Ruhollah Zam(Tasnim News Agency, CC BY 4.0) , Illustration by The HEADLINE

イランのジャーナリスト処刑。世界で続くジャーナリストへの人権侵害とは

公開日 2020年12月26日 16:06,

更新日 2023年09月19日 15:53,

有料記事 / 政治

2020年12月12日、イラン人ジャーナリスト・活動家であるルホラー・ザムの死刑が、イラン国内で執行された。彼の処刑は世界各国で一斉に報じられ、国際的な批判を浴びている。

イラン当局は、ザム氏がスパイや暴力の煽動をおこなったとして、イスラム法に基づく「地上に腐敗を広めた罪(Mofsed-e-filarz)」を根拠として処刑した。この法律は、1979年のイラン革命時に当時の最高指導者だったホメイニ師が導入し、反体制的な政治的異議申し立てに対して、数々の死刑判決をもたらしてきた。

彼の処刑は、なぜ国際的な注目を集めているのだろうか。

ザム氏の処刑の論点

そもそも、ザム氏はどのような理由で逮捕・処刑されたのだろうか。また、彼の処刑について、具体的にどのような批判がなされているのだろうか。

以下では、それぞれの点について概観していく。

逮捕・処刑に至る経緯

ルホラー・ザム氏
ルホラー・ザム氏(Tasnim News Agency, CC BY 4.0

ルホラー・ザムはテヘランで聖職者の家庭に生まれ、父はホメイニ師の支持者で、ロウハニ政権下で政府の上級職を務めた経験もある。彼の名前であるルホラーも、ホメイニ師の名前にちなんでつけられた。

ザム氏の活動は、2009年のイラン大統領選挙までさかのぼる。強硬派のアフマディーネジャード大統領が第2期を目指す選挙に勝利した際、選挙結果の不正操作に抗議する「緑の運動」が起こった。当時Webメディアで働いていた彼は、この運動に関わり逮捕され、政治犯の収容や処刑で知られるエヴィーン刑務所に収監・拷問された。

その後、ザム氏はマレーシアやトルコを経由してフランスへ政治亡命した。2015年に、同じく2009年に逮捕・収監を経験し、カナダやフランスに亡命した仲間たちと、メッセージングアプリTelegram内のニュースチャンネルAMADnewsを設立した。チャンネル内ではデモの情報共有や当局者のスキャンダルなどを発信しており、ピーク時には、国外の情報を知るために数多くのイラン人が利用しているBBCのペルシャ語版サービスよりも、多くの加入者がいたほどだ。

彼らのサービスは、2017年から2018年の経済政策や神権政治体制に対する抗議活動が盛り上がる中で、当局と抗議者双方から注目された。2018年には、火炎瓶の作成方法など暴力的な抗議活動を煽ったというイラン政府からの苦情を受けて、Telegramの規約違反によってチャンネルは一時停止された。しかし、その後も別の名前で活動は継続されている。

2019年10月、資金調達のためにシーア派聖職者を訪問予定だったバグダッドで、ザム氏はイラクの諜報機関に逮捕され、引き渡し協定に基づいてイランに身柄が移送された。

その後、2020年2月に裁判がおこなわれ、6月30日に死刑判決が下された。

批判の焦点

ザム氏の処刑に対しては、世界各国から批判の声が寄せられている。 EUや彼の亡命先だったフランス外務省は、イラン政府に対して鋭い批判を浴びせた。このため、テヘランでは司法の独立に対する外国からの干渉行為だとして、EUの議長国であるドイツの駐在大使が、イラン政府に召喚される事態となった。

また、国際的なジャーナリスト団体のジャーナリスト保護委員会や国境なき記者団、人権団体のアムネスティ・インターナショナルなどがイランを批判している。

各国政府や国際組織による批判の焦点は、表現の自由や報道の自由に対する政治的抑圧にある。

イランは、2020年の世界報道自由度ランキングが173位と低く、1979年以降、860人のジャーナリストが投獄または処刑されている。同国はソーシャルメディアを積極的に検閲していることでも知られ、2018年にはインターネットや電話回線、VPNまで遮断した。

アムネスティ・インターナショナルは、政治的抑圧の手段としての死刑執行を批判している。イランは、死刑執行件数が中国に次いで2番目に多いであり、その中には不公正な裁判を経ての処刑も含まれる。国際人権法の下で保護されている行為(同性間の性行為や性的な婚外関係を含む)や、「預言者を侮辱した」「神への敵対心」「地上に腐敗を広めた」などの曖昧な表現の犯罪に対しても執行されていると批判されている。

ザム氏のケースも、曖昧な表現の犯罪に対する執行とみなされている。 ザム氏の死刑については、国際法曹協会も「司法殺人」(司法による殺人)と、同団体のTwitterで批判している。

では、なぜイランはこうした国際的な批判を浴びながらも、表現の自由や報道の自由に対する政治的抑圧を続けるのだろうか。

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✍🏻 著者
法政大学ほか非常勤講師
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院修士課程にて修士号、同大学院博士後期課程で博士号(社会学)を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。
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