予測市場は何をもたらすのか?すべてが賭けの対象になった未来に起きること
Tarek Mansour(Diarmuid Greene/Web Summit via Sportsfile, CC BY 2.0) , Illustration by The HEADLINE

予測市場は何をもたらすのか?すべてが賭けの対象になった未来に起きること

公開日 2026年07月15日 18:00,

更新日 2026年07月15日 18:00,

有料記事 / ビジネス / テクノロジー

この記事のまとめ
💡あらゆるものを賭けの対象にする予測市場、人類史の発明か社会の脅威か?

⏩ 選挙から戦争、CEOの発言まであらゆるものが賭けの対象に
⏩ 暗号資産業界の構造変化、優れた未来予測、新たなメディアの可能性から注目
⏩ 政府から大企業までインサイダー取引の横行が課題

2026年6月には、Meta のマーク・ザッカーバーグCEO が予測市場アプリの開発を社内に指示したと報じられた

予測市場では、基本的にあらゆるものごとが賭けの対象になる(太字は筆者による、以下同様)。たとえば、主要な予測市場・Polymarket では、イーロン・マスクは、6月30日までに子どもをもうけるのか?イエス・キリストは今年中に再臨するのか?2026年末までに、日本と中国は軍事衝突するのか?といった賭けがおこなわれる。

予測市場は急速に台頭しており、他業界との融合を進めている。Kalshi は CNNCNBC と提携し、報道に組み込まれ始めている他、Polymarket はニューヨーク証券取引所を傘下に持つインターコンチネンタル取引所から最大20億ドルの投資を受けると発表するなど、予測市場のデータが投資家たちの金融ツールに統合される可能性が示唆される。

日本でも予測市場は注目を集めており、現金ではなくコインやポイントと交換できる仕組みを持つ MIRAIMA(ミライマ)や POYP(ポイプ)といったサービスが登場している

予測市場は、未来を専門家よりも正確に予測できる「人類史に輝く発明」だとするがある一方、政治をゲーム化、インサイダー取引を横行させ、人の死や自然災害の発生さえも賭けの対象にしていることへの批判もあり、毀誉褒貶が渦巻く。フランスでは、日中の最高気温を予測する賭けに勝つため、シャルル・ド・ゴール空港の気象観測装置が操作された疑惑まで浮上した。OpenAI は2026年2月、機密情報を用いて予測市場で取引した従業員を解雇した

あらゆるものごとを賭けの対象にする予測市場は、社会に何をもたらすのだろうか?

予測市場とは何か?

予測市場とは、人々が様々な出来事(選挙、スポーツ、企業動向など)に対して、イエスかノーの二者択一で賭けを行うオンライン市場であり、株式取引と同じように、様々な種類の先物取引の権利を売買できる。

たとえば、高市早苗が2026年中に首相を辞任するかという市場では、辞任すると思う人がイエスの権利を買い、辞任しないと思う人がノーの権利を買う。2026年7月9日現在、同市場におけるイエスの価格は11セントだが、実際に高市首相が辞任すれば、イエスを持っていた人は1ドルを受け取り、ノーを持っていた人の権利はゼロになる。

このとき、予測市場ではイエス・ノーの売買価格をそれが起きる確率(将来の結果に関する集合的な予測)として扱う。すなわち、イエスの価格が11セントなので、2026年中に高市首相が辞任する確率は 11% であると解釈される。

予測市場に胴元はおらず、市場運営者は取引ごとに手数料を徴収して収益をあげる。ただ、最終的な結果はスポーツ賭博と実質的に区別できないため、胴元の有無によって、予測市場とスポーツ賭博の違いを強調することに意味がないとするもある。

予測市場は決して新しい試みではなく、500年ほど前のローマ教皇選挙に人々が賭けていた時代(*1)から存在し、電子的な市場は米国では1988年から存在し、2004年からは当局によって規制されている

目新しいのはその規模であり、急速に台頭する業界を牽引しているのが主要プレイヤーである Polymarket と Kalshi だ。

(*1)教皇選挙への賭けは、1591年に当時の教皇グレゴリウス14世によって禁止された。

Polymarket と Kalshi

予測市場の主要プレイヤーは Polymarket と Kalshi で、現在の年間売上高はそれぞれ10億ドル20億ドルを超えるとされる。

2020年に設立された Polymarket は、主に米国外で展開されているプラットフォームだ。シェイン・コプランCEO は、Ethereum の共同創設者であるヴィタリック・ブテリンや著名投資家のピーター・ティールを含む面々から約7,000万ドルを調達している。

シェイン・コプラン
Polymarket のシェイン・コプランCEO(X より)

Polymarket は2022年から2025年にかけて、当局からの圧力を受けて国外で事業を展開していたが、2026年に入ってから米国でも事業を再開している

2018年に設立された Kalshi(アラビア語で「すべて」の意味)は、米・商品先物取引委員会(CFTC)に登録された取引所だ。Andreessen Horowitz(a16z)や Sequoia Capital などから資金を調達している同社は、全50州で営業が許可されている。これは、オンラインスポーツ賭博を許可している州よりも20州多い

