Yuriko Koike(Kantei, CC BY 4.0) , Illustration by The HEADLINE

小池百合子は何をしてきたのか?7つのゼロの達成状況を振り返る

公開日 2024年06月06日 20:15,

更新日 2024年06月17日 14:02,

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この記事のまとめ
💡小池百合子は何をしてきた?2期8年の都政で達成したこと

⏩ 8年前に掲げた7つのゼロ、それぞれの達成状況とは?
⏩ 途中から言及されなくなった目標も
⏩ 出生率低下や金融セクターの地位低下も課題に

2024年の東京都知事選挙(6月20日告示、7月7日投開票)が1ヶ月後に迫る中、立憲民主党の蓮舫参議院議員や、広島県安芸高田市の石丸伸二市長ら50人以上が立候補の意向を表明している(6月16日現在)

去就を明らかにしていなかった小池百合子東京都知事も6月12日、3選を目指して出馬する意向を固めた。小池氏は2016年、舛添要一元都知事の辞職に伴っておこなわれた都知事選で当選し、知事に就任した。同氏は2020年の選挙でも勝利し、2024年7月末で任期を満了する。

2020年からのコロナ禍においては、3密(密閉・密集・密接)の回避を打ち出すなどしてきた小池氏だが、その他にどのような政策公約を掲げ、そしてそれらはどの程度達成されてきたのだろうか。

小池百合子は何をしてきたのか

小池氏は、2016年の都知事選で7つのゼロを公約に掲げた。7つのゼロとは、同氏が掲げた27の公約のうち、

  1. 都道電柱ゼロ
  2. 多摩格差ゼロ
  3. 待機児童ゼロ
  4. 介護離職ゼロ
  5. 残業ゼロ
  6. 満員電車ゼロ
  7. ペット殺処分ゼロ

のことを指している。後述するように、2020年に掲げた東京大改革2.0では言及されなくなった目標もあるが、それぞれの達成具合はどの程度なのだろうか。

小池百合子7つのゼロの達成度合い(筆者作成)
小池都知事7つのゼロの達成度合い(筆者作成)

達成したこと:ペット殺処分ゼロ

7つのゼロのうち、現在までに達成された政策は、ペット殺処分ゼロだ。東京都は、動物の殺処分数が2018年度に初めてゼロ(犬は2016年度、猫は2018年度から)になったことを2019年4月に発表している。その後、2023年10月の報道発表で、動物の殺処分ゼロを現在も継続しているとした。

ただ、東京都が設定している殺処分の基準については注意が必要だ。都は動物の致死処分について、大きく3つの種類を設けている

①:苦痛からの解放が必要、著しい攻撃性を有する、又は衰弱や感染症によって成育が極めて困難と判断される動物について、動物福祉等の観点から行うもの
②:引取り・収容後に死亡したもの
③:①②以外の致死処分

このうち、都が殺処分と定義しているのは③のみであり、①と②の致死処分については殺処分としてカウントされていない。2022年度において、①については104頭、②については96頭の合計200頭の動物が致死処分となっている

①や②に該当する致死処分の数までゼロを目指すべきかについては議論があるため、本記事ではその望ましさについては問わない。ただ、一口に殺処分と言っても、「動物福祉等の観点から」なされる致死処分までゼロになったわけではなく、国の基準では①と②に該当するケースも殺処分としてカウントされている(*1)

(*1)2022年度には、静岡県で国の基準における殺処分数ゼロが達成された

達成していないこと

次に、他の6つの目標については、現在まで達成されていない、あるいは達成の基準が不明なため、その判断が困難な状態だ。ただ、改善が見られた項目もあり、その達成度合いにはグラデーションがある。

都道電柱ゼロ

まず、都道電柱ゼロは、現在道路上にある電柱を地中化する試みであり、少しずつ前進している。

無電柱化には、首都直下地震や台風などの自然災害による電柱倒壊、それに伴う大規模停電を防ぐ目的ある(*2)。2011年の東日本大震災では、2万8,000本の電柱が倒れ、救助活動の妨げになったとされている

