新型コロナのワクチン、本当に安全なのか?急ピッチの開発・当局使用許可の理由

公開日 2020年12月20日 16:40,

更新日 2020年12月22日 19:29,

無料記事 / 社会

[本記事のサマリー]
  • 新型コロナのワクチン、歴史的なスピードで開発
  • しかしそれは、新技術の登場や研究の蓄積、政府の大規模な資金援助などの結果
  • 長期的な副作用などのリスクを理解する必要も、ただし「急ピッチの開発=安全性の欠如」ではない

今月2日、製薬大手Pfizer社とドイツのバイオベンチャーBioNTech社(Pfizer/BioNTech)のワクチンについて、英国で緊急使用許可が降り、世界ではじめて大規模な接種が開始された。また11日には米国でも緊急使用許可が降り、18日には日本でも厚生労働省への承認申請が公表された。

同日にはModerna社のワクチンについても、米国で緊急使用許可が降り、世界的にワクチン接種が進んでいくと予想される。

一方国内では、急ピッチで開発されたワクチンについて「ワクチンの安全性への不安の声も多く聞かれる」との報道もあり、人々の不安も高まっている

果たして、ワクチンへの不安や不信感の背景には何があるのだろうか?そして、ワクチンは本当に安全なのだろうか?もしそうであるならば、なぜ急ピッチでの開発が可能となったのだろうか?

新型コロナのワクチン、消極的な反応も

そもそもワクチンに対しての拒否反応は、日本国内に限った話ではない

たとえば、12月3日にピュー・リサーチ・センターが発表した世論調査によれば、ワクチンを「おそらく接種しない」と答えた人は21%にのぼり、「絶対に接種しない」と答えた人は18%にのぼっている。開発プロセスの進行とともに、接種を希望する割合は高まっているものの、依然として全体の4割近くがワクチンへの拒否感を示している。

同じく米カイザー・ファミリー財団が15日公表した調査でも、「おそらく接種しない」(12%)や、「絶対に接種しない」(15%)と答えた人は、3割近くに登っている。

英国の調査では、76%が接種を希望しているものの、黒人やアジア系、その他の人種的マイノリティの間では、その割合が57%に下がることも明らかにされている。またフランスは、接種を希望する人が41%に留まるなど慎重な姿勢が示されており、「世界で最もワクチン接種に敏感な国」と述べられている。

そして日本は、ワクチン接種について特に消極的な国だ。14日に発表されたNHKの世論調査によれば、「接種したい」の50%に対して、「接種したくない」(36%)と「わからない、無回答」(14%)があわせて50%にのぼっている。

では、こうした新型コロナのワクチンへの不安や不信感の背景にあるのは、何なのだろうか?そして、この問題に具体的な対策は取られているのだろうか?

ワクチンそのものへの不信感

まずワクチンへのネガティブな反応は、新型コロナに限った問題ではない。 WHO(世界保健機構)は2019年、「ワクチンへの躊躇」を「グローバルヘルスにおける10大脅威」の1つに挙げている

その理由としては、自己満足(病気の軽視)、ワクチンへのアクセス欠如、不信感が指摘されている。 ワクチンには「致命的な感染症にとって、最善の防御策である圧倒的な科学的証拠がある」にもかかわらず、それが接種されない現状は、予防可能な病気をコントロールするという世界の進歩を妨げる可能性がある。

ワクチンへの忌避感は、2020年以前から続く世界的な課題なのだ。

日本、特に強い不信感

なかでも日本は、世界的に見てもワクチンへの疑念が強い国として知られる

たとえばHPVワクチンをめぐっては2013年、副作用とされた症状とワクチンの因果関係は不明ながら、厚労省によって「定期接種を積極的に勧奨すべきではない」と結論付けられた。現在でも同省は、「ワクチン接種の有効性と比較した上で、定期接種を中止するほどリスクが高いとは評価されませんでした」と述べつつも、積極的勧奨を再開していない。

これにより日本のHPVワクチンの接種率は、世界的に見ても著しく低い水準まで下落し、WHOから名指しで批判される事態となっている。 なぜ日本において、ワクチンへの不信感が高いかは様々な指摘があるが、行政や報道機関、国民の理解など多くの課題が横たわっている。

たとえば2019年、厚生労働省の担当者が「科学的なことをよく把握しないまま、『このワクチンは問題あるじゃないか』という論調で報道していた」と、報道機関を強く批判した。この記事を受けて、行政・報道機関それぞれを批判する声が再び持ち上がったが、科学的な政策決定がおこなわれていない現状が、改めて浮き彫りになった。