マンスール
Kalshi のタレク・マンスールCEO(Diarmuid Greene/Web Summit via Sportsfile, CC BY 2.0

ライバルである両社は、ソーシャルメディア上で互いを罵るような小競り合いを繰り返している。2024年に Polymarket のコプランCEO が家宅捜索をされた際、Kalshi はインフルエンサーに依頼して、Polymarket やコプランCEO に対する否定的なコメントを公開・拡散するよう促していたとする証拠が浮上したこともある

さらに、予測市場業界はトランプ一家とも関係が深い。トランプ大統領の長男であるドナルド・トランプ・ジュニアは、Polymarket で無報酬の顧問を務める一方、Kalshi では有給顧問も務めており、彼がパートナーを務めている投資会社・1789 Capital は、Polymarket に投資している。

トランプ・ジュニア
ドナルド・トランプ・ジュニア(Gage Skidmore, CC BY-SA 4.0

規模

デジタル資産メディア・The Block のデータによると、Polymarket と Kalshi の合計月間取引量(額面ベース)は、2025年7月時点では約22億ドルだったのに対し、2026年5月には約256億ドルまで増加している。これは、2025年の米国における合法的なスポーツベッティングの月間賭け金の平均(約140億ドル)を上回る規模だ。

Polymarket と Kalshi
Kalshi と Polymarket の合計月次取引高(2025年7月〜2026年6月。Polymarket は Polymarket US を含む)2026年6月は、W杯効果により、合計取引量は前月から75%増の約450億ドルに達した

取引量の大半は、スポーツ・政治・暗号資産に集中しており、Kalshi ではこの3分野が全体の91%、Polymarket では90%を占めている。賭けの対象は徐々に広がっており、2026年初めに、Polymarket は米国の住宅価格に関する予測市場を立ち上げると発表した。

分野別取引量
Polymarket(左)と Kalshi(右)の分野別取引量(2025年7月〜2026年6月。Polymarket は Polymarket US を含む)

Kalshi はスポーツの取引が多く、Pokymarket は相対的に多様な領域で取引がおこなわれているが、利用者層には一定の共通性もあると見られる。SimilarWeb の推計によれば、PolymarketKalshi もサイト訪問者は約7割が男性で、25〜34歳が最も大きな年齢層だ。CBS News は Kalshi について、約400万人のアクティブユーザーのうち約300万人が男性で、全体の6割が18〜34歳だと報じている他、Navigator Research の調査でも、予測市場の利用率はZ世代やミレニアル世代、特に18〜34歳の男性で高いことが分かっている。

このように、拡大を続けている予測市場だが、なぜ注目を集めているのだろうか。

なぜ、注目されるのか?

前提として、投資会社のバーンスタインによれば、2030年までに予測市場の取引量は約1兆ドルに急増すると予測されている

そのうえで、予測市場が注目を集める理由は大きく3つあり、具体的には(1)暗号資産市場との関係(2)優れた未来予測(3)新しいメディアだ。

(1)暗号資産市場との関係

1つ目のポイントとして、暗号資産市場との関係があげられる。前述したように、予測市場における暗号資産は取引額が大きな分野の一つだが、暗号資産取引所や暗号資産投機のあり方そのものが、予測市場によって構造的な変化を迫られつつある

具体的には、予測市場が暗号資産の値動きを細かく切り出して投機の対象にすることで、もともとボラティリティの大きい暗号資産市場に、新しい投機と操作のインセンティブを持ち込んでいる。

象徴的なのが、Bitcoin や Ethereum の価格が、5分後15分後に上がるか下がるかを賭ける超短期市場だ。2026年2月に Polymarket に導入されたこの市場は瞬く間に人気を博し、1日あたり最大6,000万ドルの資金が動くほどの活況を呈している。暗号資産取引所での取引量に比べれば少ないものの、決済完了までのスピード感は「中毒性」があり、ベッターたちを「釘付けにしている」と言われる

投資家たちは、AI 関連株への資金流入などによって苦況が続いている暗号資産市場から離れ、株式や金といった伝統的な資産、あるいは急成長を遂げている予測市場へ向かっている。

そうした状況の中、Coinbase、Gemini といった取引所は貯蓄や決済も扱う総合的なフィンテックアプリへ進化することで顧客を維持しようとしており、予測市場にも参戦し始めている。Coinbase のブライアン・アームストロングCEO が同プラットフォームを「あらゆるものの取引所」にするというビジョンを掲げた通り、暗号資産市場と予測市場の境界が溶け、各社が競合化する構図が生まれつつある

(2)優れた未来予測

2つ目のポイントは、優れた未来予測だ。予測市場は、2024年の米大統領選で勝利者を的中させたことで、脚光を浴びた。Kalshi における金利予測は、ウォール街の専門家と同等の精度を誇っており、場合によっては専門家を上回るとする研究もある

