紅麹コレステヘルプ(小林製薬) , Illustration by The HEADLINE

機能性表示食品とは何か?=小林製薬の紅麹サプリ摂取後に2人死亡の疑い

公開日 2024年03月27日 13:02,

更新日 2024年03月27日 13:02,

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この記事のまとめ
💡小林製薬の機能性表示食品・紅麹サプリ、摂取後に2人死亡の疑い

⏩ 機能性表示食品について「知っている」人は約2割
⏩ 導入経緯やトクホとの違いとは?
⏩ GABA やヤクルト1000の人気で市場規模が拡大

3月26日、小林製薬は、紅麹(べにこうじ)原料を含む機能性表示食品について、「製品と死亡との因果関係が疑われる事象を1件把握」したと発表した。さらに同日、厚生労働省は同社に対する聞き取りの結果、2人目の死亡事例があったと公表している

小林製薬は、当該食品・紅麹コレステヘルプを摂取した消費者に腎疾患等が発生したとの報告を受け、22日付けで関連商品の自主回収を発表していた。27日には、消費者庁に届け出ていた8種類の関連商品について、機能性表示食品の撤回を決めている

紅麹
紅麹コレステヘルプ

後述する通り、機能性表示食品に関連する問題が発生したのは今回が初めてではない。しかしながら、機能性表示食品の内容が広く社会に知れ渡っているとは言い難い。

令和4(2022)年度の「食品表示に関する消費者意向調査」において、機能性表示食品について「どのようなものか知っている」と答えた人の割合は 19%、「聞いたことはあるが、どのようなものか知らない」と答えた人の割合は 63%、「聞いたこともなく、どのようなものかも知らない」と答えた人の割合は 18% だった。(太字は筆者による、以下同様)


機能性表示食品を知っているか、という質問に対する回答割合(消費者庁「令和4年度食品表示に関する消費者意向調査 報告書」より筆者作成)

機能性表示食品とは、どのようなもので、これまで何が物議を醸してきたのだろうか。

機能性表示食品とは何か?

機能性表示食品とは、2015年4月に導入された健康食品の1種だ。これにより、「おなかの調子を整えます」や「脂肪の吸収をおだやかにします」など、特定の保健目的が期待できる食品について、その機能性を表示できる。

たとえば、睡眠の質改善やストレスを低減する効果が謳われ人気を博した、江崎グリコのチョコレート・GABA や、近年品薄状態が取り沙汰される、ヤクルトの乳酸菌飲料・ヤクルト1000などは、機能性表示食品の代表例だ。

民間調査会社・富士経済によれば、2023年の機能性表示食品の市場規模は6,865億円と予測される。これは前年比 19.3% 増であり、脂肪やストレスの低減がトレンドになる中、GABA やヤクルト1000などの食品・ドリンク類が牽引役となっている。

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従来、特定保健用食品(トクホ)(1991年導入)は開発コストが高く、栄養機能食品(2001年導入)は対象成分がビタミンやミネラルなどに限定されていた。

そこで、機能性表示食品は、「機能性を分かりやすく表示した商品の選択肢」を増やす目的で導入された(と消費者庁は説明している)。ただ、安倍政権による成長戦略の一環として、産業界や地方の活性化を狙った側面もある

いずれにしても、認知機能、歩行機能、目のピント調節機能など、トクホや栄養機能食品には見られなかった領域での健康食品が登場した。こうした傾向は、富士フイルムなどの食品メーカー以外の事業者の参入と合わせ鏡と言える。

トクホとの違い

トクホと機能性表示食品の最大の違いは、販売に際して国の審査を必要とするかどうかだ。機能性表示食品は、安全性と機能性の評価について、国の審査を必要としない。事業者が消費者庁長官に対し、科学的根拠などの必要事項を販売の60日前までに届け出れば、機能性を表示することができる。そのため、機能性表示食品は、トクホのように国から個別の許可を得ているわけではない(*1)


食品の分類(消費者庁、CC BY 4.0

さらに、有効性を証明するためのプロセスにも違いがある。トクホの場合、最終的にヒト臨床試験が求められる。一方の機能性表示食品の場合、臨床試験は必須ではなく、かわりに、成分に関連した論文を評価する研究レビューでも届出が可能だ。