いずれにしても、世界中の国際機関や行政、報道機関などがワクチンへの不安や不信感を払拭しようと試みているが、それは容易ではない

デマ・真偽不確かな情報

SNSによるデマやフェイクニュースは、新型コロナをめぐっても多発したが、これらはワクチンにおいても根深い問題となっている。

特にオンラインでは、個人の意見と事実の区別がますます難しくなっており、ワクチンを信頼しない人々に正しい科学的事実を提示しても、逆に不信感が強まるとも言われている。 実際、ワクチン関連の誤ったニュースが、新型コロナからの回復を妨げる新たな脅威だと警戒されている。

FacebookやTwitter、YouTubeなどは、対策を講じはじめているが、辛抱強い戦いが必要となるだろう。

急ピッチでの開発

また、今回のワクチンが急ピッチで開発されたことも、人々の不安を煽る大きな要因となっている。実際に、「コロナワクチン接種を躊躇(ちゅうちょ)する最大の要因は、まさに急ピッチで進められている開発スピードそのものだ」という指摘は多く、複数の世論調査でも、そのことが示されている。

後述するように、急ピッチでの開発と安全性はゼロサム関係ではない。当局や一部のメディアは、そのことを繰り返し説明しているものの、その事実は十分に周知されているとは言い難い。

「急造」「人体実験」などネガティブな国内報道

そしてオンラインのフェイク・ニュースに限らず、伝統的なメディアによる報道も、人々を不安にさせているかもしれない。

前述した朝日新聞の記事では、無料部分で読めるパートでは、ワクチンへの不安感のみが記載されている。

同紙の他の記事でも、陰謀論の広がりを指摘しつつも、無料部分では「副反応の心配や、治験があまりに早く進んだことへの懸念」などの文言が見られる。また「規制当局の食品医薬品局(FDA)に圧力をかけたりするなど、承認審査のプロセスが揺らいだことも、ワクチンの信頼性を傷つけた」と記され、ここだけ読めば、ワクチンへの不安感は助長されるだろう。

他にも「私は当面、打たない」と題された専門家へのインタビューでは、無料部分で以下のような記述がある。

アナフィラキシー様反応は、ワクチンの接種後すぐにあらわれる「副反応」です。一方、もっと時間がたってから起こる副反応もあります。脳炎や神経マヒなどは2週間以降に出るものが多い。ファイザー社は2回目のワクチン接種後、1週間で、重い副反応はないと判定しているので、短い時間でしか見ていないことが気になります。最終的に安全性を確認するには慎重にもっと長くみる必要があります。

おなじく朝日新聞が運営する「論座」では、「開発が進む新型コロナワクチンについて、多くの研究者や医師が危険性を訴えている」として、「安全性の確認が不十分」であり「治験参加者を使った人体実験」だとする強い指摘が並ぶ。

また「安全性や有効性は“未知数”な面も」あり、「ワクチンを打つ方が重症化することもありえる」ことを指摘する記事なども出ており、いずれも不安感が助長される内容だ。

これらは、オンラインのデマや誤った情報と異なり、科学的にも正しかったり、専門家の傾聴すべき指摘ではあるが、「なぜ英国や米国でワクチンが承認されたのか」という前提を抜きにして、安全性への懸念に重点を置いていることで、ワクチンへの不安や不信感を呼び起こす内容ではある。

無料部分で記事の印象が決まるペイウォール(一部が無料で、以降は有料になる記事)の弊害や、人目を引くタイトルがもたらす印象は、新型コロナのワクチンに対する不安や不信感を煽っている可能性が高い。

専門家は懸念

国内の専門家からは、こうした報道を懸念する声もあがっている。

たとえば木下喬弘医師は、「間違っているとまでは言えないものの、非常に低い可能性のものをそこそこあり得るような印象で書く記事の多さに頭が痛い」と述べて、前述の朝日新聞が掲げる「急造ワクチン」というタイトルにも疑問を呈している。

また科学ジャーナリストの松永和紀氏も「急造ワクチンという言葉、私も引っかかる。よくないものに決まっている、という悪意を感じさせる。」と指摘する。

小野昌弘医師もまた、同記事について「情けない記事」だと批判した上で、「早く開発できたには理由がある」ことを解説する。

ワクチンの安全性は?

