⏩ 背後に、ピーター・ティールに影響を与えた思想家も
⏩ 大学やメディアがアメリカを衰退させたと批判
⏩ トランプを「アメリカのCEO」と呼ぶ背後にある構想とは?
⏩ 官僚制の解体が官僚制の強化に至る逆説に直面?
ドナルド・トランプが勝利した2024年の大統領選挙では、大きなテーマの1つとして、ディープ・ステート(影の国家)の解体が取り上げられた。
トランプとその支持者にとって、民主党に巣食うエリート、選挙で国民に選ばれていないのに人々を支配する政府機関、そこで働くキャリア官僚や職員は “非民主的” な存在だ。そうしたエリートを中心とした存在こそ、国を影から支配するディープ・ステート(影の国家)であり、”民主主義を守るために” 破壊すべき対象になる(とトランプや一部の支持者たちは考えている)。
それまでの民主党支持から一転してトランプ支持に回った著名 VC のマーク・アンドリーセンも、官僚を敵視する大物の1人だ。彼が2023年10月に公表し、テクノロジーの進化による加速度的な成長を唱えた文章「テクノオプティミスト宣言」には、成長を停滞させる「私たちの敵」として「官僚制」があげられている(太字は引用者による、以下同様)。
彼らが官僚制を超えた先に見据える未来は、今回の選挙戦中になされた以下の投稿に反映されている(これは相当な話題を呼び、12月5日時点で9万以上のいいねを得ている)。
しかし、その意図は必ずしも理解しやすいわけではない。なぜ、トランプは CEO(最高経営責任者)と呼ばれるのだろうか。ここで「トランプが国のリーダーだから、単に企業のリーダーになぞらえて CEO と呼んでいる」という理解にとどまると、彼らの思想や意図の大部分を見落とすだろう。
本記事の目的は、この写真の意味とベースにある思想を理解することだ。彼らを擁護するかはともかく、そうしたポイントをおさえずに議論することはできない。逆に言えば、なぜトランプ賛同派と否定派の議論が決定的なまでにすれ違っているのか、本記事はその理由の一端を説明できる可能性がある。
そのためには、著名投資家のピーター・ティールやマーク・アンドリーセン、副大統領候補の J.D. ヴァンスらに影響を与えた思想家にまで言及する必要がある(詳細は後述)。
なぜ、トランプの支持者たちは官僚制やエリートを目の敵にするのだろうか。
トランプ派が官僚制を敵視する理由
トランプ支持者たちが官僚制を敵視する理由として最初に考えられる点は、選挙の戦略として都合がよいからだ。
官僚制をめぐる批判は、その方向が多面的であるがゆえに、選挙戦略として効果的な側面がある。すなわち、”お役所仕事” を嫌う庶民感情、非民主的に人々を支配することに対する(参加)民主主義の理論、肥大化・硬直化した非効率な行政運営に対抗するリバタリアン(自由至上主義)、これら全てを官僚制批判(ディープ・ステートの破壊)という言説によって統合できる。
とはいえ、選挙戦略として都合がよいというだけでは、彼らが官僚制、より広く言えば既存のエリートを批判する動機の説明としては不十分だろう。なぜ不十分なのかは、J.D. ヴァンスが、2021年にポッドキャスト番組・Jack Murphy Live 内でおこなった、次の発言から理解できる。
官僚たちに国家全体を支配させ続けているならば、たとえ共和党が選挙で勝っても、私たちは永遠に敗北を味わうでしょう。
すなわち、彼らによる官僚制批判の主旨は選挙戦略上の利点にあるのではなく、より根本的な思想に由来すると推察される。
「奇妙な右翼サブカルチャー」
ヴァンスは、自らが「奇妙な右翼サブカルチャーに深く関わっている」と話す。ヴァンスの思想に大きな影響を与えた人物として頻繁に取り沙汰されるのが、2016年の大統領選挙でトランプを支持した著名投資家のピーター・ティールだ。
J.D. ヴァンス(Gage Skidmore, CC BY-SA 2.0)
ヴァンスがティールから影響を受けているのは間違いないが、別の人物にも目を向ける必要がある。ヴァンスは前述したポッドキャスト番組内で、第2次トランプ政権が発足したら、相当数の公務員を解雇すべきだと言及した際、「こうしたことについて書いた、カーティス・ヤーヴィンという人物がいる」と語った。
カーティス・ヤーヴィンは、一部のテック業界以外でその名前をほぼ知られていないが、ヴァンスや業界のトランプ支持者たちに、反民主主義やエリートに対する敵対心といった理論的基礎を提供してきた。したがって、トランプ派による反エリート的な姿勢を理解するためには、ヤーヴィンが伝導する理論的枠組みをおさえる必要があるだろう。