男女別定員制度の問題とは何か?

公開日 2021年06月01日 17:13,

更新日 2021年06月02日 18:06,

有料記事 / 社会問題・人権・環境

2021年5月26日、東京都立高校の入試で女子の合格ラインが男子のそれを大きく上回る状況が続いていることを毎日新聞が報じた。

東京都では、公立高校(全日制普通科)の募集定員が男女別に設定されている。教育の専門紙である日本教育新聞によると、性別による合格最低点の格差を是正するために平成10年度(1998年)入試から導入された制度である。

しかし、男女別定員制は公立高校入試において一般的とは言い難い。2021年4月27日におこなわれた参議院 文教科学委員会での瀧本寛 初等中等教育局長の答弁によると、公立高校入試での男女別定員制は、東京都を除いて実施が把握されていない(*1)

(*1)令和2年度入試までは、群馬県の高崎商業高校でも男女別定員が確認された。また、高校入試ではないが、長野県の2つの県立中学校で男女別定員の廃止が決定したと報じられた。

問題視されてきた「男女の合格ライン」

都立高校入試における男女の合格ラインが取り沙汰されたのは今に始まったことではない。2019年の朝日新聞や2021年5月9日の東京新聞でも、同様の内容はすでに報じられていた。

今回の毎日新聞による報道で重要なのは、同社が情報公開請求によって入手した、男女別定員制の緩和について、平成27年度〜令和2年度に都立高校長に実施したアンケートを、「東京都立高校の男女別の合格ラインの違いに関する資料」として一般公開した点だ。男女別定員制の緩和をおこなった高校のみとはいえ、男女別合格最低点が開示されたことで、男女で実際にどの程度、高校の入りやすさに差があるのか、点数として可視化されたことだろう。

今回の報道を受けて、5月27日の記者会見で、加藤勝信官房長官が男女別定員制の是非について質問を受けるなど、この問題は広く注目を集めた。

しかし、都教委が公表している過去5年分の応募状況によると、都立高校普通科の倍率は、男女で大きな差は見られない。

では、都立高校入試の男女別定員制はどのような批判を受けているのだろうか。また、男女の合格ラインの違いをめぐる問題の争点はどこにあるのだろうか。

男女別定員制への批判

そもそも、男女別定員制への批判とは具体的にどのような内容なのだろうか。以下では新聞メディアや政治家、研究者の論調を概観していこう。

新聞メディアの論調

冒頭に紹介した新聞メディア各社は、性別の枠をはずした「合同定員制」が導入されていない現状が全国的に見て特殊であり、男女の合格ラインの不平等が批判されている状況を伝えている。 例えば毎日新聞は、過去に検討された合同定員制への移行がいまだ実現されていないことや、東京医科大学などの女子受験者に対する不利な得点調整に言及した上で、男女別定員制が入試における男女差別につながっていると問題視している。

東京新聞は、東京都教育委員会(以下、都教委)や東京私立中学高等学校協会といった関係者へのインタビューを紹介しつつ、都立高入試での男女別合格最低点が非開示だったことを伝えている。この上で、「願書の性別欄をなくす動きも広がる中、性別で分ける都のやり方は時代に逆行している」「男女別定員制を望ましいと考えるなら、都は根拠を明文化し、考える出発点にしてほしい」という保護者の批判的な声を紹介して締め括っている。

2019年の朝日新聞もまた、東京都で男女別定員制が存続する理由をたどることにフォーカスしつつ、他県の教育委員会関係者のコメントなどを紹介しながら、同制度が全国的に見ていかに異例かを強調している。

政治家による批判

政治家や研究者もまた、男女別定員制を批判している。

例えば、東京都議の斉藤れいなは、先にも言及した東京医大の問題をきっかけに、2018年10月の文教委員会からこの問題について質疑を繰り返してきた。彼女は

経済的な理由やさまざまな理由から都立高校を第一希望とする生徒も多い中で、 女子と男子で合格できる最低ラインが大きく開きがあるということ、 また倍率も大きく異なるということは男女平等を謳う都教育委員会の実施している入学試験としては矛盾している制度だと言わざるを得ません。 […] 他道府県ではすでに、性自認の多様性を鑑み、入学試験における性別欄すら廃止している2021年において、ぜひ女性活躍のみならず性の多様性の活躍の観点からも、東京都にはこの問題に真剣に向き合い、実質的な検討を進めていっていただきたいと思います

と、自身のサイトで述べている。

同じく都議の奥澤高広は、2021年2月26日の都議会第1回定例会で、願書への性別記入の見直しとあわせて、男女別定員制について「都は、他県に比べ私立高校が多いという事情については一定の理解をしますが、結果として進路変更を余儀なくされているとすれば、看過できません。」と発言している。

