Jerome Powell(Federalreserve, Public Domain), Janet Yellen(Federalreserve, Public Domain), Credit Suisse(Giorgia Xenakis, CC BY-SA 3.0), Illustration by The HEADLINE

SVBからクレディ・スイスまで、なぜ金融機関が次々と破綻・危機に?ゼロから解説

公開日 2023年03月23日 00:31,

更新日 2023年09月14日 15:15,

有料記事 / 経済 / 金融

この記事のまとめ
💡 世界的な金融不安、まとめてゼロから解説

⏩ シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行など相次いで破綻、大手クレディ・スイスも売却
⏩ 背景には、世界的な低金利政策から金利上昇局面への移行、預金保護の制度や規制緩和、SNSの影響も
⏩ AT1債・FRBの判断にも注目

今月に入って、米国でシリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー銀行、シルバーゲート・キャピタルが相次いで破綻・清算したことで、市場に動揺が広がっている。また経営再建中のスイス金融大手クレディ・スイスについても、信用不安が拡大したことから同国大手 UBS による買収が決まり、世界的に金融機関をめぐる懸念が広がっている。

なぜ世界的に金融機関をめぐるリスクが高まっているのだろうか?そして、今後どのような影響があるのだろうか?

何が起きている?

最初に生じた出来事は、シルバーゲート銀行の持株会社であるシルバーゲート・キャピタルが今月8日、業務停止および清算に至ったことだった。

シルバーゲート・キャピタルの清算

同社は、暗号資産(仮想通貨)関連企業を中心として取引をおこなっており、昨年11月に暗号資産交換所の FTX が破綻したことで打撃を受けていた。

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1988年に設立された同社は、コミュニティバンク(比較的小規模な地域の金融機関)として業務を続けていたが、2013年から暗号資産関連のプロジェクトに注力しはじめ、大手暗号資産取引所の Coinbase などを顧客に持ち、同分野で主要な役割を果たしてきた。中でも、独自の Silvergate Exchange Network(SEN)は、取引所や顧客が暗号資産を米ドルやユーロなどの法定通貨と交換できるサービスとして人気を博してきた。

ところが、2022年後半に暗号通貨の価格が下落したことで、シルバーゲートや SEN に対する信用不安が広がる。同年11月までの過去1年間で、同社株は90%の下落となり、暗号資産の価格とともに同社のリスクが浮き彫りとなった。2022年度の第4四半期に約10億ドルの純損失を報告した同社は、年末にかけて事業や従業員の整理・削減などを進めるとともに、準政府機関の連邦住宅ローン銀行(FHLB)から43億ドルを借り入れた

しかし最終的には危機を回避することが出来ず、清算へと至った。同社のバランスシートは強力だったものの、金利の上昇局面において債券価格が下落し、支払い困難に陥ったという(後述)。

SVB の破綻

シルバーゲートの清算からわずか2日後の10日、今度は米・カリフォルニア州の金融持ち株会社 SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した。


シリコンバレー銀行(Coolcaesar, CC BY-SA 4.0)

その名の通り、テック企業の膝下であるシリコンバレーに拠点を置く同行は、多くのスタートアップを顧客に持っていた。VC などから支援を受けたスタートアップの約半数と取引がある他、2022年に IPO したベンチャー企業の44%を顧客に持っていたとされる。a16z や Founders Fund、Sequoia Capital、そして Y Combinator など、著名ベンチャーキャピタル(VC)も取引関係などにあり、破綻によって何らかの打撃を受けている。

同行が破綻に至った経緯は、今月8日に遡る。2023年第1四半期決算において、保有債券の売却によって18億ドルの損失を計上するとともに、バランスシートを強化するための増資計画を発表した。

この発表を受けた一部の VC や投資家は、同行の流動性に対する懸念を理由として、SVB から資金を引き出すことをスタートアップに助言


SVB からの資金引き上げをいち早く助言した投資家、ピーター・ティール(Gage Skidmore, CC BY-SA 2.0)

すぐさま懸念が広がり、同行の預金者は大挙して多額の預金引き出しを要求、SVB の経営破綻に繋がった。同行の資産は2,090億ドル(約28兆2,000億円)・預金1,754億ドルにのぼり、米金融機関の破綻としては、2008年の世界金融危機で破綻したワシントン・ミューチュアルに次ぐ規模(*1)となった。

(*1)ワシントン・ミューチュアルは、資産3,070億ドル・預金1,880億ドル。

システミック・リスクの懸念

資産規模だけでなく、世界経済を牽引してきたテック業界とつながりの深い同行が破綻に至ったことで、他の金融機関や金融システム全体にリスクが波及するシステミック・リスクを懸念する声は一気に高まった

ジャネット・イエレン財務長官は「金融規制当局による適切な対応について、全面的に信頼している」と表明しつつ、「米国の銀行システムは依然として回復力を持ち、規制当局はこうした出来事に対処するための効果的なツールを有している」と述べたものの、主要金融機関から構成される KBW銀行株指数は 8% の下落となるなど、不安感が広がった。

