米NASDAQは、なぜ上場企業に対して多様性の義務化を課したのか?

公開日 2021年07月06日 18:36,

更新日 2021年07月06日 18:55,

有料記事 / 社会問題・人権・環境

2020年12月1日、株式市場NASDAQ(ナスダック)は、取締役会の多様性(ダイバーシティ)およびその情報開示に関する新たな上場規則の提案を米国証券取引委員会(SEC)に提出した。

この提案がSECから認めるられるとNASDAQに上場する企業は、取締役会の多様性に関するデータ開示を義務付けられる。また女性やLGBTQ、少数民族出身者など最低2人を取締役会に置き、もし不可能な場合はその理由について説明義務が課せられる。

ただしSECが本提案を承諾するか否かは、最終的に8月以降に決定される予定となっている。

NASDAQは、なぜこのような提案をしたのだろうか?また、取締役に多様性を導入することは、企業にどのような影響を及ぼすのだろうか?

NASDAQの提案内容

今回NASDAQがSECに提案した内容は、企業がNASDAQに上場する際の要件として、取締役の多様性について一定の義務化を加えるものだ。具体的には、以下の2項目が主な内容となっている。

最低2人の多様な取締役員の配置

1つ目は、NASDAQに上場する企業は、

  1. 取締役に女性を自認する人材
  2. 人種的マイノリティ、あるいはLGBTQなどの性的マイノリティ

を含む最低2人の人材を配置する必要がある。

ここで言われる人種的マイノリティとは、黒人のほかにアフリカ系アメリカ人・ヒスパニック系・ラテン系・アジア系・ネイティブアメリカン・アラスカ先住民・ハワイ先住民・太平洋諸島民・2つ以上の人種または民族アイデンティティを持つ人材が挙げられている

また取締役員が5人以下の小規模な企業については、2人ではなく、上記で挙げた多様な人材の中から1人を配置することで目標の達成を認めると、後の改正案で変更されている。

ただし企業毎の事情を鑑みて、本提案がSECに承認されてから目標達成までに2年間の猶予が与えられる。加えて、2年以内に取締役の多様性目標を達成できない場合、その理由を公表することによって上場廃止の対象から外れることができる。また、何らかの事情により取締役に空席が生まれて、達成が困難になった場合、1年の猶予期間が与えられる

取締役会の多様性に関する統計を開示

2つ目は、NASDAQに上場する全企業に対して、取締役会の多様性に関する一貫した、透明性のある統計の公開義務が課せられることだ。

企業は毎年「Board Diversity Matrix」と呼ばれるなどを用いて、取締役会の多様性に関するデータを開示する必要がある。また、それらの情報は自社サイトなどで開示する必要がある


Board Diversity Matrix(NASDAQ

多様性目標の背景

では、なぜNASDAQは上場企業の取締役会に対して多様性の義務化を提案したのだろうか?

進まない取締役の多様性

NASDAQは本提案の目的について、企業の取締役会に関する情報をステークホルダーに提供して、「投資家からの信頼」に応えるためだと説明しているが、その背景には企業の多様性に関する取り組みが十分に進まないことが挙げられる。

米国の民族・人種的マイノリティは、人口の40%を占めているものの、取締役会における割合は12.5%に留まっており、黒人女性に絞ると全体の1.5%に過ぎない状況だ。2015年には13%だった女性取締役は21%を占めるまでになっており、わずかに状況の改善は見られるが、こうした動きを加速するためには、情報開示と義務化が必要であると判断された。

背景にはジョージ・フロイド事件

そしてこの動きは、ミネソタ州でジョージ・フロイド氏が殺害された事件やジョージア州でアーマード・アーベリー氏が殺害された事件など、黒人男性の殺害事件によって決定的になった。Black Lives Matter運動とともに、大企業における人種的不公正の問題が取り沙汰されたことで、取締役や役員などにおける人種的な偏り(白人男性への偏重)を批判する動きが広まった

NASDAQの社長兼CEOであるアデナ・フリードマンは、これらの事件を受け「無力感にさいなまれてはならない」と述べた上で「敬意を払う文化を企業内に構築する必要があり、多様性こそが我々の強みであるという信念を抱く必要がある」と語った

その上でNASDAQ内での多様性と包摂に関する取り組みを進めるとともに、同年12月には今回の提案が提出された。

企業における多様性、なぜ重要視されるのか?

では、取締役会の多様性はどのように重視され、それは企業にどのような与える影響を与えると考えられているのだろうか?

後述するように、今回のNASDAQによる決定には批判も集まっており、企業のパフォーマンスへの影響についても様々な見解が出ている。そのことを念頭に置きながら、それぞれの内容を見ていこう。

続きを読む

この続き: 2,752文字 / 画像0枚

この記事を読むためには、月額980円のメンバーシップに参加するか単体購入が必要です。10日間の無料トライアルで、いますぐ読むことができます。

いますぐ無料トライアル

メンバーシップに関するご質問、決済や支払い方法などについては、「よくある質問」をご覧ください。

著者
リサーチャー
The HEADLINEリサーチャー。立教大学文学部文学科文芸思想専修所属。関心領域は文学、西洋哲学、人権・LGBTQ問題など。
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。Abema TV『ABEMAヒルズ』、日テレ系『スッキリ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
最新情報を受け取る

ニュースレターやTwitterをチェックして、最新の記事やニュースを受け取ってください。

おすすめの記事