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小池氏は都知事就任前の2014年時点で、東京大学大学院の松原隆一郎氏とともに、電柱が林立する日本の空は “電線病” だと指摘していた。2015年には共著『無電柱革命』(PHP新書)を発表し、無電柱化は「都知事になる前からこだわってきた」政策だとしている

都知事に就任してからは、2018年6月に全国の都道府県で初めて無電柱化推進条例を制定し、都内で新設の都道における新規電柱はゼロとなった。

ただ、2019年度末時点で、都道において約5万5,000本、区市町村道において約63万7,100本の電柱が設置されている。 既存の道路を含めると、無電柱化の整備率(第一次緊急輸送道路)は2022年度時点で 41% だった


無電柱化整備率(第一次緊急輸送道路)(東京都データより筆者作成)

現状無電柱化が達成されていないとはいえ、小池氏自ら認めているように、これは費用や時間がかかる取り組みだ。無電柱化を達成する時期として2040年代を想定していること、現在掲げている政策では、無電柱化の「エリア拡大」や「促進」が謳われていることを踏まえると、小池氏が、そもそも本任期中での “無電柱化達成” を現実視していたとは言えないだろう。

(*2)この他、安全で快適な歩行空間の確保、良好な都市景観の創出という目的からも無電柱化が目指されている。

多摩格差ゼロ

次に、多摩格差ゼロについては、具体的にどの格差を是正するか達成の基準が不明だった。多摩地域と23区の格差については、高度経済成長期の1960年代から認識され始め(当時の都知事は東龍太郎)、1967年に都知事に就任した美濃部亮吉(任期:1967-1979)によって、実質的な取り組みが開始したと考えられている

格差是正の達成基準が不明だったとはいえ、23区と多摩地域ではいくつかの差が見られる。

たとえば、格差の1つとして取り沙汰されるのが、学校給食費の無償化だ。2024年度から23区全てで実施する方針が示された一方、多摩地域の自治体では、負担の大きさから実施に向けた対応が分かれている(*3)

現在の小池氏の政策には、2016年に掲げていた「多摩格差ゼロ」の文言は存在しない。この点について尾崎あや子都議(日本共産党)は、「この公約を投げ捨てています」と非難する

とはいえ、2023年度には「多摩のまちづくり戦略」を策定し、生産拠点の国内回帰に際しての誘致強化や、英語村の開設などで多摩への言及は見られる。その他、多摩都市モノレールを新青梅街道上に延伸する計画も進んでおり、現時点で約1,030億円の事業費を見込み、2030年代半ばの開業を目指している

(*3)東京都は2024年度予算において、公立学校の給食費負担軽減事業として、239億円を割り当てた。ただ同時に、「学校教食費の在り方は全国共通の課題であり、本来は、国の責任と財源において無償化を進めていくべきものである」として、本予算は「国の方策が講じられるまでの間」の支援と位置付けた。

待機児童ゼロ

待機児童ゼロについては、完全には達成されていないが、着実な減少が見られた。具体的には、保育の待機児童数(*4)が2017年度の約8,500人から、2023年度には286人にまで減少している


保育の待機児童数(各年度4月1日時点)(東京都データより筆者作成)

2016年の所信表明において、「喫緊の課題」としてきた待機児童を減少させるために、小池氏はいくつかの政策を実施した。たとえば、認可外保育施設の整備・改修に際して補助金を出すなどしている。

(*4)待機児童には、保育とは別に学童の待機児童が存在しており、2023年度時点で約3,500人いるという

小池氏のアピール方法に対する疑義

一方、待機児童の減少について、小池氏の実績アピールの仕方には疑義が呈されたこともある。

小池氏は自身のサイトにおいて、待機児童数が「2019年4月1日時点で、四半世紀ぶりの低水準」である3,690人になったと説明している他、2020年9月の所信表明においても「本年4月1日現在の都内の待機児童数は、30年ぶりの2千人台となる2343人まで減少いたしました」としている

