日本時間11月14日の朝方に、パリで発生した同時多発テロ事件。現在、新聞によると犠牲者の数は少なくとも128人に上ると言われており、深刻な事態となっています。(編集部注:日本時間15日22:54現在、朝日新聞によれば129人)
一方で日本語圏のSNSでは、日本の既存メディアにおける、同テロ事件に関する報道の少なさを問題視する声が、津田大介氏をはじめとする著名人から相次いで投稿されていました。
では、実際に海外のメディアはどのように今回のテロ事件の発生を伝えていたのでしょうか?
ニューヨーク・タイムズが、テロ発生当時のアメリカのメディアの様子を詳細に記している記事を出していますので、その内容を元に、アメリカ国内での報道の実態を見ていきたいと思います。
CNN
CNNで同テロ事件が一番最初に伝えられたのは、アメリカ東部時間11月13日の午後4時過ぎ。
この時間帯は、CNNの著名アンカーの1人であるジェイク・タッパー氏が司会を務める番組が放送されていました。13日には、大統領選挙の続報や、空爆で死亡した可能性があるとされているジハーディ・ジョンに関するニュースが放送される予定でした。
最初は、「パリの数箇所で銃撃事件が発生している」という速報が流れていたのみ。
そんなCNNがパリについての報道を再び行ったのは4時24分。ここから、パリのテロが大ニュースとして報道され、特別な報道体制が敷かれることになります。
CNNの番組編成担当部長を務めるマイケル・ベース氏は、「これは、最初の一報で報じられていた時よりも、はるかに深刻な事態だと感じ、すぐにどのように報道すべきかを考えた」と言います。
その後、CNNはパリ支局のジム・ビターマン氏を現地へ派遣。その後、ヨーロッパの支局としてはパリ支局よりも大規模なロンドン支局からも、特派員が続々と現地入り。緊急特番が急遽編成され、放送されていきました。
ビターマン氏は「土曜日の朝までには、70人をパリに派遣して報道できる体制を強化したい」と語っています。
また、「これはCNNにとってはシャルリー・エブド襲撃事件以来、最も重要な国際ニュースだ」と語っており、CNNインターナショナルのクリスティアン・アマンプール、CNN USAからはアンダーソン・クーパー、エリン・ブルネットなど、局を代表するアンカーを続々と現地へ派遣しているということです。
MSNBC
NBC系列のニュース専門チャンネルMSNBCでは、事件発生直後から特番を放送。
この特番のアンカーを務めたのは、「NBCナイトリーニュース」の元アンカーで、番組内での虚偽発言をきっかけに同番組を降板したブライアン・ウィリアムズ氏です。
虚偽発言騒動で数ヶ月間自粛をしていたウイリアムズ氏ですが、この9月からは、MSNBCに移籍し、特番や緊急ニュースを担当していました。
13日は、単独で緊急特番のアンカーを5時間務めたウイリアムズ氏は、午後9時以降にも、MSNBCのアンカー、レイチェル・マドーの番組にゲスト出演しています。
地上波のNBCでは、土曜日の朝から特別番組が放送されています。
FOXニュース
FOXニュースでは、アンカーのシェパード・スミス氏を中心にテロ事件の詳細を放送。
緊急ニュースで特派員も現地にいないため、イギリスのSky Newsから流れるパリの映像を中心に放送。
また、事件現場となったスタジアムに居合わせた観客の中に、FOXニュースのコメンテーターであるヘラルド・リベラ氏の娘が含まれていたため、親子間での大変感傷的な電話インタビューが放送されました。
FOXニュースでは、土曜日の朝までに何人かのアンカーをパリに派遣する予定です。
一概に比較できない日米の報道
このように、同時多発テロ後の動きをみる限り、アメリカのメディアが日本のメディアよりも、より早く、詳しく報道していることは確かだと思います。
しかしながら、テロが発生した時、アメリカは金曜日の午後4時過ぎで、日本は土曜日の早朝だったということも考慮する必要があるでしょう。これがもし、日本でも金曜日の夕方であれば、状況はまた違っていたかもしれません。
もちろん、日本が欧米諸国と比較して、ニュース専門チャンネルが不充分であることは事実です。そのため、今回の報道に限らず、「ニュースを24時間体制で発信していく仕組みを日本でどうつくるのか?(あるいは、そもそもそれは可能であるのか、必要であるのか?)」という点は、考えていくべき問題だと思います。
そして最後に、例えアメリカであっても、CNNのように国際的なネットワークを保持したテレビ局は、ある意味では特殊(それこそがCNNの強み)だといえます。
日本の報道をネットか新聞か、そしてテレビかという点も含め、それらを一概に括った上で、例えばCNNの報道と比較することは困難でしょう。
英語でニュースにアクセスできることの優位性
アメリカのテレビ局も、その多くが現地に記者を派遣することができず、また事件発生直後のソーシャルメディアの様子も伝えることができませんでした。その多くが、フランス語で発信されていたからです。
しかしながら、パリにいる外国人観光客などに向けて、多くのパリ市民が英語で「困っていたらウチに泊まりに来て下さい」と呼びかけるなど、英語という言語を介しての現地から世界への発信も多くありました。
また、フランス発の英語国際放送「France 24」のライブストリーミングがソーシャルメディアを通じて広がり、13日には多くの人が視聴しています。
こうした点から考えても、英語か日本語か、そしてフランス語かという言語に依拠して、報道のスケールやニーズに差異が生まれてくることは明らかです。また、同一のニュースであっても日本ならではのニーズ(安否確認など)があることや、言語に規定された差異の背後にある、西欧とその他の地域の関係に目を配ることも必要でしょう(同時期にはレバノンでもテロが起きていました)。
参考記事
http://mainichi.jp/select/news/20151115k0000m030076000c.html
http://www.nytimes.com/2015/11/15/business/media/paris-shooting-attacks-news-media-coverage.html
注:本記事は、清田氏による記事について、本誌編集部が一部修正したものです。