生理の貧困とは何か?なぜ各国は対策を打ち出しているのか

公開日 2021年03月26日 15:36,

更新日 2021年03月26日 23:22,

有料記事 / 社会問題・人権・環境

昨年11月、英・スコットランドは世界初となる生理用品の無料提供を義務付ける法案を可決した。これにより、小中学校や大学などで生理用品が無料提供され、その他の機関などでも同様の措置が求められる。具体的な方法は、地方自治体に委ねられるものの、生理用品は「十分に容易に」そして「高いプライバシーによって」提供されなくてはならない。

こうした取り組みは各国で検討されており、今年2月にはニュージーランドの全ての小学校から高校、フランスの全ての大学で生理用品の無料配布が決定された。そして日本でも23日、政府予算の予備費から13.5億円を充てて、生理用品の無料配布について支援することが明らかとなった。

背景には、生理の貧困と呼ばれる問題がある。いったい、この問題は何であり、どのような対策が必要なのだろうか?

生理の貧困(Period poverty)とは

生理の貧困とは、生理用ナプキンやタンポン、月経カップなどの生理用品を購入できない状況などを指す。経済的理由などから生理用品を購入できない人は、代わりに布切れやペーパータオル、トイレットペーパー、新聞紙などを使わざるを得ないケースがあるという。こうした非衛生的な慣習は、尿路感染症や細菌性膣炎などの泌尿性器感染症をもたらし、身体的な健康上のリスクを生じさせる可能性がある。

日本ではナプキンの消費量を抑えるために、トイレットペーパーを併用しているも報じられた。

また生理の貧困には、生理用品へのアクセスの欠如だけでなく、衛生的なトイレや手洗いカウンター、ゴミ箱(サニタリーボックス)などが整備されていない状況や、生理に関連する適切な知識・理解が教育などを通じて知れ渡っていない状況も含まれる。

英国において、生理の貧困に関する議論を牽引した活動家アミカ・ジョージは、「教育は重要であり、生理に関する認識の変化をもたらす。カリキュラムを変更して、学校では生理について女子生徒と話し合う必要があり、男子生徒もその一部になるべき」だと述べる。生理に関する問題は女性のみが抱える困難ではなく、男性などの無理解によって助長されている。

生理の費用

では、そもそも生理に関してどのくらいの費用がかかるのだろうか。

女性は平均して2,532日、39年間のうちほぼ7年間(28日周期で5日間)の生理期間を経験する。こうした前提で、生理に関する米国でかかる主な費用は以下の通りだ。

  • 一生にかかる生理痛の薬:1,435ドル(約16万円)
  • 一生にかかるタンポン:1773.33ドル(約20万円)
  • 一生に払うナプキン:569.7ドル(約6万3000円)
  • 一生にかかる平均的なピル(経口避妊薬):1万1,400ドル(約127万円)

これらの費用が、生理の貧困という公衆衛生上の課題を生み出しているが、問題の背景にあるのは、経済的負担だけではない。

社会的偏見(スティグマ)

UNESCOによれば、サブサハラ・アフリカの女子の10人に1人は、生理によって学校に行けなくなると推定されており、その背景には貧困による生理用品へのアクセス欠如に限らず、社会的偏見(スティグマ)があるとされる。

学校の欠席は、少女たちの中退を引き起こし、児童婚のリスクを高め、若年で妊娠する可能性を高める。サブサハラ・アフリカにおける教育や児童労働の問題はよく知られているが、その背景に生理の問題があることは、十分に理解されていない。

世界的に生理は、恥辱や不潔、嫌悪感などの概念と結び付けられ、時には文化的に根強い迷信が残っていることから「スポーツや学校、料理などの重要な活動に参加することができない」ケースもある。生理にまつわる偏見が、女性の社会参加を妨げ、機会を奪い、社会・経済的な立場を弱めていることから、これらは女性の権利に関する諸問題と結びついている。

すなわち、生理に関する経済的課題や社会的偏見は、約半数の人類が直面する公衆衛生上の課題であり、女性にとっての基本的権利および尊厳である。これはリプロダクティブ・ヘルス・ライツと呼ばれる、性と生殖における個人の自由および法的権利の1つでもある。(本誌記事を参照)

生理の貧困に関するデータ

実際に、生理の貧困はどのような困難をもたらしているのだろうか。

女性の貧困

前提として、女性は男性よりも貧困など経済的苦境に陥る可能性が高いと言われる。たとえば全米女性司法支援センターによれば、米国の女性は男性に比べて貧困に陥る可能性が36%高いことが分かっている。加えて

