを扱ったが、今回は中央アジアから見たウクライナ問題という視点に注目してみたい。

英国のシンクタンクである王立国際問題研究所(チャタムハウス)で中央アジア問題を専門とするアソシエイト・フェローであるアネット・ボーア氏の論考“Crisis in Ukraine: The View from Central Asia”(ウクライナ危機:中央アジアからの視点)について、以下にまとめてみたい。(今月11日に同研究所のサイトに掲載。)

なお、中央アジアとは、旧ソ連の構成国だったウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン の5ヶ国で構成されている地域を指す。

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Photo : http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol94/

 

ウクライナの再現を意識する中央アジア

中央アジアの地元メディアでは、ウクライナ情勢について広く議論されていないが、現地の多くの人たちにとっての共通の関心は、中央アジアでもウクライナと同じような事態が発生する可能性はあるだろうかということだ。これは当然の問題意識だ。

モスクワに本部を置くサイトである「Centrasia」のある評論家が冷笑的に、次のように述べている。「ヤヌコビッチは悲喜劇的な人物だ。彼は現在の中央アジアの国々の大統領たちにそっくりだ」

プーチン大統領がクリミアのロシア系住民が危険にさらされているということを口実にクリミアに軍事介入した時、中央アジアの指導者たちは間違いなく居住まいを正し、その状況を注視していたことだろう。

 

5年間に2回の革命を経験したキルギスタン

たった5年の間に2人の国家指導者をその地位から失脚させた革命経験(2005年と2010年)を持つキルギスタンは、混乱のウクライナ情勢を比較的冷静な目で見ている。キルギスタンから発せられる報道はささやかな自己満足を表しているとさえ言えるかもしれない。つまり、キルギスタンの革命経験はウクライナにとって有効な教訓をもたらしているかもしれないという感覚だ。

宇山 智彦「クルグズスタン(キルギス)の革命」(2005年の革命についての論考)

宇山 智彦「クルグズスタン(キルギス)の再チャレンジ革命:民主化・暴力・外圧」(2010年の革命についての論考)

 

ジレンマを抱えた中央アジアの独裁的な大統領たち

中央アジアのほとんどの独裁的な大統領にとって、不満を爆発させた民衆が中央広場を占拠し、国家の指導者をその地位から追い落とし犯罪を犯した独裁者に仕立て上げるという事態は、真の恐怖を引き起こすものだ。キルギスタンの指導者たちにとっては、今回のウクライナで起こった反政府デモとそれによる政権転覆は当然のことに思えるかもしれないが、タジキスタンのエマムアリ・ラフモン大統領、ウズベキスタンのイスラム・カリモフ大統領、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領の3人は20年以上にわたって権力の座に就き続けている。

トルクメニスタンのグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領は2007年に大統領に就任しているが、その政策は誇大妄想狂として有名なサパルムラト・ニヤゾフ前大統領とほとんど変わらないくらいの独裁色の強いものだ。

ウクライナ危機は、中央アジアの独裁的な指導者たちをジレンマに陥れている。つまり、ロシアのクリミアでの武力行使を懸念している一方で、ロシアの領域にある独立国の腐敗した独裁的な指導者を権力の座から引きずり落とした市民の反乱を過小評価したい気持ちでいっぱいなのだ。

 

ロシアに脅威を感じている中央アジア3国

特にウズベキスタンのカリモフ大統領は、旧ソ連邦の共和国におけるロシアの高圧的な行動に対して反感を抱いており、旧ソ連共和国7ヶ国で構成される集団安全保障条約機構(CSTO)へのウズベキスタンの加盟を2回も取り消したことがある。ウズベキスタはロシアに主権を侵害される危険性があることを警戒しており、外務省は声明を発表し、ロシアのクリミアへの軍事介入に対して深い懸念を抱かずにはいられないと明言している。

クリミアに展開するロシアの黒海艦隊を取り巻く最近の情勢を見て、タジキスタンとキルギスタンの指導者は自国の領土内にロシアの軍事施設を抱えていることがどれだけ危険なことかを間違いなく実感していることだろう。ロシア国外における最大の陸軍基地であるロシア陸上部隊第201車輌化ライフル師団はタジキスタンに活動拠点を構えており、キルギスタンの首都ビシュケクから南に約30kmのところにはロシアのカント空軍基地もある。