著名な AI 滅亡論者であるエリーザー・ユドコウスキーは「予測市場の価格は、高度に機能する文明が自らの知識を把握するための手段」だとして、それを支持している。

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予測市場には、時系列で推定値の確率を示せるという利点指摘されている。世論調査やアンケート調査は意見の割合を示すだけで、それを確率に変換するにはモデルを使った統計的な推論が必要だが、予測市場はその必要がない。また、世論調査は通常、ある時点のスナップショットしか反映しないが、予測市場は新たな参加者や新たな情報が入るたびに、数値をリアルタイムで更新できる。

さらに、予測市場と世論調査の決定的な違いは、参加者が身銭を切っているかどうかだ。予測市場では金銭がかかっているため真剣に売買するが、世論調査の回答者は、嘘をついてもペナルティが発生しないため真剣に回答するとは限らない。そのうえで、予測市場では対象に詳しい人ほど大きく賭けることで影響力を発揮できるが、世論調査ではあらゆる回答者の意見が同じ重みづけしか持たない。

予測市場と世論調査
予測市場と世論調査の比較

そうした参加者たちのあらゆる情報が賭けを通じて集約されることで、予測市場は優れた未来予測を提供できるとされる(*2)。Kalshi のタレク・マンスールCEO は、Wired 誌のインタビューに対して、予測市場に “真実” が集まると示唆して、次のように豪語している

市場は人間のように嘘をつかないという考え方が根底にあります。人々がお金を賭けると、嘘をつかなくなるのです。

The Atlantic 誌のチャーリー・ワーゼルが指摘するように、「予測市場は信頼度の低い社会にとってまさにうってつけの技術」だ(ワーゼルは否定的なニュアンスで指摘しており、その点は後述する)。主要なニュースメディアへの信頼が低下し、人々が何を信じてよいか分からなくなっている世界で、予測市場は未来に起きることを高い確率で伝える装置として期待されている。Polymarket のコプランCEO は、インターコンチネンタル取引所との連携を発表した日、次のように投稿した。

私は、真実を見つける方法がこれまで以上に重要になる時代に突入していることは分かっていましたし、Polymarket がその時代において重要な役割を果たせると考えていました。結局のところ、真実ほど価値のあるものはないのです。

そのうえで、マンスールCEO が示唆するように、予測市場の普及によって、人々のニュースや情報の受け取り方が根本的に変化する可能性がある。その意味で予測市場は、新しい形のメディアとしても注目を集めている。

(*2)予測市場が優れた予測を提供するという考え方は、群衆の知恵効率市場仮説という2つの理論に支えられている。前者は、多様な人々の集団の平均的な判断が、一人の専門家の判断よりも正確であることが多いという考え方で、後者は、価格は入手可能なすべての情報を符号化しており、利益を追求する売り手と取引を追求する買い手の集合的な判断を反映しているという仮説だ。

(3)新たなメディア

3つ目のポイントは、新たなメディアとしての性格だ。

この視点を理解するための重要人物として、統計学者のネイト・シルバーがあげられる。彼は、選挙予測において、勝ち負けではなく候補者ごとの勝率を示すという手法を持ち込んだ人物として広く知られる。そのシルバーは2024年、Polymarket のアドバイザーに就任した。

ネイト・シルバー
ネイト・シルバー(Nikita Sokolsky, CC BY-SA 4.0

世論調査をモデル化して未来を予測してきたシルバーが、次の未来予測の場として市場に向かったことは示唆的だ。

前提として、彼は、現代社会を動かすリスクテイカーたちの文化圏を The River と呼ぶ。そこには、ポーカープレイヤー、スポーツベッター、暗号資産投資家、VC、ヘッジファンド、テック起業家などが含まれる。彼らは、期待値、ベイズ推定、ナッシュ均衡といった言葉、思考様式を共有し、不確実性のなかから「エッジ」(他者が見落としているわずかな優位)を探そうとする(*3)

この点を踏まえると、予測市場は、この The River の思考様式が、ニュースや政治の領域に流れ込んだ場だと理解できる。政治を理念や物語ではなく勝率の問題として処理し、ニュースを公共情報ではなく価格を動かすシグナルとして扱い、未来を不安や願望の対象ではなく、取引可能な不確実性として位置付けるという発想だ。

すなわち、予測市場は、ニュース、選挙、政策、企業動向、戦争、スポーツといった不確実な出来事を、期待値の問題に変換する装置であるという意味で、新しい形のメディアだと言える。実際、シルバーは Axios の取材に対して「計画を立てるとき、確率は本当に重要だ」と語り、政治判断や投資判断において予測市場が使われる可能性に言及している。

このように、大きなポテンシャルへの期待から注目を集める予測市場だが、その性質ゆえに、多くの批判にもさらされている。

(*3)シルバーは The River の対になる概念として The Village をあげている。こちらは、政府、既存メディア、大学など、規範や制度を重視する世界だと位置付けられている。

何が問題なのか?

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
早稲田大学政治学研究科修士課程修了。関心領域は、政治哲学・西洋政治思想史・倫理学など。
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