pride flag and lgbt by Mercedes Mehling(Mercedes Mehling, Unsplash

LGBTが増えると何が起きるのか?足立区議の「足立区が滅びる」発言を受けて

公開日 2020年10月12日 13:45,

更新日 2023年09月20日 11:25,

有料記事 / 社会問題・人権

「L(レズビアン)だってG(ゲイ)だって法律で守られているじゃないかという話になれば足立区は滅んでしまう」。東京都足立区の白石正輝区議(78)が9月25日の区議会で、少子化問題を取り上げる中、同性愛者の法的保護が進めば区が滅んでしまうという趣旨の発言をしていたことが報じられた

この発言に対して「性的マイノリティに対しての差別や偏見を助長する」との批判が集まり、鹿浜昭議長と、白石区議が所属する区議会自民党は6日、それぞれ白石氏に厳重注意をする事態となった。一方で白石氏は、「当事者が不快と思っても別にいい」と述べ、発言の撤回や謝罪はしないとしている。

区議の発言はどのような点が問題であり、「足立区は滅んでしまう」のは事実なのだろうか?

追記:足立区議会の鹿浜昭議長は12日、白石区議から謝罪と発言の撤回の申し出があり、20日の区議会本会議で白石区議が謝罪と発言の撤回を行うことを明らかにした。

区議の発言、問題点を整理

白石区議の一連の発言は、性的マイノリティに対しての差別や偏見を助長するものであり、区議会議員による議会の場での発言として間違いなく不適切だ。具体的には、「全員が同性愛者になるという仮定を用いるなど、性的指向についての理解が欠落していること」、「人権侵害の問題を、傷ついた人の感じ方の問題に矮小化していること(なおかつそれについて謝罪すらしていないこと)」といった問題点を指摘することもできる。

また、少子化解消に役立つ/役立たないという基準で人の価値を判断しており、優生思想に結びつきかねない考え方を開陳している点も問題と言えるだろう。これは、「LGBTには生産性がない」ためLGBT支援に税金を投入するべきではない、との論説( 杉田水脈著『「LGBT」支援の度が過ぎる』57-60.『新潮45』2018年8月号)で賛否を集めた杉田水脈衆議院議員(後に謝罪)の思想と通底するものがある。

「LGBTは生産的でない」は本当か

ところで、白石氏や杉田氏など保守系の論客から時おり聞かれる「LGBTには生産性がない(ので彼らの権利保護に力を入れる必要はない)」という議論だが、これはどの程度事実に基づいた発言なのだろうか?

言うまでもなく、LGBTの権利保護は人権の問題なので、少子化問題に対する貢献度や経済的な効果の有無にかかわらず実施されるべきだ。しかし一方で、政策立案者は政策の優先度を決定するために時おり数値的・定量的な議論を必要とすることがある。また、定量的なデータを算出して、LGBTの権利保護を政策の議論のテーブルに上げられるようにすることも、LGBT支援の重要なアプローチの一つではあるだろう。

そこで、本稿では敢えて「性的少数者を法律的に擁護することは『経済的に』何をもたらすのか?」という点にフォーカスして、この問いにも回答することとしたい。

LGBTはどのような状況に置かれているのか?

まずは、LGBTの人々が置かれる現状を確認するところから始めよう。国連のFree & Equalキャンペーン「The Price of Exclusion(LGBT排除の代償)」の動画に、世界中のLGBTの人々に対する差別がもたらす社会的・経済的なダメージがまとめられている。

まずLGBTはいじめに遭いやすい。アメリカイギリスタイで行われた調査によると、LGBTの生徒の半数から3分の2が学校で定期的にいじめを受けており、3分の1までは嫌がらせから逃れるために学校をサボっているという。

LGBTの若者は、学校でいじめられ、家庭では拒絶された結果、ホームレスになってしまうことも多い。米国の主要都市の路上でホームレスになっている若者のうち、最大で40%がLGBTやクィアであることを自認しているというデータがあるこれは、同年代の全人口において性的少数者が占める割合(10%以下と推定される)よりも明らかに高い。また、職に就いていたとしても、5人に1人は職場での差別を受けている

その結果、米国の研究によると、ゲイやレズビアンの若者は、一般の人々と比べて4倍も自殺を考えたり、未遂したりする可能性が高くさらにトランスジェンダーの若者は10倍も自殺する可能性が高いことが分かっている。

さらに、他の社会的・経済的指標においてもLGBTの人々は一般の人々に比べて数値が悪くなる傾向があり、複数の国で行われた研究では、貧困、食糧不安、失業率がLGBTコミュニティで高くなっていることが知られている

性的少数者を法律的に擁護することは「経済的に」何をもたらすのか?

これらの統計は、被差別の当事者にとっての悲劇であると同時に、マクロレベルでもその国に経済的な損失を発生させることを示している。

なぜなら、LGBTの若者が家から追い出されたり、教育を受けられなくなったりすることは社会にとっての損失であり、LGBTの労働者が仕事や国を離れることを余儀なくされることは、より生産的に経済を構築する機会を失うことにつながっているからだ。

LGBTの法的保護と経済成長に高い正の相関性

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✍🏻 著者
シニア・エディター
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社マイナースタジオの立ち上げに参画し、同社を売却。その後、The HEADLINEの立ち上げに従事。関心領域はテックと倫理、政治思想、東南アジアの政治経済。
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