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共同親権をめぐってどのような議論がなされたのか?これまでの質疑・答弁を振り返る

公開日 2024年04月18日 19:46,

更新日 2024年04月18日 19:55,

無料記事 / 国内 / 社会問題・人権

この記事のまとめ
💡共同親権導入案が衆院で可決、これまでの質疑・答弁は?

⏩ 導入の是非から親権の決め方、導入後の懸念などを議論
⏩ 各論点をめぐる具体的な質疑・答弁は?
⏩ 賛成派内部の対立があらわに。足並みが揃うかが今後ポイントの1つ

2024年4月16日、離婚後の共同親権導入を柱とする民法改正案が衆議院で審議され、自民党・公明党・立憲民主党・日本維新の会・国民民主党・教育無償化を実現する会などの賛成多数で可決した。日本共産党・​​れいわ新選組は反対した。

法案は参議院に送られ、今国会で成立すれば、2026年までに施行される見込みだ。

共同親権が導入へ = そもそも何?なぜ議論は紛糾?今後の課題は?
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現在の民法(第818条3項)では、離婚した場合に父母のいずれか一方が親権者になると定められている。今回の法案が成立すると、父母の協議によって双方が親権者となるか(共同親権)、どちらか一方のみが親権者になるか(単独親権)を決定できる。父母の協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の判断を仰ぐこととなった。

離婚やそれに伴う親権の決定は珍しい話ではない。厚労省の人口動態調査によると、2022年の離婚件数は17万9,099組で、このうち親権の対象となる未成年の子どもがいる離婚件数は9万4,565件と、全体の 52.8% を占めている

一方で、共同親権の導入に批判的な動きも見られる。たとえば、共同親権の導入は「離婚した相手との関係が強制的に継続」される「実質的な『離婚禁止制度』」だとして、“#STOP共同親権” を掲げるオンライン署名が展開されている。また、ソーシャルメディア上では、本法案は原則共同親権を強要するものだとした投稿も見られた。

詳細は後述するが、こうした懸念に対して委員会では、どちらかの親権のあり方を原則とするものではないとする法務省側の答弁がおこなわれた(ただ、原則でないことの明文化は見送られている)。また、DV などの客観的な証拠がなくとも、子どもの利益を害する “おそれ” があると認められれば、家庭裁判所が単独親権を指定することもある、と説明された。

共同親権の導入は、子どもの養育にとって大きな転換点となるだろう。共同親権のポイントはどこにあり、その法案成立に向けて、どのような議論が交わされてきたのだろうか。

共同親権のポイント

2024年1月30日に示された家族法制の見直しに関する要綱案(修正案)および、同年3月8日に政府から国会へ提出された民法等の一部を改正する法律案によれば、共同親権のポイントは大きく3つの視点から理解できる。

1つ目は、父母の責任の明確化だ。具体的には、父母が子の人格を尊重すること、そして婚姻関係の有無にかかわらず、その子の利益のために互いの人格を尊重し協力しなければならないとされた。

2つ目は、共同親権か単独親権かを決める方法だ。これについては、次の通りとされた(太字は筆者による、以下同様)

  • 親権は父母の協議で単独か共同かどちらかを決定する。
  • 合意できない場合、家庭裁判所が親子の関係などを考慮したうえで、単独か共同か、単独の場合はどちらを親権者とするか決定する。
  • DV や子どもへの虐待など、「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」には単独とする。

さらに、4月12日に立憲民主党などから提出された「民法等の一部を改正する法律に対する修正案」を踏まえ、親権者の決定については、「父母の双方の真意に出たものであることを確認するための措置を検討すること」が政府に求められている。これについて、修正案提出者である米山隆一衆議院議員(立憲民主党)は、次のように説明した(*1)

子の利益を確保するため、例えば DV 等の事情や、経済的に強い立場の配偶者が他方配偶者に強制的に迫ることによって真意によらない不適切な合意がなされることを防ぐ必要があります。
(略)
提出者としては具体的な措置として、たとえば離婚届の書式を見直して離婚後も共同で親権を行使することの意味を理解したかを確認する欄を追加すること等を想定しております。