したがって、機能性表示食品は、その機能を表現する際にいくつかの注意が必要とされる。たとえば、「国が認めた」と示唆するような表現や、「治療」や「処置」などの医学的な表現などは避けなければならない。後述する通り、こうした表現の問題で措置命令を言い渡された事業者がある。

こうしたトクホと機能性表示食品の違いは、数字にもあらわれている。トクホは現在、1,058件が認可・承認を得ている(*2)。一方の機能性表示食品は、2015年度から2023年度の間に累計8,000件以上の届出があり、現在3,000を超える食品が販売中だ(*3)


2015年度から2022年度におけるトクホと機能性表示食品の件数推移(失効・撤回を除く)(消費者庁、CC BY 4.0

(*1)栄養機能食品の場合、有効性や安全性の担保が不要で、すでに科学的根拠が示された栄養成分を一定の基準量含んでいれば、その機能を国の定型文で表示できる
(*2)2023年12月22日時点
(*3)2024年3月27日時点のため、2023年度の届出数は未確定。消費者庁サイトより筆者が算出(届出数には失効・撤回を含む)。

何が問題視されてきたのか?

機能性表示食品は、大きく有効性・安全性の担保と機能表示に関する側面で、複数の問題を指摘されてきた。

たとえば、民間の医薬品監視機関・薬害オンブズパースン会議の長田三紀氏は、届出の際に内容に不備のある論文が使われていること、研究レビューでは「効果がない」とする論文が多い成分について、質的に低い臨床試験で効果を謳っているケースなどを報告している

ただ、申請経験のある北海道大学の山仲勇二郎准教授は、有効性のチェックで複数回差し戻されたと語っており、届出がフリーパスではなかったという示唆もある。

過去の問題事例

過去には、科学的根拠のない広告表示によって消費者庁から措置命令を受けたケースが複数存在する。

たとえば、2023年11月、株式会社アリュールが措置命令を受けた。同社は、サプリメント・スリムサポ(SlimSapo)について、「消費者庁が認定した機能性表示食品です」などと記載した他、ウェブサイトでも「国が激やせする効果を認めているんです!」と表示した。

前述した通り、機能性表示食品は消費者庁から認可を得ているわけではないため、あたかも国が認めているかのような表現は避けなければならない。

さらに、安全性の面でトクホの認可を得られなかった商品が、機能性表示食品として受理されているケースもある。

2015年、健康食品会社・リコムからトクホとして申請された清涼飲料・蹴脂(しゅうし)茶について、消費者庁は「提出された資料からは本食品の安全性が確認できない」として、トクホの認可をしなかった。含有されるエノキタケ抽出成分の安全性が原因だったが、それを含むサプリメント・蹴脂粒はすでに機能性表示食品として受理されていた

こうした消費者庁の判断は、制度の運用上問題があったわけではないと考えられるが、後述するような制度体系そのものへの疑問にはつながりうる事例と言えるだろう。

今後どうなるのか?

機能性表示食品市場は、今後も拡大すると見込まれている。富士経済は2024年以降も、「機能性を訴求した商品の増加で、市場はさらに拡大する」として、2024年の市場規模を7,350億円と予測する。

一方で、機能性表示食品に需要が流出していることから、トクホの市場規模は縮小傾向にある。富士経済は、2023年のトクホの市場規模について、前年比 4.4% 減の2,690億円と予測した。

ただ、今回の小林製薬の一件は、好調な機能性表示食品市場に水をさすかもしれない。トクホの審査を通らなかった食品でも、機能性表示食品になりうるという制度体系については、今度議論の的になる可能性が否定できない。

冒頭で触れたように、機能性表示食品に関する知識は、広く社会に浸透しているとは言い難い状況だ。そうした中で今回のようなケースが取り沙汰されれば、機能性表示食品に対するネガティブなイメージが先行するかもしれず、市場にとって大きな打撃となるおそれもある。

現在、本件に関連して設置した相談窓口に、入院が必要になったケースが100件以上報告されているという。大阪市は27日、小林製薬に対して行政処分を下す方針を決定、消費者庁は小林製薬に対し、4月5日までに安全性に関する科学的根拠の再検証を求めている。

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
早稲田大学政治学研究科修士課程修了。関心領域は、政治哲学・西洋政治思想史・倫理学など。
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