では、ワクチンの安全性について、国際的にはどのような見解が記されているのだろうか。

当局による厳格な評価プロセス

まず重要なのは、規制当局は「ワクチンの開発をスピードアップするための努力は、科学的基準やワクチンの評価プロセスの完全性を犠牲にしていない」と強調していることだ。

米国・食品医薬品局(FDA)は、「数万人の研究参加者を対象として実施された、臨床試験の安全性・有効性のデータ、およびPfizer/BioNTechから提出された製造情報を評価・分析」しており、そのレビューメモも公開されている。

すなわち、当局の評価プロセスは、完全にオープンで透明性の高いものとなっており、問題あるプロセスが存在すれば、誰もが指摘できる状態だ。

もちろん英国でも、「臨床試験は驚異的なスピードで行われたが、どのステップもスキップされていない」上に、英国・医薬品医療製品規制庁(MHRA)は「国民の安全は、常に我々にとって最優先だ」と述べている。

また評価プロセスには、独立した委員会などの監視も含まれる。こうした専門家もまた、Pfizer/BioNTechやModernaが主張するように、ワクチンが効果的で安全だと判断している。

「科学より政治」の棄却

加えて、トランプ大統領はFDAに対してワクチン承認を早めるように圧力をかけ続けたが、FDAのスティーブン・ハーン長官は毅然として対応した。一部の専門家からは「科学より政治」を優先することで、評価プロセスが不当に急がれる可能性も指摘されていた。

しかし最終的には、「ハーン長官とその中心チームは、厳格なワクチン承認計画を堅持する姿勢を示し、ホワイトハウスも、当初の反対姿勢を変えて、それを受け入れた」ことが明らかになっている

副作用

当局が、ワクチンの安全性を確認していることは、副作用がゼロであることを意味しない。具体的には、CDCによって

  • 腕への痛みや腫れ
  • 熱や寒気、倦怠感、頭痛

の副作用が生じる可能性がある説明されている。

またワクチンを接種した後に、急激なアレルギー反応である「アナフィラキシーショック」を起こした人々がいることも報告されている。これによってCDCは、これらのリスクと予防接種の利点を十分に検討すべきだと指摘している。また、アナフィラキシーの病歴のある人は接種後30分、全ての人々は15分後まで経過観察をおこなうべきだとも述べている。

もちろん、今後こうしたガイドラインがアップデートされる可能性もある。

また、The New York Times紙は「インフルエンザの予防接種など多くの既存ワクチンも、ギランバレー症候群や発作、原因不明の突然死など、稀な合併症を引き起こす可能性がある」と説明している。

しかしこれらは、ワクチンの安全性が軽視されていることを意味しない。実際、日本の国立感染症研究所感染症情報センターのサイトでも、2009年インフルエンザパンデミック(H1N1)に関連して、「パンデミックワクチンが何百万という人々に接種されたときにおきる可能性のあるまれな事象に関しては検出することができない」ことが明記されている。

副作用の存在は、ワクチンの安全性の欠如ではなく、科学者によって正しくリスクが提示され、当局によって適切なメッセージが発信されている証しと受け止めるべきだろう。

安全性への留意事項

加えて新型コロナのワクチンの安全性には、いくつかの留意事項がある。 まず、Pfizer/BioNTechModernaそれぞれで、年齢・性別・人種・民族などを超えて有効性が確認できたとされている。しかし、高齢の人については追加のデータが必要だという指摘もあり、今後のデータなどにしたがって、科学者の見解が変更される可能性はある。

また、Pfizer/BioNTechのワクチンは、妊娠中・授乳中の女性ではテストされていないため、「妊娠中の個人および胎児への潜在的なリスクは不明」とされる。CDCは12月18日、妊娠中・授乳中であってもワクチンの接種は問題ないとする見解を示しているが、自身の判断が重要であるとされている。

そして、長期的な副作用やリスクについては、現時点ではわからないということだ。ワクチンが深刻な副作用をもたらすことがあるのは事実だが、それらは一般的に6週間以内に生じる

そのため規制当局は緊急使用許可の判断に踏み切っているが、未知のリスクや不確実性は存在している。そのためFDAやCDCは、すでに長期的な副作用の追跡をおこなっている。

ワクチンの安全性

以上を踏まえると、ワクチンの安全性について理解しておくべき事実は、次の3つだ。

①当局は厳格な評価プロセスをおこない、安全性はスピードの犠牲になっていない
②安全性には、いくつかの留意事項がある 
③長期的なリスクについて、現時点ではわからない

また付け加えておくならば、これはあくまでもワクチンの緊急使用許可が降りている、米国や英国での話だ。日本人への安全性や効果については「ファイザーは国内でも10月から160人を対象とする治験を実施している。来年2月までに結果が出る見通しで、厚労省はこれを踏まえて承認を最終判断する」とされる