3つ目は、共同となった場合、具体的に子どもの身の回りのことについて誰がどこまで親権を行使できるのかについてだ。これは、以下の通りとされている。

  • 子どもの住居や進学先、パスポートの取得などは、父母の合意が必要とされる。
  • その日の子どもの食事や習い事の選択、重大な影響を与えない治療など「監護及び教育に関する日常の行為」は、片方の親のみで決められる。(「日常の行為」の意味に関する議論は、後述する)
  • なお、父母が対立した場合、家裁が判断する。
  • ただ、家裁の判断を待っていては子どもの利益に反する(たとえば子どもの緊急手術など)「急迫の事情」がある場合、例外的に片方の親のみで決められる。(「急迫の事情」の意味に関する議論は、後述する)

今回衆議院を通過した法案だが、ここに至るまで、どの論点について誰がどのような考えを述べてきたのだろうか。

(*1)これ以外にも、「必要な広報その他の啓発活動」を行うこと、くわえて、親権者の定め方、急迫の事情の意義、「監護及び教育に関する日常の行為の意義その他の改正後の各法律の規定の趣旨及び内容について、国民に周知を図る」点も盛り込まれた。

誰が何を議論してきのか

前提として、今回の法案に関する議論は非常に多岐にわたるため、本記事においてその全てを網羅することは難しい。そのうえで、本件に関する主要な論点については、大きく以下の4つに分けられる(*2)

  1. 導入の是非
  2. 親権の決め方
  3. 親権の行使の範囲
  4. 共同親権導入後の懸念

(*2)この他にも、共同親権を原則とすべきか、監護者指定の義務化を盛り込むべきかなどが議論された

1. 導入の是非

1つ目のポイントは、共同親権導入の是非だ。たとえば、谷川とむ衆議院議員(自民党)は、4月5日の法務委員会で、共同親権の導入に賛成の立場から次のように述べている(*3)

家族というものは、伝統的な家族の形態で言えば、1人の男性と1人の女性が、お互い好きになって結婚し、子どもを授かり生活を営みます。

子どもの最善の利益といえば、両親から愛情いっぱいに育って、そして祖父母や親戚縁者からも、愛情いっぱいに育てられて生活ができる。そのような生活環境がずっと続いていくことが、私は子どもの最善の利益だというふうに思っています
(略)
本改正法案は、これまでわが国は離婚後の父母の子の養育について、単独親権・単独監護制度一択をとってきたものを、共同親権・共同監護も選択可能にできるようにするということです。

​​私はかねてより、離婚後の単独親権・単独監護を定める現行民法の規定は、離婚後も、父母の双方が子の養育に責任を負うべきであるという原理原則に反するものであり、父母が離婚した場合、原則として、父母がそれぞれ引き続き子に対して親としての責務を果たすため、離婚後共同親権・共同監護を導入すべきである、と取り組んでおりましたから、一応歓迎すべき事ではあります。

一方で、本村伸子衆議院議員(共産党)は4月12日、「重大な懸念がある中で、審議を尽くさないままの採決は認められません」として、共同親権の導入に反対した

同議員は、その理由について「親の子に対する権利という認識が色濃く残る親権という用語をそのままに、離婚後共同親権を導入していること」あるいは「裁判所によって当事者に不本意な共同親権が強行され、一方の親・子どもの利益が害される懸念があること」などを挙げた。

(*3)以下、特に記さない限り、日付は2024年のものを記す

子どもの視点

また共同親権の導入にあたり、子どもの視点が中心に据えられていないとして、共同親権を求める議員からも批判の声があがっていた。たとえば、2023年4月25日、原則共同親権を訴えている梅村みずほ参議院議員(維新)は同院の法務委員会で、次のように述べている

