Hand of man holding a smartphone displaying the Tik Tok application logo(Olivier Bergeron, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

トランプ大統領、TikTok・WeChat禁止令に署名。今後のシナリオは?

公開日 2020年08月07日 03:41,

更新日 2023年09月20日 10:25,

有料記事 / テクノロジー

[7日23時11分追記] 本記事の公開後、複数のメディアからTencentのWeChat禁止について興味深い見解が出たため、有料部分に追記しています。当初公開していた無料部分は、引き続きお読みいただけます。

現地時間の6日夜、トランプ大統領は注目されていた大統領令に署名した。Tencent傘下のWeChat、そしてByteDance社によるTikTokについて、米国関連の取引が45日後から禁止されることになる。

トランプ大統領は、中国・共産党による米国人のユーザーデータの入手、市民の監視、そして11月の選挙に向けて、中国に有利なフェイク情報が流布されることを懸念しており、今回の措置に踏み切ったとされる。

これまで何が起きていたか

本誌で詳しく説明したように、米国においてTikTokが禁止される可能性は、2019年秋頃から高まっていた。当初はユーザーデータの漏洩よりも、香港デモやウイグル問題をめぐって、中国・共産党がコンテンツを検閲していることへの懸念が強く、11月にはCFIUS(対米外国投資委員会)を通じた調査も開始された。

この調査は、TikTokが米国市場進出のために買収したMusical.lyをめぐるもので、中国の通信大手Huaweiの禁止と合わせて、2020年冬にかけて一気に中国・テクノロジー脅威論が高まる契機となった。

TikTok側も、ディズニー元幹部のケビン・メイヤー氏をCEOに起用するなど対応を進めてきたが、今年7月に入ってからは、ポンペオ国務長官とトランプ大統領が相次いでTikTokの米国内における禁止を明言、事態は加速していく。

7月末には、ByteDanceの株主であるSequoia Capitalや日本のSoftBankなどが、同社から米国のTikTokを買収して切り離す狙いが報じられた他、後に本命となるMicrosoftによる買収交渉も報じられた。

8月1日には、トランプ大統領の動きに合わせて、Microsoftによる買収が破断したという噂や、交渉の再開・確定などの噂が飛び交っていたが、この憶測は週明けになってもByteDance社から認められることはなかった。

こうした中でMicrosoftは、米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドにおけるTikTok買収の検討および9月15日までの交渉が進行中であることを明らかにした。ByteDance社も、今週に入ってCEOによる従業員向けメッセージが報じられ、買収交渉は認めたものの、最終的な決定には至っていないことも明らかにした。

一方で政府レベルでは、6日に米国上院が連邦政府職員のスマホにおけるTikTok禁止を決定するなど、着々とTikTokの禁止に向けた動きを強めており、残るはトランプ大統領による署名のみという状況だった。

45日の交渉が焦点

今日の大統領令により、米国政府の動きとしては一旦終了し、今後はByteDance社と米国企業の交渉に焦点が移っていく。45日以内に交渉がまとまらなければ、ByteDance社にとっても一夜にして巨大な米国市場を失い、Microsoftにとっても巨大コンシューマー向けアプリを獲得する千載一遇の好機を失うことになる。

GoogleやFacebookなど巨大テクノロジー企業が、政府当局から独占禁止法に関連して厳しい目を向けられている中、この買収交渉に参加できる企業はそれほど多くないが、交渉は難航すると見られている。なぜなら、TikTokの買収金額が巨大である上に、機械学習などByteDance社のコアな技術や優秀な人材をどのように扱うかという難題が残されているからだ。加えて、買収企業にとっては引き続き中国発のブランドを抱えることで、当局への説明責任や市民からの疑義にも応える必要があり、こうした問題をすべて45日以内にクリアすることは容易ではない。

WeChatの影響

また同時に注目されるのは、WeChatの存在だ。TikTokのユーザー規模や中毒性から、その禁止にあまり注目が集まっていないが、サービスの性質を考えると、TIkTokと同等かそれ以上のインパクトがあるだろう。

Bloombergによれば「中国・米国企業による国際的なビジネスに、はるかに大きな影響を与える可能性があり、医療用フェイスマスクやAppleによるiPhoneの製造、そして弁護士や銀行家の契約まで全てに影響を与える」という。

愉快な動画を楽しむためのTikTokに比べて、WeChatが中国のインフラになっていることを考えると、中国に家族・親類などがいる米国居住者はもちろん、米中双方の企業にとって甚大な影響を及ぼす。FacebookのWhatsappなど多くのメッセージング・アプリは中国国内で禁止されており、45日以内に多くの企業や個人が対応を迫られる形となるだろう。

今後何がおこるか

今後の焦点は、大きく3つある。1つは、45日以内にTikTokの交渉がまとまるかだ。先述したように本問題は、すでに政府による法的措置のフェーズが終わり、企業間の交渉の問題へと移っている。数百億ドルにのぼる可能性がある巨額の買収が、果たして短期間で決定するかが最も大きなポイントだ。

もう1つは、他の中国製アプリへの影響だ。中国は長年にわたって他国のテクノロジー・サービスを追い出し、反対に米国では中国製サービスを自由に利用できた。しかし、WeChatのようにインフラとなっている中国製サービスすらも米国で禁止されていくならば、こうした前提は覆されていくだろう。トランプ大統領が今回の取引で味をしめるならば、同様の措置を連発していく可能性もある。不確実性の高い問題ではあるが、米中対立がますますエスカレーションしていくかを占う上で重要なポイントであると言えるだろう。

最後に、他国の反応だ。日本でもTikTokの禁止を一部議員や自治体が訴えているが、中国政府からは「アプリが禁止されれば日中関係に大きな影響を与える」と伝えられた報道もある。

オーストラリアやEUなどは、TikTokの禁止措置について様子をうかがっている状況だが、米中対立がエスカレーションすることで、各国が対応を迫られれば、国際社会にとって重要な転換点となる可能性もある。

追記:Tencentに関するさまざまな見解

トランプ大統領による行政命令からしばらくして、WeChatに関する幾つかの見解が出始めた。例えばBloombergによれば、今回の決定は「グローバルビジネス全体を脅かす」可能性があるという。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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