こうした説明について、大山とも子都議(日本共産党)は、2020年3月24日の都議会予算特別委員会の場で、小池氏に対し次のように質問した。

知事に伺います。四半世紀前の待機児童の定義と現在の定義が違うことを知事はご存じで、この発言をしたのでしょうか。

これに対し、小池氏が「平成14年(引用者註:2002年)から改正をされたということにつきましては承知をしております」と回答した(*5)。ここで言う改正とは、当時の小泉純一郎内閣が掲げた「待機児童ゼロ作戦」の一環でなされた変更を指している。

大山都議は「昨年(引用者註:2019年)4月の待機児童数について、現在の定義の人数と、平成14年度、2002年度以前の定義での人数を示してください」と続けた。内藤淳福祉保健局長(当時)は、国の定義を参照した結果として、次のように説明している。

国の保育所等利用待機児童数調査要領(*6)におきましては、認証保育所など地方単独保育施策の利用児童や、ほかに利用可能な保育所等の情報提供を行ったにもかかわらず、特定の保育所等を希望している者などは待機児童から除くとされておりまして、この要領に基づいて算出したものが、平成31年(引用者註:2019年)4月時点の都の待機児童数3,690人となってございます。

そのうえで内藤氏は、2002年度以前の定義で試算した場合、現在の待機児童の数は2万人を超えるが、これは実態を的確に反映したものではないとする認識を示した。

今、委員お尋ねの旧定義の考え方で仮に試算した場合、待機児童数は2万2,864人となりますが、この中には、認証保育所を利用している児童なども含めることになり、多様な保育サービスが利用されている現在の実態を的確に反映するものとはなっていないものと認識してございます。

待機児童の定義のあり方ついては本記事で議論しないが、少なくとも、旧定義と新しい定義で算出された待機児童の数を単純に比較することはできない。待機児童数が着実に減少していることは事実だが、小池氏のアピールの仕方がミスリードな点には注意が必要だ。

(*5)読みやすさのため、引用者が一部数字の表記を漢数字から算用数字に改めている。以下同様。
(*6)厚生労働省によれば、特定の教育・保育施設を「現在利用しているが、第1希望の保育所でない等により転園希望が出ている場合」や、「他に利用可能な特定教育・保育施設又は特定地域型保育事業等があるにも関わらず、特定の保育所等を希望し、保護者の私的な理由により待機している場合」などは、待機児童としてカウントされない。

介護離職ゼロ

介護離職ゼロについては、改善するよりもむしろ後退している。

5年に1度おこなわれる総務省の就業構造基本調(2022年実施)によれば、2022年9月までの過去1年間において、介護・看護離職した者の数は、東京都で1万4,200人にのぼった。これは、2017年9月までの過去1年間で介護・看護離職した8,200人を上回る数字だ。

介護や看護を理由に離職した労働者の職場復帰を支援するため、東京都は2020年にジョブ・リターン制度を整備し、一定の基準を満たした中小企業に対し1社あたり20万円を支給してきた。また、介護休業取得応援事業として、介護中の雇用を継続する環境整備を行った企業に対し、取得日数に応じた奨励金を支給している。

またこの間、介護サービス基盤の充実化を進めた結果として、特別養護老人ホームの定員数は着実に増加を続け、2017年度の約4万7,000人から2022年度には約5万3,000人にまで増えた。都は、2030年度までに6万4,000人分の定員確保を目指している。


特別養護老人ホームの定員数(東京都データより筆者作成)

ただ、こうした施策も足元では十分な効果を発揮しなかったと考えられ、介護離職ゼロの達成は果たされていない。

残業ゼロ

残業ゼロについても、後退した。東京都庁職員の超過勤務時間(1人あたり月平均)は年々増加し、2017年度の13.3時間から、2022年度には16.8時間にまでのびた。


東京都職員の超過勤務時間(1人あたり月平均)(東京都職員「ライフ・ワーク・バランス」推進プランより、筆者作成)