この法制審で行われています家族法制部会の動向についてのニュースがたくさんの紙面に躍りましたけれども、私はちょっとがっかりしているんですね。これ、法制審の議論の主語が父母だからです。佐々木委員(引用者註:公明党の佐々木さやか参議院議員)からも子供を中心に議論してほしいという声ありましたけれども、こういう子供の場合は、こういう子供の場合はという議論の進め方ではなくて、こういう父母の場合はこうしましょう、こういう父母の場合はというふうにあくまで親が主体になっているんです。子供を真ん中に据えてほしいと思っているんですね。

また、前述したように導入それ自体に反対する本村議員(共産党)も、2024年4月9日の衆議院法務委員会で「子どもの最善の利益を判断する際、あらゆる段階で子どもの意見を聞くことが不可欠だ」としている。同議員は、本改正案における子どもの意見表明権の保障は不十分であり、「低年齢や、声を聞かれにくい子どもの意見を聞くべき」だと続けた

2. 親権の決め方

2つ目のポイントは親権の決め方だ。前提として、共同親権が導入されたとしても、単独親権が選択できなくなるわけではない。4月5日の法務委員会で、おおつき紅葉衆議院議員(立憲民主党)は、小泉龍司法務大臣に対し次のように質問した。

今回、共同親権というのは原則ではないんですよね、原則ではないということを改めて、最後に大臣、原則ではないかどうかだけでいいです。答弁をお願いします。

これについて、小泉法務大臣は次のように答えた。

子どもの利益のためにつくられる制度でございます。何が原則ということを定めているものではありません(*4)

また同日、寺田学衆議院議員(立憲民主党)は、親権の判断において、「単独よりも共同の方が認められやすいという話が流布されている」として、これに対し法務省がどのような見方を持っているか質問した。法務省の竹内努民事局長は、どちらが認められやすいとは一概に言えない、として次のように回答している。

離婚後の父母双方を親権者とするか、その一方とするかについては、個別具体的な事情によって判断されるものでございますので、どちらが認められやすいということは一概には言えないと考えております。

このように、共同親権が原則となるわけではないこと、そして、個別具体的な事情を考慮して判断するため、単独と共同のどちらが認められやすいとは一概に言えないことが説明された。ただ冒頭で触れたように、共同親権が原則となるわけではない、という点について現時点での明文化は見送られている。

(*4)一方で、 共同親権を原則化すべきだとする意見も見られた。たとえば、池下卓衆議院議員(日本維新の会・教育無償化を実現する会)は4月2日、「私は、しっかりとまずは、お子さんを共に育てる共同親権を原則とすべきだと思いますし、例外として、色んな暴力等々、経済的等々とありますので、それは単独親権していくと」と述べている

「子の心身に害悪を及ぼすおそれがある」の意味

そのうえで、前述した通り、DV などが実際に発生していると認定されなかったとしても、「子の心身に害悪を及ぼすおそれ」が存在する場合に、裁判所は単独親権と判断する規定がある。この基準が何を意味するかについても議論が交わされた。

具体的には、身体的・精神的・経済的DVに加え、父母同士の喧嘩などによっても、単独親権になるケースがあるとされた。

身体的 DV 以外の DV がある場合

具体的には、4月2日の大口善徳衆議院議員(公明党)による質問に答える形で、竹内民事局長は次のように、身体的 DV 以外の DV でも「害悪を及ぼすおそれ」の要件に当てはまりうると説明している

身体的なDVがある場合だけでなく、精神的DV、経済的DVがある場合や、父母が互いに話し合うことができない状態となり親権の共同行使が困難な場合も、事案によりましてはこの要件に当てはまることがあると考えられます。

また、前述の本村議員(共産党)は、モラルハラスメントなどが精神的 DV に含まれるかについて次のように質問した。

単独親権と判断されるDV、虐待、あるいは共同親権の時に急迫と判断されるDV、虐待には、身体的暴力のみならず、精神的暴力、心理的暴力、経済的暴力、 性的暴力等を含むべきだというふうに考えますけれども、いかがかという点、また、モラルハラスメントについては、精神的DV、精神的暴力と考えるべきだというふうに思いますけれども、見解を伺いたいと思います。