そこで米・財務省と連邦準備理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)は、12日には顧客の預金保護に動いた。SVB の破綻によって、金融システムのみならず、米国の幅広いテック企業や新興企業に倒産・破綻リスクが連鎖することが懸念されたためだ。

イエレン財務長官は、いち早い当局の動きについて「我々の金融システムが強固であり、預金者の貯蓄が安全であることを保証するという我々の断固たるコミットメントを示した」と擁護した。

シグネチャー銀行

SVB をめぐる混乱が収まらない12日、今度はニューヨーク州にあるシグネチャー銀行の事業が停止された。シルバーゲートと同様に暗号資産関連の取引が多い同行は、SVB の破綻などによって信用不安が高まっており、資金流出が加速していた。破綻した銀行としては SVB に次ぐ米国史上3番目の大きさであり、昨年末時点で資産約1,103億6,000万ドル・預金885億9,000万ドルだった。

同行は、トランプ前大統領一族とも長く取引をおこなってきた伝統的な銀行だが、近年は暗号資産関連のビジネスにも進出していた。ただしニューヨーク州金融サービス局(DFS)によれば、今回の破綻と暗号資産との間は無関係だという。(*2)

シグネチャー銀行についてもシステミック・リスクへの懸念から、FRB や FDIC によって顧客預金の全額保護が決定され、保険対象外の預金も返金されることになった。

(*2)バーニー・フランク元下院議員は、シグネチャー銀行など3行の破綻が暗号資産に起因するとして、DFSとは真逆の主張をおこなう。ただし同下院議員の立場は複雑で、もともとは包括的な金融規制を目指したドッド・フランク法制定の立役者だったが、後にシグネチャー銀行の取締役に就任。今度は、規制緩和を目指して同法改正を主張していた。

問題に直面していたクレディ・スイス

14日、今度は世界有数の金融機関であるクレディ・スイスをめぐる危機が再燃した。

そもそもクレディ・スイスは、以前から問題に直面していた。2021年には、米・投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントに関連する運用に失敗したことで44億スイスフラン(約5,200億円)もの損失を発表した他、英国のグリーンシル・キャピタルと関連するファンドでも問題が生じており、巨額損失や不祥事に伴う顧客の離反、それに伴う慢性的な赤字が続いていた。2022年には、内部告発によってマネーロンダリングや人権侵害、汚職などに関与する口座を管理していたことが報じられ、同行の信頼はますます毀損されていた。

そして2022年、73億9,300万フランの巨額損失を出したことで、事実上、過去10年間の利益は帳消しとなった。こうした苦境を受けた同行は、40億スイスフランの増資と共に、ガバナンスやリスク管理の改善、そして顧客の信頼回復に向けた再建計画を明らかにした。しかしながら、現在に至るまで収益回復には至っておらず、同社の富裕層向けビジネス部門における預かり資産は2022年に3割弱減となるなど、顧客からの信頼回復も程遠い。

再建中のクレディ・スイスだが、バンク・オブ・アメリカやゴールドマン・サックス、BNPパリバなどと並び、G-SIFIs(グローバルなシステム上重要な金融機関)に指定されており、SVB などと比べても国際金融市場への影響力は格段に大きい。そのため、同社の危機が再燃したことで危機感はますます強まった。

中央銀行の支援と売却

懸念が広がる中で15日、株価の大幅下落に見舞われたクレディ・スイスは、スイス国立銀行(中央銀行)に支援を要請した。直前には、クレディ・スイスの2022年と2021年における財務発表に「重大な脆弱性」があると発表されていた他、筆頭株主であるサウジナショナル銀行が追加投資を見送ると報じられており、その行く末に不透明感が高まっていた。

160年以上の歴史を誇る名門銀行の行く末に、同国は即座に対応した。スイス国立銀行は、最大500億スイスフラン(約7兆1,000億円)を同行に貸し付ける方針を発表し、これによって同日に30%下落していた同行株は大きく反発した。

とはいえ市場の懸念が拭えない中、18日にはスイス最大の金融機関 UBS が、クレディ・スイスの買収を検討していると報じられた

同行の危機は、中央銀行からの支援だけでは乗り切れないと考えられ、スイス政府の後押しによって、水面下で UBS による買収が推し進められた。状況は二転三転したものの、最終的には、UBS に30億スイスフラン(約4,300億円)で買収された。かつて時価総額が960億ドル(現在のレートで約12兆7,000億円)にのぼった名門銀行が、「市場の危機のただ中で投げ売りされた歴史的な大手金融機関リストに仲間入り」しただ。

ファーストリパブリック銀行、地銀株の続落

SVB の混乱が続く13日には、米・地銀のファーストリパブリック銀行にも信用不安が広がっていた。同行は富裕層や不動産およびテクノロジー業界の顧客を多く持ち、預金が急増していたことから、金利上昇局面で信用不安と資金流出に見舞われた SVB と似通う状況が不安視された。

同行は、昨年末時点で2,126億ドルの資産を有しており、SVB を上回る規模だ。懸念の声を受けて、同行は FRB や米銀最大手の JP モルガン・チェースから追加与信枠を確保したが、S&P グローバル・レーティングとフィッチ・レーティングの格付け2社は、同行をジャンク(投資不適格)級に引き下げた。

