デジタル刑務所とは何か?性犯罪者の身元公開で議論

公開日 2020年12月07日 02:15,

更新日 2020年12月10日 03:10,

有料記事 / 社会問題・人権・環境

*この記事には、性的暴行の説明・関連する情報が含まれています。

大規模なデジタル性犯罪として日本でも話題となったn番部屋事件に関連して、韓国国内で話題を集めていたウェブサイトがある。2020年6月から9月頃まで開設されていた、デジタル刑務所だ。

デジタル刑務所は、n番部屋事件に関与していた容疑者をはじめ、数々の性犯罪者や殺人犯の名前や顔写真、住所、職場などの個人情報を公開していた。

デジタル刑務所は、一体どのようなウェブサイトであり、何が問題となっていたのだろうか。

デジタル刑務所の概要

デジタル刑務所のスクリーンショット(2020年09月26日時点)

デジタル刑務所とは、韓国で開設されたウェブサイトだ。性犯罪や幼児虐待、殺人などの重刑にあたる容疑者の顔写真や住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報や罪名、裁判状況などが公開されていた。

デジタル刑務所が開設されたのは2020年3月頃とされており、初期はウェブサイトではなくInstagramで運営されていた。同年3月に話題となったn番部屋事件や、7月に起こっていた世界最大の児童ポルノサイト「ウェルカム・トゥ・ビデオ」事件などに関連して、注目を集めた。デジタル刑務所の前身となるInstagramアカウントは、n番部屋事件の運営者の1人である「博士」や、創設者の「ガッガッ」などの個人情報について、TVや新聞などの報道機関よりも早い時期から公開して、フォロワーを増やしていった。

しかし5万人までフォロワーを集めたところで、アカウントは通報を受けて削除された。また、n番部屋などの犯罪に関与したとされる容疑者の情報を提供した一部の人々は、告訴された。

運営者は、アカウントの削除と情報提供者の告訴を見て、2020年6月頃にウェブサイトの開設を決意したという。

Instagramからウェブサイトへ移行した後、デジタル刑務所では、n番部屋以外の性犯罪者や、殺人犯の情報も公開しはじめた。

デジタル刑務所は、n番部屋の報道が大きくなると共に、容疑者の個人情報が公開されないことに怒るネチズン(ネットユーザー)から大きな支持を受けた。「デジタル刑務所の運営者を罰する以前に、性犯罪のための強力な処罰がおこなわれる必要がある」として、違法性を認識しつつもデジタル刑務所を支持するも現れた。また「性犯罪者への寛大な処罰こそが問題だ、という世論」も一部で沸き起こった。

デジタル刑務所は、n番部屋に関連する裁判の判決を下した裁判官などの個人情報も公開しながら、規模を拡大していった。6月に設立されたウェブサイトは、9月までに100件以上の個人情報を公開した。

無関係な人々への被害と問題点

しかし、当初ネチズンのあいだで注目を浴びていたデジタル刑務所は、次第に多くの批判を浴びるようになる。デジタル刑務所は、犯罪の被疑者だけでなく、性犯罪の疑いがある人の情報も任意で公開していたが、まったく見に覚えのない罪を着せられてしまい、個人情報が公開されてしまう事態が起きたからだ。

1人は、医学部教授のチェ・ジョンホ氏だ。偽装販売者に接近して、n番部屋のデータ、いわゆる性搾取物を購入しようとしたという容疑で、デジタル刑務所に携帯電話番号や写真、職場などの個人情報が載せられた。警察による捜査の結果、これらの容疑は事実でないことが証明されている。

そしてもう1人が、ソウルの高麗大学に通っていた20歳の大学生のA氏だ。彼は、知人の写真をポルノ写真と合成してほしいと誰かに依頼したとして、デジタル刑務所に写真や通っている大学、携帯電話番号などの個人情報が公開された。見に覚えのない性犯罪の疑いをかけられたA氏は、自身の通う高麗大学のコミュニティに「そのメッセージをやりとりしたことがなく、録音された音声も本人ではない」という釈明文を掲載した。A氏は、無実を主張していたが、2020年9月に自らの手で命を絶った

2020年7月の段階では、罪のない被害者が発生する可能性について指摘されており、この時運営者は、「確かな証拠がある場合にのみ、個人情報を登録」していると反論、「デジタル刑務所の運営を続ける計画だ」と述べていた。しかし、情報の入手経路や正確性など信頼できる根拠がない中で、デジタル刑務所の被害者が出てきたことで、国民からの批判と、警察による捜査は一気に加速することとなった。

デジタル刑務所の問題点

そもそも、情報の正確性に限らず、デジタル刑務所は違法な存在だ。性犯罪者であろうが、法治国家において私刑(リンチ)は許容されていない。「敏感な性犯罪者の身元公開を、私的領域で果たそうとする現実自体が、もはや正常ではない」と指摘されている他、「私的制裁と報復は、法治主義の根幹を揺るがす行為だ」との強い批判もある。

性犯罪者の個人情報を違法に公開した場合、5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金刑に処される。n番部屋の首謀者だけでなく、閲覧者についても身元開示を求める嘆願には200万人以上が署名しているが、これを受けてデジタル刑務所の運営者は自らの立場を擁護している。しかし、法的な正当性がないまま正義感が暴走している事例として、国外でも批判を浴びている。

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著者
東京都出身のフリーライター。関心領域はジェンダー、女性の人権など。
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。Abema TV『ABEMAヒルズ』、日テレ系『スッキリ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
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