これに対し、小泉法務大臣は次のように回答した。

個別の事案によりますけども、ご指摘のモラルハラスメントについても、いわゆる精神的DVに当たる場合等には、裁判所が単独親権としなければならない場合や親権の単独行使が可能な場合に当たるケースがあると考えております。

続けて同大臣は、精神的暴力の場合に、医師の診断書のような客観的証拠が必要かと問われ、それは必須ではないとして以下のように答弁している。

医師の診断書のような過去に精神的な暴力があったことを裏付ける客観的な証拠の有無に限らず、諸般の状況が考慮されることになると考えております。したがって、個別の事案にもよりますが、お尋ねのような場合において医師の診断書が必須であるとは考えておりません

したがって、ここで明確にされたことは、身体的 DV 以外にもモラハラを含む精神的 DV、経済的暴力も、子どもの心身を害する「おそれ」に当てはまりうることだ。くわえて、その種の暴力を裏付ける医師の診断書は必須ではないとされたため、客観的な証拠が不十分なケースでも単独親権となる可能性がある。

DV が無い場合

さらに、DV が無い場合でも単独親権が認められるかが議論された。4月2日の法務委員会で、前述した竹内民事局長は、「おそれがある」場合の認定基準について以下のように答弁している。

おそれの認定につきましては、過去にDVや虐待があったことを裏づけるような客観的な証拠の有無に限らず、諸般の状況を考慮して判断することとなり、いずれにせよ、裁判所が必ず単独親権としなければならないケースは、DVや虐待がある場合には限られません

DV が無くても単独親権となりうる具体的なケースとは、たとえば養育費を払っていない場合だ。小泉法務大臣は4月5日、山井和則衆議院議員(立憲民主党)の質問に答える形で次のように答弁した

何年もケアしていない、養育費も払っていない、コミュニケーションも取っていない。だけれども、共同親権になった途端に介入をしてくる、あるいは妨害的なことをしてくるということになれば、それはそもそも共同親権者としてふさわしくない、あるいは共同親権を行使するにふさわしくないという判断が十分裁判所において成り立ちます

さらに、父母の間に DV は無いが、食事中に全く口を聞かない、互いにあからさまに冷たい対応をし合うなど、父母が完全に不仲であるようなケースもあげられた。前述した寺田議員は4月5日、次のように質問した

DVのみならずです。父母の関係が不和不仲、今申し上げたような、もう冷戦関係も含めてです。DVはしてないですよ。ただ、もう完全に不仲の場合においても共同親権が認められる余地ってあるんですか。

この点について竹内民事局長は、次のように回答している。

個別具体的な事情によるため一概にお答えすることはなかなか困難ではございますが、父母同士の喧嘩によって子の心身の健全な発達を害するような場合には、子の利益を損ねるという意味で単独親権になる場合があると考えられます。

このように、たとえ DV が無くても、養育費の支払いや父母間のコミュニケーションが無く、子どもの利益を害するおそれがあれば、家裁によって単独親権とされる場合がある。

3. 親権の行使の範囲

3つ目のポイントは、親権の行使の範囲についてだ。前提として、これまでの民法では、離婚後は単独親権とされてきた。そこで共同親権が認められた場合、どこまでのことを片方の親で決定できるかが論点として浮上している。あらゆる場面で親権者同士の同意が義務化されれば、子どもの不利益になるのではないかとする懸念があるからだ。

具体的には、共同親権の場合でも、片方の親が親権を行使できるケースが2つ想定されている。前述したように、「監護及び教育に関する日常の行為」にあたる場合と、家裁の判断を待っていては子どもの利益に反する「急迫の事情」がある場合、それぞれの意味について議論された。

