なぜトランプ大統領は郵便選挙を目の敵にするのか?郵政公社の苦境も背景に

政治・国際関係

公開日 2020/08/19 08:58,

更新日 2020/08/19 09:12

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新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年11月3日のアメリカ大統領選挙では数多くの有権者が郵送による事前投票をおこなうと見られている。トランプ大統領は、郵便選挙が全国的に導入されることで、投票率が向上したならば「共和党員は二度と当選できない」と警戒していた。一方、民主党もまた、郵便選挙が自党にとって不利になる可能性を懸念していた。

だが、少なくとも平時において、両党の心配は杞憂のようである。2007年にMITの研究者が発表した調査では投票率の上昇が指摘されている。また、2020年のスタンフォード大学の研究グループの発表によれば、1996年から2018年までの間にカリフォルニア州、ユタ州、ワシントン州でおこなわれた郵便選挙を分析した結果、郵便選挙は全体の平均投票率をわずかに上昇させるものの、共和党・民主党双方の支持者の投票率にも影響しないとされており、方法上フェアなものとされている。

州ごとに実施状況が異なることや、封筒への署名忘れや遅配、消印の有無による有効票のカウント方法など課題はあるものの、投票率の向上につながることやコロナ禍における安全性から、その利用はが倍増すると見られている

郵送選挙のニーズが高まる中、郵政公社は7月中旬、郵便局の営業時間短縮や郵便箱の撤去、郵便トラックの数の制限、配達のキャンセル、仕分けセンターの閉鎖などの措置を講じようとした。しかし、共和党・民主党双方の支持率が拮抗する激戦州「スイング・ステート」を含む20の州で訴訟を起こす動きが出たため、これらは中止されることとなった。訴訟理由には、郵便物遅配というサービス面も挙げられているが、注目すべきは、大統領選に対する選挙妨害が含まれていることである。

トランプ大統領は以前から、不正の可能性があるとして大統領選に郵送選挙が導入されることに難色を示しており、共和党を不利にする可能性があるとして批判を繰り返してきた。

なぜ、トランプ大統領は郵便選挙を目の敵にするのだろうか。また、多くの有権者から求められるタイミングで、どうして郵政公社は選挙妨害とも取れる動きを見せたのだろうか。

トランプ大統領のジレンマ

2020年8月13日、トランプ大統領は、郵便選挙が不正な投票につながるとして、郵政公社および郵便選挙にかかる資金提供に反対を表明した。だが、専門家たちは郵便選挙が不正につながるリスクはかなり低く、トランプ大統領の指摘は根拠に欠けると指摘している。

こうした指摘を受けてか、8月14日、トランプ大統領は郵政選挙に対する攻撃的な発言から一転して、フロリダ州での郵便選挙を肯定する発言をした。また8月17日には、郵便サービスのスピードアップを行政当局に指示したと記者会見で語った。このように、彼の立場はこの短期間で変化しており、これまでの郵便選挙反対から容認とも取れる態度を示している。

なぜ郵便選挙に対するトランプ大統領の立場はこれほど曖昧なものとなっているのだろうか。

世論調査でバイデン氏の優位が囁かれる中、郵便選挙拡大は、投票率の上昇によって自身の再選を脅かし、また投票不正のリスクが高まるとトランプ大統領は信じていた。そのため共和党は、郵便選挙の拡大を阻止するため、選挙法に関する法廷闘争にこれまで多額の資金を費やしてきた。しかし、訴訟で勝つことができなければ、そのこと自体が選挙戦に悪影響を及ぼすと彼は考えている。そもそも根拠に乏しい主張に基づく訴訟で勝つことは難しい。このため、トランプ大統領には再選へのリスクである郵便選挙を抑え込みたい一方、法廷闘争を続けたくないというジレンマが存在している。

もっとも、冒頭に示したように郵便選挙は公平性の高い投票方法であり、彼のジレンマやそれを報じるメディアの俗説は、研究者や専門家による従来の指摘と矛盾している。

ともあれ、こうしたトランプ大統領のジレンマを踏まえた上で、郵政公社の一連の動きはどのように理解できるだろうか。なぜ郵便選挙が問題となる中で、郵便事業を縮小するかのような施策を実施しようとしたのだろうか。

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著者
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院にて修士号(社会学)取得。現在、同大学院博士後期課程に在籍中。専門は社会調査・ジェンダー研究。Twitter : @keity_lied
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