Naomi Osaka(Peter Menzel, CC BY-SA 2.0

スポーツにおける政治、どのように問題となるのか?

公開日 2020年09月14日 20:51,

更新日 2023年09月13日 17:34,

有料記事 / 政治

2020年9月12日に開催されたテニスの4大大会・全米オープン女子シングル決勝で、大坂なおみが2回目の優勝をはたした。このテニス選手としての快挙も非常に重要だが、今大会で特に注目されたのは、黒人差別による襲撃事件の被害者の名前が入った7種類のマスクを着用していたことである。彼女自身はこうしたマスクを着用することで、人々の興味や人種差別主義についての議論を促すことを狙ったものとしている

全米オープンの前哨戦にあたるウエスタン・アンド・サザン・オープンでも、ジェイコブ・ブレーク氏への銃撃事件に抗議し、大坂は準決勝を棄権する意向を示した。女子テニス協会(WTA)と全米テニス協会(USTA)との協議を経て、大会側のサポートと日程の延期がおこなわれたため、彼女は出場続行を決定したが、こうした彼女の言動は大きな注目を集めた。

こうした大坂の行動はアメリカで称賛を受ける一方で、日本のスポンサー企業が彼女の反人種差別主義的な言動に難色を示すなど、人種差別問題に対する温度差が浮き彫りになる結果となった。

しかし、スポーツ選手が政治的な言動をすることはなぜ批判されるべき事象とされるのだろうか。また、そもそもスポーツは政治と無関係で中立な存在でいられるのだろうか。

アスリートの訴えは「スポーツの政治利用」なのか?

そもそも、アスリートによる政治的な訴えは、ベルリン五輪陸上で4冠を達成したジェシー・オーエンスや有色人種排除の方針が確立されていたMLBでメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの時代から、ビリー・ジーン・キングやモハメド・アリなどによってもなされていた。しかし、アスリートにとって政治的な言動をとることは1970年代以降、長年に渡って困難とされてきた

冒頭の大坂なおみの言動に限らず、かねてからアスリートたちは「政治問題に関わらず、スポーツに固執(Stick to Sports)すべき」という「奇妙なスティグマ」に晒されており、そこからはずれることは不利益になると見なされてきた。

ただし実際には、2019年のスポーツ行動学の実験研究によれば、公の場で「スポーツに固執する」ことを拒否した架空のアスリートに対して視聴者の認識はよりネガティブになるが、所属チームへの視聴者の認識は変わらなかった。また、「スポーツに固執する」ことを求める人は政治的な活動がアスリートとしての活動を妨げるとみなす一方、政治性を支持する人は、個人的なコストにもかかわらず、重要な問題のために彼らが自身の影響力を勇敢に活用しているとみなすとされている。「スポーツに固執する」ことへの視線は、決して一貫したものではなく、複雑な位相にある。

では、「スポーツに固執する」ことをめぐって、実際にはどのようなことが起こっているのだろうか。

NFLでの国歌斉唱拒否

NFLの事例は、上で参照したスポーツ行動学の研究でも言及されている。

2016年8月26日の試合で、当時サンフランシスコ49ersに所属していたコリン・キャパニック選手が国歌斉唱時の起立を拒否し、ベンチにとどまるという出来事が起こった。彼はこの理由について人種差別への抗議を意図したものだと説明し、黒人/白人の人種間の分断を含む大きな賛否両論を巻き起こした。

キャパニックの行動に触発され、NFLでは数多くの選手が彼の講義に賛同し、国歌斉唱中に片膝をつく「taking a knee(taking the knee)」と呼ばれる抗議行動は、黒人選手を中心に大きな広がりを見せた。また、こうした抗議はサッカー野球など、他競技にも波及した。

2018年、NFLは選手会の反対を押し切って国歌斉唱を実質義務化する規則を設けるなど、強硬な姿勢を崩さなかった。しかし、ジョージ・フロイド氏の死亡を受けて抗議運動がますます高まる中、2020年6月、NFLのコミッショナーは人種差別主義との戦いをサポートすることを表明した。

こうしたNFLの動きに対し、ドナルド・トランプ大統領は「アメリカン・フットボールは地獄のように退屈だ」と発言するなど、敵対的な態度を取っている。また、反人種差別主義の旗手となったコリン・キャパニックについてはナイキの広告起用を批判し、抗議行動をおこなって以降、長らく選手としての契約がない状態について「もし彼に能力があるなら復帰すべきだ。だが彼のプレイは素晴らしいものではなかった」と述べている

レブロン・ジェームズとBLM

バスケットボール界でも、スター選手が自身の政治的立場を表明している。数々の最年少記録や歴代記録を更新し、NBA史上最高の選手との呼び声もあるレブロン・ジェームズは、Black Lives Matterを運動ではなく、黒人にとっての「ライフスタイル」であるとして賛同し、人種差別や警察の残虐行為に反対している。また、ジョー・バイデンへの支持を表明し、元犯罪者への投票権に対する無知や、投票権の制限がある州への批判もおこなっている。

こうした彼の政治的言動に対し、2018年、Fox Newsのローラ・イングラハム記者が「ボールをバウンドさせるために年間1億ドルを支払われる人から政治的助言を受けるのは賢明ではない。黙ってドリブルしろ」と発言して問題となった。

キャパニックにせよレブロンにせよ、トランプ大統領本人や彼の支持者から名指しで批判される点に鑑みれば、人種差別問題と政治、そしてスポーツが密接に結びついていることは明らかだろう。

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✍🏻 著者
法政大学ほか非常勤講師
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院修士課程にて修士号、同大学院博士後期課程で博士号(社会学)を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。
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