この結果を踏まえなければ、日本での行方について確実なことは言えないだろう。

実際に、「米国や欧州などでは、コロナに感染して重症に陥るリスクの方が、ワクチンの深刻な副作用によって健康を害するリスクよりもはるかに大きいかもしれない」が、「コロナ感染を比較的封じ込めているアジア地域では、多くの専門家でさえ、ワクチンによる副作用のリスクがウイルス感染による健康被害のリスクを上回る可能性があるとして、駆け足でのワクチン配給に対して、全面的な支持を表明することを保留している」という指摘もある。

しかしながら、当局や数多くの専門家は「重大な安全上の懸念」が報告されていない状況を踏まえて、緊急使用許可の判断をおこなっている。その事実は、まず理解すべき大前提である。

すでに述べたように、今後のデータや調査によって科学者の見解が変わる可能性もあるし、ワクチンの効果と副作用のリスクを十分に検討する必要がある。それでも、緊急使用許可が妥当なプロセスを通じて判断されたことは、多くのメディアや科学者が指摘している。

とはいえ、こうした安全性についての説明があったとしても、「急ピッチでの開発が、安全性を犠牲にしているのではないか」と直感的な懸念を持つ人も多いだろう

では、なぜワクチンは信じられないほどの急ピッチで開発が成功したのだろうか?

なぜ急ピッチでの開発が可能になった?

Pfizer/BioNTechとModernaをはじめとする数多くのワクチンは、歴史的なスピードで開発にこぎつけた。たとえば、根絶された天然痘のワクチンの開発には数世紀を要しているし、短期間での開発で知られるおたふく風邪ですら、ワクチン開発までに4年を要している。

新型コロナのワクチンが急ピッチで完成した理由は、安全性の犠牲など単一の要因ではなく、複数の条件が重なったためだと説明されている。

たとえばnature誌は、今回の経験がワクチン開発の「パラダイムを変える」可能性になったと指摘する。新型コロナのワクチンを例外的に「急造」したのではなく、むしろ反対に、このタイムスパンでの開発が実現できたことを評価しているのだ。同誌によれば、

①ウイルスに関する長年の研究
②ワクチンの迅速な開発手法の登場
③複数テストを並行しておこなうための莫大な資金
④規制当局による迅速な使用許可

などの複数要因が、今回の開発の背景にあると説明される。

①ウイルスに関する長年の研究

①については、2002年から2003年に大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)や、2012年から散発的に現在まで感染が続くMERS(中東呼吸器症候群)によって、研究者の関心がコロナウイルスに集まっていたことが大きい。

この2つの感染症は、比較的小規模で封じ込めに成功したため、大規模なワクチン開発に至る(政府や製薬企業の)インセンティブが働かなかった。そのため、現時点でこれらのワクチンは存在していなかったが、その研究の蓄積は、新型コロナのワクチン開発に大きな貢献をもたらした。

②ワクチンの迅速な開発手法の登場

②については、今回のワクチン開発によって世界的な注目が集まった、mRNAという技術などがある。癌やインフルエンザなどに役立つことが期待されたmRNAは、新規あるいはカスタマイズされたワクチンの迅速な開発や大規模な生産をおこなう上での、魅力的なプラットフォームとして注目を集めていた。

その10年以上に渡る研究の成果が、今回最適なタイミングで実装され、予想以上の成果をもたらした。すなわち、ワクチンの「急造」のため不確かな技術を用いたのではなく、十分な研究の蓄積があり、かつ「迅速かつ低コストの開発が可能な」新技術が、幸運にも実装段階にあったということだ。

前述した小野昌弘医師も、迅速さの理由として、以下のように説明する。 

伝統的なワクチン開発には10年ほどの長い時間がかかったが、今回のファイザーのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンを含め、先行する新型コロナウイルスワクチンはいずれも癌ワクチンや他のウイルス疾患に対するワクチンとして過去20年間にあいだに開発、確立した最先端技術を使うことで迅速な開発が可能となった。

また、Pfizer/BioNTechによるワクチンとは異なるものの、英オックスフォード大によるワクチンについても、インフルエンザやジカ熱の経験から生まれた「チャドックス1」という技術があったことで、迅速な開発につながったと説明されている。

またその記事の中にも、SARSやMERSによってコロナウイルスへの研究が「相当進んでいる段階から、(ワクチン開発を)始めることができた」ことが、重要な要因だったと語られている。

