⏩ 1,000兆円を超える桁外れな AI インフラ構想
⏩ 半導体からデータセンター、電力まで含める垂直統合の野望
⏩ 脱中国を念頭に置いた中東拡大路線は、新たな地政学リスクに?
2024年2月8日、Wall Street Journal 紙は、OpenAI のサム・アルトマンCEO が最大で7兆ドル(約1,050兆円)規模の超大型資金調達を計画していると報じた。
ただ、テック専門メディアの The Information によれば、この数字は、アルトマン氏が調達を計画している額ではない。同氏は、AI に関わる電力、不動産、チップ製造に至るまで、一定期間にわたって業界全体でおこなう必要のある投資額が7兆ドルだ、と非公式に話しているという。
サム・アルトマン(TechCrunch, CC BY 2.0)
いずれのメディアが正しいとしても、アルトマン氏が桁外れな金額を伴うビジョンを持っていることは間違いないだろう。
同氏は、1,000兆円にものぼる計画で何をしようとしており、その野望の背景には何があるのだろうか。
何を計画しているのか
今回報じられている計画は、AI のデータ処理に必要な半導体生産とその拠点、それを稼働させるための電力供給などの整備をひっくるめたものだ。
アルトマン氏は、OpenAI、投資家、半導体メーカー、電力事業者で構成されるネットワークの構築を図っており、この動きが「半導体業界の再編」とも指摘されている。具体的には、アラブ首長国連邦(UAE)政府、同国の AI 開発企業・G42、さらにソフトバンクグループなどからも資金を調達するべく交渉を進めているという。
一方で、7兆ドルという規模は常軌を逸した数字であり、夢物語のようにも思える。日本の昨年の国内総生産(GDP)が約4兆2,000億ドル(約591兆円)(*1)、米国の連邦予算が約6兆3,000億ドル(約940兆円)(*2)であることを考えれば、7兆ドル(約1,050兆円)という数字はいささか馬鹿げてるようにも見える。
とはいえ、実際は絵空事だと言い切ることもできない。半導体大手・Nvidia のジェンスン・フアンCEO は2月12日、「今後4-5年で、2兆ドル(引用者註:約300兆円)相当のデータセンターが構築され、世界中のソフトウェアを強化することになります」と述べている。データセンターへの電力なども考慮すれば、7兆ドルもあながち有り得ない数字ではないかもしれない。
ジェンスン・フアン(NVIDIA Taiwan, CC BY 2.0 DEED)
一方で、フアンCEO は次のように述べて、アルトマン氏の構想は、将来的に半導体の運用コストが低下していく可能性を考慮していないと示唆する。
コンピューターがこれ以上高速化することはないと仮定すると、これらすべてを実現するには14個の惑星、3個の銀河、そしてさらに4個の太陽が必要であるという結論に達するかもしれません。しかし、コンピューターのアーキテクチャは進歩し続けています。
実際に7兆ドルが必要かはともかく、アルトマン氏の構想が壮大なものであることは疑いない。同氏の野望には、どんな背景があるのだろうか。
(*1)名目 GDP。
(*2)2022会計年度。
なぜ1,000兆円規模の計画がなされているのか
アルトマン氏が桁違いの計画を構想している背景は、大きく4つあり、具体的には(1)AI インフラの垂直統合(2)調達先の拡大(3)地政学および安全保障リスク(4)天然資源だ。
1. AI インフラの垂直統合
1つ目のポイントとして、AI インフラの垂直統合があげられる。これは、マグニフィセント7との競争、アルトマン氏のビジョンという2つの視点から理解できる。
第1に、OpenAI は現在、マグニフィセント7(Meta、Amazon、Microsoft、Alphabet、Apple、Tesla、Nvidia)と AI 開発をめぐる競争の最中にある。Meta、Microsoft、Amazon、Google は独自の AI 半導体の開発に乗り出している。さらに、Meta は2024年、データセンターを含むデジタルインフラの設備投資に約370億ドル(約5兆5,500億円)を投じる方針で、Google も英国などでデータセンターの建設を進める。
Meta や Google が、OpenAI と同様に AGI(汎用人工知能)の構築を標榜して垂直統合を進める中、アルトマン氏もその競争に乗り出したい形だ。
第2に、アルトマン氏のビジョンがあげられる。同氏は以前より、AI をめぐる垂直統合に強い意欲を示しており、「未来を作り、生活の質を大幅に向上させるために最も重要な2つのことは、知性とエネルギーを安価で豊富にすること」だと述べていた。知性については OpenAI が担い、エネルギーについては核融合発電が担うという青写真を描いている。
すなわち、今回の構想も、こうした垂直統合を実現させるビジョンの一環だとも考えられる。