「日常の行為」の意味について

まず、「日常の行為」が意味するところについては、その日の子どもの食事や習い事の選択、子どもに重大な影響を与えない治療などが該当するとされた。

たとえば、4月2日に枝野幸男衆議院議員(立憲民主党)は、離婚前後を含めた親権行使の範囲について次のように質問している

実は共同行使しなきゃならないというのは離婚後だけじゃないんです。これは離婚後共同親権だけ問われているんですが、婚姻中でも、たとえば協議離婚中であるとか、裁判離婚、裁判調停中であるとか、 DVから逃げてる場合とか、それでも、今回の改正法で共同親権で共同行使が明文化されたわけです。
(略)
DVで逃げてる親が単独で、その離婚協議の相手方と意見が一致しなくても子どもの教育や監護のために単独でできるというのは、範囲どこなんですか。

これに対して竹内民事局長は、次のように答えている。

たとえば、その日の子の食事といった身の回りの世話や、子の習い事の選択、 子の心身に重大な影響を与えないような治療やワクチン接種、あるいは高校生が放課後にアルバイトをするような場合等がこれに該当すると考えられます。

また、道下大樹衆議院議員(立憲民主党)は4月9日、共同親権となった場合、転入・転出届について別居親による同意の必要性について以下のような質問をおこなった。

離婚後共同親権を持つ同居親と子が転居する際、転出元と転入先の自治体は別居親の同意の有無を確認しなければならないのか、確認は不要なのか、伺いたいと思います。

これに対し、政府参考人である総務省の三橋一彦大臣官房審議官は、次のように答えた。

(略)(現在、)未成年者にかかる届け出につきましては、転入、転出などの事実や、現に届出を行っているものの代理権等を確認し、転入、転出等の処理を行っておりまして、 共同親権者である父母双方の同意は求めておりません

今回の民法改正後における転入、転出等の届出につきましても、現行の共同親権である婚姻中における取り扱いと同様と考えておりまして、基本的には現行の事務の取り扱いを変更することは想定していないところでございます。

このように、共同親権であっても片方の親が親権を行使できる「日常の行為」の具体例として、その日の子どもの食事や習い事、放課後のアルバイト、転入・転出の届出、子どもの心身に重大な影響を与えない治療やワクチン接種などが示された。

「急迫の事情」の意味について

次に、「急迫の事情」が具体的にどのようなケースを想定しているかについては、議会や委員会で多数の質疑が交わされた。具体的には、緊急手術、受験の願書提出が翌日に迫っているケース、DV や児童虐待から避難する場合などが該当しうると指摘された

たとえば、2024年3月14日、衆議院本会議において、前述の米山議員(立憲民主党)は、受験の願書提出やワクチン接種が翌日に迫っている場合、この要件に該当するかを質問した。これに対し、小泉法務大臣は次のように回答している。

受験願書の提出期限やワクチン接種の期限が翌日に迫っている場合には、これに当たると考えております。他方で、子の心身に重大な影響を与える手術については、手術日まで2、3ヶ月程度の余裕がある場合には、直ちにはこれには当たらないと考えますが、協議等ができずに手術日が迫ってきた場合は、これに当たりうると考えております。

また、人工妊娠中絶の手術についても、急迫の事情に該当しうるとされた。以下、4月5日の竹内民事局長による答弁を引用する。

中絶手術につきましても、母体保護法によってこれが可能な期間が制限されていることなどを踏まえれば、急迫の事情に該当しうると考えられます。

「急迫」が指す期間について

また、「急迫」が指す期間についても議題とされた。鎌田さゆり衆議院議員(立憲民主党)は4月5日、DV やモラルハラスメントなどの直後でなくとも急迫の事情に該当するか、次のように質問をした

DVやモラハラ等によって、いわゆる子連れ避難の別居は違法行為には当たらないということでよろしいでしょうか。逃げるための準備期間、この証拠を集める、証拠を保全するその期間というのは人によって様々です。逃げるための準備期間もDVに該当するという解釈でよろしいですね。確認です。伺います。

これについて竹内民事局長は、DV 自体が行われていない間も急迫の事情に該当する場合がある、として次のように答えた。

(略)法制審議会家族法制部会におきましては、急迫の事情が認められるのは、「加害行為が現に行われている時やその直後のみに限られず、加害行為が現に行われていない間も急迫の事情が認められる状態が継続しうる」と解釈することができると確認されております。したがいまして、暴力等の直後でなくても急迫の事情があると認められると考えております。このように本改正案は、DV等からの避難が必要な場合に、子を連れて別居することに支障を生じさせるものではないと考えております。