 

多くのロシア系住民を抱えるカザフスタン

カザフスタンのナザルバエフ大統領は支持率の点で他の中央アジアの大統領を大きく引き離しており、国内外で多くの支持を集めているが、カザフスタンは理論上では今回のウクライナ情勢を憂慮する最大の理由を抱えている。というのも、カザフスタンはロシアと6,846kmにわたる国境線を接しているだけでなく、特に北部に住むロシア系住民の人口がウクライナに次いで第2位の多さなのだ。

具体的には2009年の国勢調査によると、ロシア系住民はカザフスタンの全人口の約25%を占めている。特にこのロシア系住民の人口構成という点は、ロシアがクリミアに軍事介入する理論的な根拠となったということを考えると、重要な要素になってくる。

 

国によって異なる中央アジアのメディア報道

ウクライナ情勢に関する中央アジアの報道は国によって異なっている。中央アジアの中で比較的報道管制が厳しいトルクメニスタンとウズベキスタンでは、ウクライナ情勢に対する公式のメディア報道は最小限に抑えられているか、または全く報道されていないかのどちらかだ。

3月7日に行われたトルコの外務大臣との合同記者会見の場で、トルクメニスタンの外務大臣はウクライナ情勢について一切コメントすることを拒否している。

中央アジアの中で経済発展を遂げたカザフスタンでは、もっと多様な反応が見られる。民間の放送局の中にはロシア支持の姿勢を表明しているところがある一方で、政府当局は首都アスタナのロシア大使館前で行われた小規模なデモを即座に鎮圧する動きを見せている。このデモの参加者たちは、「昨日はアブハジアとオセチア、今日はクリミア、明日はカザフスタン北部!」と書かれた旗を掲げていた。

キルギスタンの活動家は政府当局に対して、ロシアにウクライナの主権侵害をやめるように働きかけるべきだと強く訴えている。

 

ロシア主導の中央アジア経済統合構想

ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの3国間の関税同盟が成立したことを考えると、政治的な理由でロシアとウクライナの間で貿易を巡る争いが起こった場合、カザフスタンにも直接的なドミノ効果が働くことになる。これは、昨年8月にロシア連邦消費者保護監督庁がカザフスタン政府に対して、ウクライナの首都キエフに本部を置く菓子製造会社のチョコレートなどを禁止するように公式に要請したことからも明らかだ。

ロシアのウクライナへの軍事介入に関して、プーチン大統領にとって意図していなかった結果が一つある。それは、中央アジアのロシア懐疑論者がロシア主導の地域統合推進に反対する上で新たな議論の種を生み出したということだ。

実際、ロシアのクリミア占領によって、カザフスタンがロシアとベラルーシと並んで3国で「ユーラシア経済同盟」(EUに対抗する経済圏を目指した旧ソ連圏の構想)を発足させるという問題に対して既に激しい反発の声が上がっている。カザフスタンの同経済同盟反対派のロビーグループは3月4日、カザフスタンが「新しい帝国の付属物」にならないようにするためにアルマトイ(旧首都)で公開討論会を開く計画を発表した。

しかし、そのような反対の声がある一方で、同じ3月4日にカザフスタンの副首相は、ロシアとベラルーシとの統合プロセスは速やかに進んでいると発表している。

 

これからもウクライナ情勢を注視する中央アジア

ロシアとウクライナのこう着状態が続く中でこれからどんな紆余曲折を経るにしても、中央アジアは腐敗したヤヌコビッチ前大統領のような指導者たちと市民は、これからも間違いなくクリミアおよびウクライナのその他の地域の情勢を注視し続けることだろう。

独裁的な大統領が権力を握っているという共通点がある中央アジアでも、それぞれの国で微妙な事情の違いがある中で、これからロシアおよびウクライナとどのような関係を築いていくのかが注目される。

【参照資料】

Chatham House: Crisis in Ukraine: The View from Central Asia

 

Photo : ru.wikipedia.org

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著者
平井和也 | 1973年生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。人文科学・社会科 学系の翻訳者(日英・英日)。F1好き。 Twitter:@kaz1379/ブログ:http://entrans221.blog38.fc2.com/
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