日本の「安全保障政策の大転換」とは何で、どのように生じたのか? = 反撃能力への評価は

公開日 2022年12月30日 00:06,

更新日 2022年12月31日 13:06,

有料記事 / 外交・安保

16日、新たな国家安全保障戦略と国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書(安保関連3文書)が閣議決定された。岸田首相は「この3文書とそれに基づく安全保障政策は、戦後の安全保障政策を大きく転換する」と述べており、防衛費増額と合わせて、戦後日本の安全保障における大きな節目となった。

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また今回の安保政策の大転換については、バイデン大統領からも「歓迎」されており、日米同盟の枠組みからも評価を受けている。

そもそも、日本の安全保障政策はどのようなものだろうか?そして、どの点が大転換と評されているのだろうか?また、この変化は日米同盟にどのような変化をもたらすのだろうか?

日本の安全保障における専守防衛

令和4年版防衛白書』によれば、日本の安全保障における基本政策は、以下4つに分けられる。

  1. 専守防衛
  2. 軍事大国とならないこと
  3. 非核三原則
  4. 文民統制の確保

このうち、問題視されているのが1つ目に掲げられた専守防衛だ。これは「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢」を指す。

専守防衛

そもそも日本は、憲法第9条において戦争の放棄・戦力の不保持・交戦権の否認を掲げている。一方、主権国家としての自衛権は保持しており、その「行使を裏づける自衛のための必要最小限度の実力を保持する」ために自衛隊を有している。

この状況は、1955年、防衛庁長官・杉原荒太による国会答弁で用いられて以来、「専守防衛」の概念として説明されてきた。

今回の安保政策の大転換によって、この専守防衛の理念に変化が生じるのではないかと懸念されているのが、もっとも論争を呼んでいる点だ。

たとえば東京新聞は、今回の閣議決定について「憲法に基づく専守防衛を形骸化させ、軍事大国化につながる安保政策の大転換」と批判する他、NHKも「専守防衛の考え方に変わりがないことに理解を得られるかが課題」と指摘する。

すなわち安全保障政策の大転換とは、上記4つの基本政策を維持しつつも「防衛力を抜本的に強化する」こと指す。しかし、その防衛力の抜本的強化によって専守防衛が揺らぐ可能性があると懸念されている状況なのだ。

防衛力の強化

では具体的に防衛力の強化は、どのように実現されるのだろうか。具体的には、以下4つの項目にまとめられる(説明のため、国家安全保障局の資料からは順番を入れ替えている)

  1. 令和9年度に、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組をあわせた予算水準が現在のGDPの2%に達するよう所要の措置
  2. 領域横断作戦能力に加え、スタンドオフ・防衛能力、無人アセット防衛能力等を強化
  3. 有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制を含む、自衛隊と海保との連携強化
  4. 反撃能力の保有

このうち、1つ目に掲げられた防衛費のGDP比2%までの増加については、過去記事で説明しているため割愛する。以降、2つ目と3つ目について触れ、その後、4つ目の反撃能力について見ていく。

2. 領域横断作戦能力やスタンドオフ・防衛能力などの強化

まず領域横断作戦能力やスタンドオフ・防衛能力などの強化だが、それぞれ自衛隊の有する能力を指す。

領域横断作戦能力とは、陸・海・空領域に加えて、宇宙やサイバー空間、電磁波などの組合せによって自身に優位な状況を確保していくための能力を指す。またスタンドオフ・防衛能力とは、敵の射程圏外など離れた位置から攻撃できる能力を指し、反撃能力(敵基地攻撃能力とも、後述)を担うことになる。

いずれも最新の能力や装備を指しており、自衛隊が「多次元統合防衛力を構築」するための一環となっている。

3. 自衛隊と海保との連携強化

次に自衛隊と海保との連携強化だが、そもそも海上保安庁の上部組織は国土交通省となっており、両者は別組織に属している。しかし、尖閣諸島周辺では44日連続で中国当局の船が確認されるなど、海上保安庁が担う領海警備の重要性は高まっている。

そのため、海上保安能力の大幅な強化・体制拡充が決定している他、有事に際しては、防衛大臣が海上保安庁を統制する連携強化策も定められた。また海上保安庁の予算は、2027年度に現在の1.4倍となる3,200億円程度にまで増額されることも決定している。

4. 反撃能力の保有

そして上記4項目のうち、最も議論を呼んでいるのが反撃能力の保有だ。これが、防衛力の抜本的強化の中でも特に、専守防衛の理念を掘り崩するのではないか、という懸念に繋がっている。岸田首相の会見では

安保関連3文書には、反撃能力の保有の記載があり、国内外にこれが専守防衛政策の転換点になるのではないかとの懸念があります。今後、状況によってはそれがなし崩しになる可能性もあるのではないかと思いますが、総理の考えをお聞かせください。

という質問に、首相が

この専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その対応も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、これは憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢というものであり、我が国の防衛の基本的な指針であり、これは今後も変わらないと考えています。反撃能力についても、この考え方にのっとっており、今後とも専守防衛、これは堅持してまいります。

と答えている。では、なぜ反撃能力が問題となるのだろうか?

反撃能力とは

反撃能力とは、以前は「敵基地攻撃能力」と呼ばれており、敵のミサイル発射拠点や基地などを攻撃する能力を指す。

1956年の鳩山一郎首相答弁(船田国務大臣が代読)では、以下のように述べられている。

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✍🏻 著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『スッキリ』月曜日コメンテーターの他、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。わかりやすいニュース解説者として好評。
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