中国の一人っ子政策はどのような歪みを残したのか?

公開日 2020年11月04日 14:43,

更新日 2020年11月04日 14:52,

有料記事 / 政治・国際関係

2020年11月1日、中国政府は第7回国勢調査を開始した。今回の国勢調査は、本土に住むすべての中国国民と、一時的なビザで海外に住む人々を対象とし、本土に6ヶ月以上住んでいる外国人もデータに記録される。約700万人ものスタッフが訪問調査などに従事し、結果は2年以内に国家統計局と地方自治体を通じて公開される予定となっている。

国勢調査では、名前、ID番号、性別、婚姻の詳細、教育、職業、その他の中国国民に関する情報を含むデータが収集され、調査にあたって住民は、携帯電話などの携帯端末を使って個人情報や家族情報を申告することが奨励されている。こうした調査の電子化もあり、2020年5月には国家統計局が調査で取得した個人情報の機密保持を誓約し、同年10月中旬には個人情報保護法案が提出された。しかし、2017年には出生率データが統計年鑑から削除されたことなどもあり、データの透明性やデータセキュリティは不安視されている。

今回の国勢調査の結果をふまえた関心はさまざまある。例えば、都市化プロジェクトにおけるゴーストタウン問題もその一つである。李克強政権下では、深センや上海の浦東新区の成功を受け、大規模なインフラプロジェクトと建設ラッシュ、そして農村部から都市部への大規模な人口移動が経済成長の要とされていた。しかし、都市化は必ずしも企業の誘致や労働者の流入といった実態が伴わず、地方自治体に巨額の借金と多数のゴーストタウンを生み出す結果となっている。こうした社会問題は、都市への人口流入が課題であることから、国勢調査の結果が重要となる。

しかし、中国の国勢調査をめぐって最も注目されているのは、「一人っ子政策」を緩和したことで人口増加が起こっているのか、である。中国では、国家統計局によって10年に一度国勢調査が実施され、2010年におこなわれた第6回国勢調査では、人口が12.9億人から13.7億人に増加したことが明らかとなった。また、第6回国勢調査でははじめて外国人も調査対象となり、韓国やアメリカ、日本を中心におよそ60万人の外国人が中国本土に暮らしていることが判明した。

しかし、同調査では14歳以下の中国本土の人々の割合は16.6%と、2000年の国勢調査からは6.29ポイント減少していた。つまり、人口こそ増加しているものの少子高齢化も伴っているという見取りが10年前に提示されたのである。

では、世界最大の誇る中国の人口動態に影響を及ぼす一人っ子政策とは、どのような経緯で始まり、緩和されたのだろうか。そして、一人っ子政策が及ぼしたとされる影響はどのようなものだろうか。

一人っ子政策の経緯

そもそも一人っ子政策はどのようなもので、なぜ生まれたのだろうか。

食料や資源の需要を制限するための一時的な措置として、人口抑制政策はとられた。中国政府が人口抑制を図った背景には、乳児死亡率の低下や平均寿命の長期化による急激な人口増加があった。毛沢東政権下において、乳児死亡率は、1949年の出生1000人当たり227人から1981年には1000人当たり53人に減少し、平均余命は1948年の約35歳から1976年の66歳に劇的に上昇した。食糧危機を理由に1950年代中頃には都市部を中心として計画出産が奨励されていたものの、1958年の「大躍進」政策前後には、人口増加が国力強化につながると考えられていたこともあって頓挫していた。その後、1971年に周恩来首相の提唱により、改めて計画出産政策が開始されることとなった。

1979年、出生率の大幅な低下がなければ「経済を発展させ、国民の生活水準を上げることはできない」という鄧小平の発想に基づき、原則として漢民族のカップルに対する計画出産を推進した。1980年の「中華人民共和国婚姻法」以降、少数民族や農村部のカップル、長子が女性の場合などについては第二子をもうけることを許可するなど、地区によって規制の程度は異なるものの、例外措置や緩和措置もなされた。

その後、2015年に至る35年以上もの間、一人っ子政策は継続することとなった。2013年時点で、一人っ子政策への違反者からの罰金は31億ドルにものぼったとされており、社会統制や税収の手段としても有効だったことも、政策の長期化に影響したとされていた。

一人っ子政策は人口抑制という点では大きな効果をあげた。中国の急激な経済成長を考慮しても、1970年から2015年の間に約5億人、1979年以降の政策だけで約4億人もの出生を抑制したと報告されている。

しかし現在、中国当局は同政策の影響を深刻に捉えるに至った。2015年の中央委員会第5回全体会議で一人っ子政策の廃止が決定し、全ての家庭に2人の子どもを持つことが許可された。しかし、その見通しは必ずしも明るくはない。中国政府は、2018年の出生数が約2,190万人に増加すると予想していた。しかし、実際の出生数は1,520万人と、1961年以来最低を記録することとなった。

一人っ子政策廃止の理由は「中国が今このようなことをしているのは、男性が多すぎて、老人が多すぎて、若者が少なすぎるからです。一人っ子政策の結果として、この巨大な人口動態の危機に陥っているのです。もし人々がより多くの子供を産み始めなければ、巨大な高齢化人口を支えるための労働力が大幅に減少することになるだろう」という、ピューリッツァー賞受賞経験を持つジャーナリスト、メイ・フォンの言葉にまとめられる

つまり、人口抑制には成功したものの、人口動態上の影響があまりにも大きく、逆に危機を招いてしまったのである。では、一人っ子政策はどのような影響を中国の人口動態にもたらしたのだろうか。

一人っ子政策の負の遺産

そもそも、一人っ子政策にはどの程度人口抑制に効果があったのかについては、研究者の間でも意見が分かれている。例えば、2019年の研究では、1973 年に導入された規制の少ない「後期少子化政策」は出生率の低下に重要な役割を果たしたが、1979 年に導入された「一人っ子政策」はあまり影響がなかったことが示唆されている。この結果に対して「歴史からのこの政策の影響の消去」だとして批判もなされるなど、施策の効果をめぐっては数々の論争が起こっている。

しかし、一人っ子政策が中国の人口動態に与えた影響は人口抑制だけではない。以下では、一人っ子政策の影響が指摘される、さまざまな中国社会の問題について見ていくこととしたい。

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著者
法政大学ほか非常勤講師
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院修士課程にて修士号、同大学院博士後期課程で博士号(社会学)を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。
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