ポーランド、人工中絶への違憲判決をめぐり大規模デモ。一体なぜ?

公開日 2020/11/09 17:41,

更新日 2020/11/09 22:44

有料記事 / 社会問題・人権・環境

  • 目次
  • ポーランドの中絶関連法の歴史
  • 違憲判決を批判する論点

2020年10月22日、ポーランドの憲法裁判所は、胎児が重度の障がいを持っていることを理由にした人工妊娠中絶が違憲であるとの判決を下した。国内で毎年約1000件おこなわれる人工妊娠中絶の98%は、胎児の障がいを理由としている。もともと、ポーランドの中絶関連法は制限が多かったが、もしこの判決が法制化された場合、レイプや近親相姦、または母親の健康と生命が脅かされる場合を除いて、国内での中絶は認められなくなる。

この判決を受けて、国内では首都・ワルシャワを中心に数十万人規模の抗議デモがおこなわれており、その盛り上がりは1989年の共産主義体制崩壊後では最大とも言われている。抗議者の大多数は15歳から40歳までの女性だが、鉱山労働者や農民など、伝統的に保守的とされる有権者たちのグループも抗議を支持している。

世論を見ても、今回の判決に対して市民は強い反感を示している

ポーランドの日刊紙GazetaWyborczaによる世論調査では、中絶関連法そのものを改革するべきと考える人の割合は必ずしも高くない。回答者の62%は、胎児が重度の障がいを持っていることを理由にした人工妊娠中絶を認める現行法を支持しており、妊娠12週目までのあらゆる中絶を支持しているのは22%である。

多くの人々は現行法を支持、あるいは中絶を認める条件を広げるべきと考えている中で、反対に、中絶の完全な違法化を主張する人は、わずか11%にとどまる。

こうした国民の声とは逆行して、現行法を違憲として中絶にさらに厳しい制限をかける判決に批判の声が集まっているのだ。

なぜ、人工妊娠中絶をめぐる判決が、ポーランドでこれほどの反発を招いているのだろうか。ポーランド社会の文脈に沿って、論点を整理していく。

ポーランドの中絶関連法の歴史

そもそもポーランドの中絶に関する法律は、これまでの歴史でどのような展開をたどってきたのだろうか。

ポーランド分割から独立回復後の1932年まで、ポーランド内では中絶が全面的に禁止されていた。その後、第二共和国体制の下、法制度を整備する際に声明の法的保護が議論の対象となった。カトリック勢力や保守派とリベラル派による衝突を経て、最終的には医学的理由やレイプ、近親相姦、未成年との性交渉による妊娠といった例外を除いて、中絶は法的に禁止された。

1939年のポーランド戦役を経たナチスによる占領期には、1943年から1945年の間、ポーランド人女性による無制限の中絶が許可された。ナチスの優生思想や人種差別に基づいた法改正だったとはいえ、ポーランドの歴史上、中絶が全面的に合法だったのはこの期間のみである。

第二次世界大戦後、ソ連の衛星国となったポーランドでは、新たな中絶関連法が制定された。新しい法律は中絶を選ぶことに寛容な内容だった。特に女性が「困難な生活条件」下にある場合の中絶を下院議会が認めたことで、法解釈の幅が広がり、女性が中絶を選ぶ自由度が高くなった。

1989年のソ連崩壊を経て、現在のポーランド共和国が成立したのち、1993年に施行された法律が、現在の議論のベースとなっている。1997年には共産主義体制下で認められていた、「困難な生活条件」下にある女性の中絶に関する法律も失効させられ、中絶を選ぶ自由は制限されている。

このように、ポーランドの中絶関連法は、時代ごとの政治体制によって大きく変化してきた。そして、共産主義時代と比べて現在の法律は自由度の低いものとなっている

違憲判決を批判する論点

では、現代のポーランドにおいて、中絶に対する違憲判決への抗議はどこにポイントがあるのだろうか。以下では、2つの主要な論点を検討することにしたい。

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著者
法政大学ほか非常勤講師
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院にて修士号、同大学院博士後期課程で博士号(社会学)を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。
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