③複数テストを並行しておこなうための莫大な資金

③莫大な資金については、米国のワープスピード計画などに代表される、各国政府からの巨額の後押しが大きい。同計画は、当初の予算100億ドルから180億ドル(約1兆9000億円)にまで予算が拡充しており、各製薬企業の開発を後押しした。

HHS(米国保健社会福祉省)は、同計画を以下のように説明している。

従来の開発スケジュールから、必要なステップを排除するのではなく、通常のスケジュールでは、ワクチンの有効性・安全性が実証されてから着手される大規模な製造プロセスを先に開始させるなど、後続プロセスを同時進行させる。これにより財務リスクは増加するものの、製品自体のリスクは増加しない。

すなわち、政府が「治験が失敗すれば、先行して製造したワクチンは使えないので無駄になる」財務リスクを背負うことによって、各製薬企業は研究開発とワクチンの製造を同時進行でおこなうことが可能になった。これにより、ワクチンの安全性を確保する上で必要なステップを欠かすことなく、急ピッチでの開発が可能になったということだ。

④規制当局による迅速な使用許可

④規制当局の迅速な対応については、たとえば英国政府による「ローリングレビューがある。これは製薬企業からの申請がおこなわれるよりも前から、利用可能なデータについて予め厳密、科学的、そして詳細なレビューをおこなう手法だ。

実際、Pfizer/BioNTechによるワクチンのレビューは、英国当局への申請がおこなわれる以前の10月6日からスタートしていた。

また、新型コロナの死亡率が高くなかったことも、開発スピードに影響を与えた可能性もあるとの指摘も見られる。「死亡率の高い状況では、プラセボ群を用いたランダム化比較試験が受け入れられなかった可能性がある」ものの、今回は早期に大規模な臨床試験がおこなえたのだ。

最後に、完成したワクチンの有効性が想定以上に高かったことも大きい。当初、FDAは有効性が50%を超えれば緊急使用許可を与えることを検討していたが、蓋を開けてみれば90%以上の有効性が確認された。もし有効性が低ければ、FDAの判断に時間が掛かっていたかもしれない。

後ろ向きではない理由

前述した①-④の要因を見ると、今回のワクチン開発が急ピッチで成功した理由は、決して後ろ向きのものでも、不安定なものでもない。むしろ長年の研究の蓄積が結実し、世界中の科学者コミュニティや製薬企業、そして当局が類を見ないほどの強力な結束をおこなったという、前向きな理由が挙げられる。

加えて、最適な技術が実用化のレベルに達していたことや、新型コロナウイルスという病気の特性(研究の蓄積があるコロナウイルスであり、致死率が低い)など幸運が重なったことも、重要な要因であった。

こうした事実が「機動的な開発」をもたらしたと解釈することが妥当であろう。

懸念の払拭のために

ここまで見てきたように、新型コロナのワクチン開発は、歴史的な急ピッチで進み、人類に一筋の光を差し込むこととなった。しかし同時に、ワクチンへの不安や不信感を抱いている人は相当数存在し、彼らに十分な説明をおこなうことも、次なる重要課題となっている。

こうした背景から、マイク・ペンス副大統領は公の場でワクチン接種をおこなうことで、米国民の不安を払拭しようとしている。オバマ前大統領やクリントンおよびブッシュ元大統領も、公での接種を通じて啓蒙に務めることを明らかにしている。

政治家のパフォーマンスも重要だが、報道機関の影響力も見逃せない。前述したように、日本におけるワクチンに対する不安や不信感は強固であるからこそ、報道機関には丁寧な報道が求められる。デマや誤った情報ではなくとも、誤解を招く見出しやペイウォールの設定、安全性への十分な解説がないままリスクのみを強調する書き方には、慎重になる必要がある。

もちろん、現時点ではPfizer/BioNTechをはじめとしたワクチンに、長期的な副作用のリスクがあるのか、またそれがどれほど重大なものなのかは判断できない。それは疑いようのない事実であり、その周知もまた非常に重要な取り組みだ。

しかしそれらは、「なぜ各国当局はワクチンの緊急使用を許可し、どのようにして急ピッチな開発が実現できたのか」という前提とともに語られる必要がある。

「ワクチンへの躊躇」は一朝一夕では解決しない脅威だ。しかし科学の力で急ピッチでの開発を実現した人類にとって、科学的事実にもとづいた冷静な解説によってワクチンを普及させることは、次なる責務だとすら言える。

12月22日追記:記事の表記について、一部修正をおこないました。

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著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。Abema TV『ABEMAヒルズ』、日テレ系『スッキリ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
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