このように、離婚前後において片方の親のみが親権を行使できる範囲について、具体的なケースを想定した質疑が交わされた。ただ、前述した枝野議員などは「日常の範囲がここでのやり取りでもはっきりしない。そしたらもう全部両方(同意を)取れという話になりかねませんよ。だから、こういうとんでもない弊害が起こるんですよ」と批判している

4. 共同親権導入後の懸念

4つ目のポイントは、共同親権導入後の懸念だ。これは大きく、家庭裁判所のコストに関する懸念と、当事者たちの実存的な懸念に分けられる。

家庭裁判所のコストに関わる懸念

まず、家庭裁判所のコストに関する懸念だ。共同親権導入によって、家庭裁判所の役割が増大すると考えられることから、家裁の人的・物的リソースの拡充が求められた。4月3日、参考人として意見陳述した慶應大学の犬伏由子名誉教授は、「今回の法案につきましては、前向きに受け止めております」としたうえで、次のように指摘した。

今回の法案の内容からは、家庭裁判所の役割が増大する事が見込まれ、これに伴い、家庭裁判所の人的・物的整備充実が必要で、予算措置が講じられるべきと思います。

リソースに関する具体的な問題として、家裁の調査官が限られている点、裁判官・調査官が常駐していない支部もあるという地域差、子どもの意見聴取などに必要な児童室が設置されていない庁舎の存在などが指摘された。また犬伏名誉教授の個人的な経験として、調停室が不足していたために、期日の先延ばしを余儀なくされたこともあったという。さらに同名誉教授は、ウェブ会議での調停についても次のような課題を指摘した。

ウェブ調停も進んで来てはおりますけれども、これに対応する調停室が不足しております。書記官に「この次のウェブ調停は、どこの調停室使えますか」というと、「ちょっと待って下さい。探してみます」というような状況であります。また、ウェブ調停をするためのノートパソコン、書記官の方が調停室まで鞄に入れて運んで来て設置する、という状態もあります。

こうした家裁の人的・物的リソースの整備は、当事者たちの実存的な問題につながりうると議論されてきた。

実存的な懸念

次に、当事者たちの実存的な懸念だ。具体的には、DV から避難した子どもや親の安全に関する憂慮が指摘された。

4月3日、法務委員会で参考人として意見陳述した、#ちょっと待って共同親権プロジェクトの斉藤幸子チームリーダーは、DV 被害者について次のような例を挙げた

兵庫県伊丹市では2017年、面会交流中に、4歳の女の子が父親に殺害される事件が起きました。この子の母親は、DV被害を受け離婚。その後、面会交流調停を申し立てられました。調停で、DV被害があったことを訴えましたが、調停委員から面会交流を勧められました。元夫に付きまとわれる恐怖にさらされながらも、面会交流に送り出された日に、娘さんは殺害されました。

こうした例を踏まえ、山井議員(立憲民主党)は4月5日、理論上 DV 加害者が共同親権者として認められないとしても、実践上それが見落とされて被害者が出るケースを懸念し、次のように質問している

小泉大臣、理論上はね、DV の人は除外されますって、それはそうなんですよ。問題は、調査員の方も人数に限りあるし、時間にも限りがあるから、それが見落とされて今回みたいな命が失われるとかそういうことにならないか、それについてもご答弁お願いします。

小泉大臣は、これに対し次のように答弁した。

その判断が甘くなれば、それはおっしゃるようなことにつながってしまうようなリスクはあるわけです。ですから、この法改正を1つの契機として、DV に対して裁判所がどうあるべきか。(略)DVから子どもを守るということをより丁寧に着実に進める。その努力をこの法案というものを1つの大きな契機として、我々は立法も行政も司法も一体となって議論し、進めなきゃいけない。