こうした状況によって、14日には米・地銀株の続落が続いた。ファースト・リパブリック株は60%、ウェスタン・アライアンス・バンコープ株は47%、そしてパックウエスト・バンコープ株は20%下げて、市場では「次の SVB」を探す動きが広がった。

懸念が広がる中で16日、ファーストリパブリック銀行はバンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JP モルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックスなど11行から計300億ドルの支援を受けたと発表した。これによって、同行が直面する株価下落や預金流出といった問題は、しばらく回避できることになった。ただし22日時点で、同社は投資銀行のラザードを起用して戦略的な選択肢を検討しているものの、その行く末は不透明なままだ。

懸念は続く

広範な市場の懸念は、クレディ・スイス買収によって一旦は落ち着いた形だ。当局や大手金融機関はシステミック・リスクを抑えるために迅速に動き、バイデン大統領は「危機は落ち着きを取り戻した」と述べている。

しかしながら、事態の収束には程遠い。銀行団からの支援が決まったファーストリパブリック銀行も、発表直後に株価は急落しており、投資家らは現金の投入が短期的な解決策にすぎないことを理解している。パックウエスト・バンコープは、総預金の 20% 以上が引き出されており、投資会社からの支援を受けている。

また各国も、欧米から波及する連鎖的な国際金融市場の不安感を払拭するために対策を講じている。19日には、FRB と日本銀行、欧州中央銀行(ECB)など6つの中央銀行から、ドルの流動性供給の拡充に向けた協調行動を取ることが発表された。ドル建ての支払い義務を負う米国以外の金融機関が、ドルの調達難に直面する可能性があり、これを緩和する狙いだ。

なぜ起きた?

では、今回の騒動はなぜ生じたのだろうか?

信用不安が生じた原因は複雑絡み合っているが、世界的な金利上昇局面による金融機関の財務状況悪化、預金保護の制度に関わる問題、そして規制緩和やソーシャルメディアの影響など、大きく5つの要因を指摘することが出来る。

1. 金利上昇局面における財務状況の悪化

まず大きく挙げられるのは、コロナ禍によって生まれた世界的な低金利政策が終了し、各国が金利上昇局面に向かうことで、金融機関の財務状況の悪化が生じた点ことだ。

コロナ禍において、各国の中央銀行は景気を下支えするため、異例の金融緩和政策を実行してきた。これは、中央銀行が国債などを買い取ることで市場に供給する資金を増やす政策だ。市場に資金が供給されると、企業は資金調達がしやすくなり、資金繰りが支えられたり設備投資が促されたりする。コロナ禍によって景気が冷え込む懸念があったため、資金の供給量を増やすことで景気悪化を食い止める政策が取られた。

なぜ世界がインフレを懸念しているのか?
有料記事 / 経済

あわせて、各国では金利の引き下げもおこなわれた。金利が下がることで、金融機関や企業、個人が低金利で資金を調達できるため、こちらも市場に供給される資金を増やす政策となる。

今回問題になったのは、この低金利政策がコロナ禍の終了とインフレ懸念によって修正され、金利の引き上げ(利上げ)が実施されたことだ。物価が急上昇する歴史的なインフレを退治するため、緩和政策とは反対に、市場に流通する資金を引き締める政策が取られはじめた。

債券と金利の関係

利上げが進む中で、問題になるのは債券の存在だ。債券とは、国や企業が資金を調達するために発行するもので、それを購入した投資家には、満期になると元本に利子をつけて資金が返還される仕組みとなっている。債券の代表的なものとしては、国債や住宅ローン担保証券(RMBS、MBS)などがある。

債券と金利は、シーソーの関係にある。金利が上がると債券価格は下がり、金利が下がると債券価格は上がるという仕組みだ。

たとえば、金利2%で100円の債券(A)があった場合、1年間に2円を受け取ることが出来る。ところが利上げによって金利が3%となった場合、新たな債券(B)を購入すれば、1年間に3円を受け取ることが出来る。債券は、満期になる前に売却できるため、多くの人は債券(A)を売って債券(B)を購入しようとする。ところが、すでに利上げが起こっているため、わざわざ債券(A)を100円で購入する人は存在しない。

そこで債券(A)の保有者は、100円の債券を95円に値下げして売却しようとする。購入者からすれば、金利が2%であっても、5年満期とした場合の利益で見れば 

債券(A)= 95円で購入し、年間2円を5年間受け取る(利回り)ため、100円の債券を95円で購入した差額(5円)とあわせて、満期までに15円の収益

債券(B)= 100円で購入し、年間3円を5年間受け取る(利回り)ため、満期までに15円の収益

となり、債券(B)と同じ収益が期待できることになる。

つまり、現状は利上げ局面にあるため、必然的に債券価格は下落する流れとなっている。

債券の評価損と預金の引き出し

債券と金利の関係から、大きな影響を受けたのがシルバーゲートや SVB、シグネチャー銀行だ。こうした金融機関は、債券を多く保有していたため、その価格が下落することで大きな評価損を抱えることとなった

ただし単に評価損を抱えているだけでは、問題にはならない。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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