公立校願書の性別欄廃止は、性的マイノリティへの配慮を理由として、2019年ごろから全国的に進みつつある。2015年に文科省から通達された「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」など、学校教育でジェンダーやセクシュアリティに配慮する動きが広がる文脈をふまえて、男女別定員制も批判された形だ。

都政だけでなく、国政でも批判の声は上がっている。参議院議員の吉良よし子は、2021年4月27日の参議院 文教科学委員会で、文部科学省の瀧本寛 初等中等教育局長および萩生田光一 文科相に対し、性別を理由にした差別である男女別定員制はなくすべきだと迫った。

研究者による批判

研究者では、2018年に社会学者の千田有紀が、東京医大の問題をふまえつつ、「東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書」の内容を検討した上で、

公立の学校が性別を理由に、女子生徒から教育機会を奪っていいのだろうか。とくに親の子に対する進学期待は、男女でいまだ男女で違いがある。女子の進学を妨げる方向で、定員を決めることの妥当性は、何だろうか。少なくとも私には、事前に告知してあること以外、東京医大との違いは見つけられない。

と批判を展開している。同じく社会学者の村松泰子も、

入学時に男子・女子と分けられていると、先生や生徒自身が、無意識に「男子は」「女子は」と区別して物事を考えかねません。ジェンダーの問題は、“制度”と“意識”の両面があって、男女別定員制は“意識”への悪い影響にも繋がるのではないでしょうか。また、男女に二分することは、性的マイノリティの生徒たちにも戸惑いを与えます。

と、男女別定員制が制度面だけでなく、ジェンダーに関する意識への悪影響を与えると指摘している。

このように、都立高入試での男女別定員制への批判には、学校教育におけるジェンダーやセクシュアリティへの配慮の全国的な広がり、その中での東京都での合同定員制導入の遅れ、東京医大問題のような女性が不利益を被る問題の噴出という背景がある。これらの文脈をふまえ、男女別定員制は男女間の合格ラインの差をもたらすため、女子生徒の教育機会や進路の自由・平等や、性の多様性、女性活躍推進などを損なう点で問題視されている。

メディアや研究者の間では「都立高入試の男女別定員制が不公正である」という現状認識はコンセンサスを得られていると言えるだろう。

都教委による応答

では、こうした批判に対して、都教委はどのように応答しているのだろうか。

実は都教委側も、男女の合格最低点の差を問題視しており、男女別定員制の緩和措置などの対策を講じている。加えて、2020年8月に公表された「令和3年度東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書」(以下、「報告書」) では、都立高校長および都立中学校長へのアンケート結果から、

男女の合格最低点の差を完全に是正できるものではないこと、性別によって倍率が異なり合格基準が変わること等から、男女合同定員制について本格的に議論を進める必要がある。そのことを踏まえ、男女別定員制の緩和実施校について、引き続き検討していく。

と、変革に向けた姿勢が示されてはいる。報告書内に具体的な改善内容の記載はなかったものの、男女別定員制の不公正は都教委にも課題として認識されていると考えられる。

これに関連して、先に触れた都議会での奥澤都議の質問に対しても、都教委のトップである藤田裕司 教育長は

高校入学者選抜では、全日制普通科で男女別定員を設けており、合格者の成績に男女差を生じる場合があることから、募集人員の一割につきまして、男女合同の総合成績により合格者を決定しております。 […]また、中高一貫教育校では、一般枠は男女別定員としておりますが、繰り上げ合格者を男女合同での総合成績で決定をしているところでございます。これらの取り組みにより、合格最低点の男女間の差の縮小を図りますとともに、中学校の進路指導等への影響を考慮し、実施校の段階的な増加に努めているところでございます。今後とも、男女別定員による不公平感を低減するとともに、より男女平等な入学者選抜とすることを目指してまいります。

と回答している。都立中高一貫校も入試での男女別定員制を実施しており、都立高校とともに批判の対象となっている。このため都教委も、合格最低点の男女間の差の縮小に向けた施策を段階に進めている。募集人員の一割に対する男女別定員制の緩和や繰り上げ合格者への一部措置が、実際に一定以上の効果を上げていることは、冒頭の毎日新聞が公表した資料や「報告書」からも明らかだ。

しかし、「報告書」に記載された都立高校長・中学校長へのアンケートでは、半数以上が男女別定員制を必要と回答している。ではなぜ、半数近い都立中高は、なおも男女別定員制を必要としているのだろうか?

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著者
法政大学ほか非常勤講師
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院修士課程にて修士号、同大学院博士後期課程で博士号(社会学)を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。
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