すでに触れてきたように、物理的な暴力が無くとも、子どもの利益を害するおそれがあると家裁が認めれば、単独親権になる場合がある。

ここで提起されたポイントは、そのように理論上は共同親権者と認められないはずの親について、実際の現場で適切に判断できるか、という論点だった。そして、その判断をおこなう家裁の人的・物的リソースに疑念があるため、この懸念は十分に払拭されていないと批判されている。

今後の論点は

今後、法案は参議院に送られ審議にかけられる。そこでさらに、前述してきた論点、すなわち条文の意味合いや線引き、ガイドラインの設定などに関する議論が交わされるだろう。

一枚岩ではない賛成派

そのうえで、今後の論点の1つとして、本改正案に賛成した政党・会派・議員の足並みが揃うかという点があげられる。

冒頭で触れたように、本改正案は自民・公明の与党、加えて日本維新の会・立憲民主党・国民民主党・教育無償化を実現する会から賛成を集めた。

ただ、賛成した議員の間でも足並みの乱れが見られている。特に、立憲民主党と日本維新の会所属議員は、改正案の可決に際して対立姿勢を表面化させた。

前述した寺田議員(立憲民主党)は4月12日、当初共同親権の導入に反対していた立憲民主党が賛成に回った背景について、次のように説明している。

でも今日この過程、今日を迎えるにあたって、数日前ですかね、附帯決議案に虚偽DVという言葉や不当な連れ去りという、国会決議には私は相応しくないような、一方的な見方による攻撃的な言葉が盛り込まれたことがありました(*5)。正直目を疑いました。

それと同時に、私や多くの同僚は確信したと思うんですけれども、これは申し訳ないですけれども、自民党や維新の皆さんに任せていたらこんなことが次々と起こるんじゃないかな、という危機感を覚えました

そのうえで、「最終的に附帯決議案からそのような言葉は全部削除されて、我々も同意できるような内容にはなっておりますが」、同党が反対を貫いていたら「何が起こったのかということは正直怖いものがあります」として、以下のように続けた。

だからこそ関与し続ける必要性を私たちは強く感じています。我々は、苦渋な判断ながら修正案に賛成して、協議の枠組みに引き続き関与し続けて、この法案の運用に影響を続ける道を選ぶことになると思います。

それ自体は多くの支援者の方々から、一時の怒りや誤解を受けても、それでもしぶとく、粘着質を持って積極的にこの法律の解釈と運用に関与していくためだと。自民党や維新の皆さんには好き勝手させないよという強い意思表示だということは、私は議事録に残しておきたいというふうに思っております。

こうした寺田議員の発言について、斎藤アレックス衆議院議員(日本維新の会)は、4月16日の本会議で次のように述べて不信感をあらわにした。

本法案に対する衆議院法務委員会での4月12日の質疑において、立憲民主党の質疑者(引用者註:寺田議員のこと)から、「自民党や維新に好き勝手させないために、苦渋の判断だが、修正案に賛成する」という趣旨の発言があった事は、大変残念です。

この民法の改正案に対しては、各党が党内に、様々な意見を抱えています。

だからこそ、修正協議では真摯に議論を重ね、お互い譲るべき点は譲り、何とか協議を妥結させたにもかかわらず、その直後に、交渉を行った相手方である、わが会派などを一括りにして切り捨てるような姿勢には、強い不信感を抱きます

注目度の高い法案に関して、賛成派内部でも足並みが乱れれば、その審議手続きや運用方針の一貫性に疑義が呈されても不自然ではないだろう。今後、賛成派が一枚岩となって議論が進むかは大きな論点の1つになる(*6)

今回の衆議院での可決を経て、法案は参議院に送られる。1898年に定められた日本の親権制度に大きな転換点が迫る中、本件は引き続き重大な論争を喚起するだろう。

(*5)ここで言及されている附帯決議案について本誌は確認できていない。
(*6)また、自民党内部からも野田聖子衆議院議員が本改正案に反対している

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
早稲田大学政治学研究科修士課程修了。関心領域は、政治哲学・西洋政治思想史・倫理学など。
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