  • 2018年、女性の8人に1人である1550万人以上が貧困状態で生活していた
  • これらの女性のうち5人に2人以上(46%)が極度の貧困状態にある

などのデータも存在する。

日本における女性の貧困は、十分なデータがないことで可視化されづらくなっている。たとえば厚生労働省「国民生活基礎調査」による日本の相対的貧困率の推移は、世帯別のデータのみが扱われているため、男女別での貧困の実態がわかりづらい。

そのため、国立社会保障・人口問題研究所(当時)の阿部彩は、厚生労働省の許可により個票を調査して、女性の貧困について明らかにしている。

それによれば、2007年のデータでは全年代において男性よりも女性の貧困率が高いことが分かっている。特に65歳以上の高齢女性は、突出して高い貧困率となっており「長寿化により長生きする高齢女性は、一人暮らしも多く、苦しい生活を送っている人が多い」という。ただし女性の相対的貧困率の高さは、婚姻状況や世帯構成、そして年齢層などに関係がない。

日本において女性の貧困率が高い理由は、以下のように指摘される。

  • 結婚後、女性が家事・育児のために男性の被扶養配偶者になり、夫と離死別後に貧困化するため
  • 女性の賃金水準が低いため
  • 非正規雇用で働くことが多いため

このように日本を含めた多くの国で、女性は貧困に陥りやすい前提があり、生理の貧困をもたらす重要な背景となっている。

生理の貧困のデータ

その上で、生理の貧困の実態は様々なデータに現れている。

たとえば米国で2019年におこなわれた調査では、大都市圏に暮らす低所得の女性のうち3分の2近くが生理用品を購入することが出来なかった。英国でおこなわれた2017年の調査では、14歳から21歳までの女性のうち10人に1人(10%)が生理用品を購入することができず、7人に1人(15%)が苦労していると推計された。

2019年の別の調査では、米国における10代のうち5人に1人は生理用品の購入に苦労あるいは購入出来ず4人に1人は生理用品へのアクセスが困難なことを理由に、学校を欠席している。

10人に1人のアフリカの少女は、生理用品にアクセスしたり、安全な専用トイレの欠如によって学校に行けず、ケニアでは50%の学齢期の少女が生理用品を利用できず、インドでは3億5500万人の月経期間の女性のうち12%が、生理用品を購入する余裕がない

これらのデータは、途上国・先進国問わず、生理の貧困が問題であることを示している。

日本では「#みんなの生理」という団体がおこなったインターネットでのアンケートで、5人に1人が「金銭的理由で生理用品の入手に苦労した」と答えている。現状では、大規模調査はおこなわれていないものの、女性たちの苦境が次々とメディアで報じられ始めている。

生理の貧困に直面している人々

生理の貧困に直面しているのは、低所得の女性だけではない。トランスジェンダー、ノンバイナリー、ジェンダー不適合(TGNC)の人々も、この問題に直面している。こうした人々が貧困に陥りやすい状況を考えれば、問題は一層深刻だ。また米国では、セクシャルマイノリティのうち、黒人や褐色人種などの非白人の貧困リスクが極端に高いことも知られている。

生理用品はしばしば「女性向けの製品」として分類されているため、トランスジェンダーの人の中には疎外感を覚えて、購入を避ける人もいる。男性用トイレにはサニタリーボックスがないため、尊厳を失うことも指摘されている。

学校や刑務所、そして避難所などでの生理の貧困は、より大きな問題だ。たとえば刑務所は主に男性向けに設計されており、施設内にミソジニーが蔓延していることなどから、この問題は非常に深刻化している。2017年、米・司法省は連邦刑務所に収監されている全女性に生理用品への無料提供に同意しているが、その取り組みは十分ではない。

タンポン税

こうした問題があるにもかかわらず、生理用品は「贅沢品」とみなされてきた。生理用品への課税はタンポン税と呼ばれ、生活必需品が非課税となっている国が多いにもかかわらず、それは必需品と分類されてこなかった。

たとえば米国では現在、30州が生理用品への課税を行っており、ニューヨークやマサチューセッツ、フロリダ、オハイオなど非課税の州は10程度に留まる。ドイツでは、2019年に引き下げが決定するまで、生理用品はワインやタバコのような嗜好品と同等の課税を余儀なくされていた。日本では、食品や新聞が必需品として軽減税率の対象となっているが、生理用品は非対象だ。

英国も1973年の欧州経済共同体への加入以降、5%の付加価値税(VAT)を課していたが、2021年にEU離脱とともに廃止された。現在、カナダやインド、オーストラリアなど僅かな国が、タンポン税の廃止を決めている。

ただし、世界的な動向があるものの、タンポン税の廃止は生理用品へのアクセスを向上させる「十分な効果はない」とする研究もある。

いずれにしても、生理用品へのアクセス向上が世界的な議題となりながら、大半の国は課税を続け、十分な対策が講じられているとは言えない状況だ。

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著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。Abema TV『ABEMAヒルズ』、日テレ系『スッキリ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
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