小池氏は知事就任後から、都庁職員に対する20時完全退庁、部局ごとの残業削減マラソン、管理職が職員のワーク・ライフ・バランス(*7)を応援するための行動目標を宣言するイクボス宣言など、様々な施策を打ち出してきた。

しかし、2019年に関東を直撃した台風19号、新型コロナ、東京オリンピック・パラリンピックといった出来事の連続によって、都庁職員の勤務時間がのびていることを小池氏自身も認めており、「すみません」と謝罪している。

対策として打ち出されたのが、2021年に策定された東京デジタルファースト推進計画だ。元 Yahoo! 会長の宮坂学副知事のもと、2023年3月時点で、行政手続きの約 79% がデジタル化されたという。ただ、宮坂氏が指摘するように、都全体のデジタル化を成功させようとするのであれば、都庁のみならず62の市区町村の成功なしには、その目標は達成されない。

いずれにしても、舛添要一氏が都知事を務めていた2015年に打ち出された東京都職員のワーク・ライフ・バランス推進、および小池氏が言う「残業ゼロを死語にする」取り組みは道半ばという結果に終わっている。

(*7)東京都では現在、ワーク・ライフ・バランスをライフ・ワーク・バランス(人生が先んじて優先される)としているが、本記事では前者の表記で統一する。

満員電車ゼロ

満員電車ゼロについては、コロナ禍において一時的に緩和され、現時点でコロナ前ほどの水準には達していない。

国土交通省の調べによれば、東京圏の鉄道混雑率は2022年度の 108% から、2023年度には 123% に上昇したが、これは2019年度の 163% に比べれば低い水準だ。

小池氏の知事就任後、公約で掲げられていた2階建通勤電車の導入促進は進展が見られていない。ただ、テレワークや時差出勤を促すスムーズビズを推進し、2017年から開始した時差Bizには、現時点で約6,000の企業と団体が参加している。テレワーク導入企業の割合は、2017年の調査時に 6.8% だったが、2023年には 60.1% にまで増えた。

この他、線路の増設をおこなう複々線化都営新宿線などの車両の長編成化によって、混雑緩和が試みられてきた。2022年には、都心部・臨海地域地下鉄構想の事業計画がまとめられ、山手線の混雑緩和が意義の1つに位置付けられている。

このように、小池氏が2016年に掲げた7つのゼロは、1つを除いて現時点で達成されていない。ただ、待機児童のように着実な進展を見せた項目もあり、達成されていない目標の中にもグラデーションがある。

小池氏がおこなってきた政策はこれにとどまらない。他にも、東京の DX 推進に向けて5つのレス(ペーパーレス、はんこレス、キャッシュレス、FAXレス、タッチレス)を掲げ、コピー用紙の調達枚数を2016年度の約20億枚から、2022年度には約5,700万枚へと減らしている。さらに、今夏にも実用化を目指す都独自のマッチングアプリの開発、高校授業料の実質無償化なども支援してきた。

また、「東京の夜を彩る新たな観光資源を作る」という目的で、都議会議事堂都庁舎江戸城外堀新宿の旧小田急百貨店の壁面でのプロジェクションマッピング上映を推進してきた。2023年度の予算では、プロジェクションマッピングの展開に18億円が計上された

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とはいえ、前述してきた未達成の目標に加え、出生率や国際的な金融センターとしての地位低下など残された課題も少なくない。

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小池氏は、在任期間8年の「政治的遺産は継続する」と述べているが、それを自身が引き継ぐことになるのか、議論は向こう1ヶ月さらに白熱するだろう。

  • 更新:本記事は6月17日(月)14:02に更新されました。7つのゼロの達成度合いに関する表を付け加え、小池氏の出馬意向表明に関する情報に合わせ、文脈に応じて一部表現を改めました。

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
早稲田大学政治学研究科修士課程修了。関心領域は、政治哲学・西洋政治思想史・倫理学など。
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