a stone crusher mill at Jaflong in the Sylhet district of Bangladesh(Sadiq Nafee, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

日本人の3割、深刻な洪水リスクに直面 = 世銀。理由や対策は?

公開日 2022年07月20日 16:27,

更新日 2023年09月19日 10:03,

有料記事 / 災害・気象

世界銀行の研究者らは、世界人口の約4分の1にあたる18億人が深刻な洪水リスクのある地域に住んでいるという分析を学術誌『Nature Communications』で発表した。

日本も例外ではなく、東北・北海道などを除く関東から西側の地域を中心として国内人口のおよそ3割にあたる3,600万人が、こうした洪水リスクに晒されているという。

同レポートで具体的に言及されているわけではないが、実際に国内における洪水被害の事例は多い。今月にも埼玉県宮城県などで大雨による被害が発生したことは記憶に新しく、年単位で見ても豪雨災害の危険を及ぼす大雨の発生頻度は、明らかに増加している。

世界および日本では、誰がどのような洪水リスクにさらされているのだろうか?また、洪水対策として有効な手段にはどのようなものがあるのだろうか?

誰が・どのような洪水リスクにさらされているのか?

まずは世界銀行のレポートを元に、洪水リスク(*1)にさらされている国や地域について概観していこう。

今回の報告で、定義される「深刻な洪水被害リスクがある地域」とは、「毎年1%の確率で発生する規模の洪水によって、15cm超の浸水に見舞われると推定される地域」のことだ。同レポートによれば、少なくとも15cm以上の浸水が起きると、経済活動や生活に大きな混乱をもたらすという。

その上で世界銀行のレポートは、世界の人口の約4分の1にあたる約18億人が暮らす地域で、大規模な洪水によって15cm超の浸水に見舞われるおそれがあると推定した。そのうち約10.6億人には、50cm超の浸水被害リスクがあるとしている。

国別の分析では、洪水リスクにさらされている人口順で、それぞれ約3.9億人の中国とインドがトップとなった(表1)日本は約3,600万人で、10位だった。その他も上位はアジア地域の国で占められ、アジア全体では世界約18億人のうち、3分の1以上となる12.4億人が被洪水地域に住んでいる。

表1:洪水リスクにさらされている人口上位10カ国

順位 国名 人数(百万人)
1 中国 394.8
2 インド 389.8
3 バングラデシュ 94.4
4 インドネシア 75.7
5 パキスタン 71.8
6 ベトナム 45.5
7 米国 42.6
8 ナイジェリア 39.0
9 エジプト 38.9
10 日本 36.1

 

さらに、洪水リスクにさらされている人口の割合を地域別で示した地図(図1)からは、洪水リスクが特に東南アジアで深刻となっていることが分かる。うち日本では、関東地方から西側の地域が特に深刻な状態にある。

図1:洪水リスクにさらされている人口の割合を地域別に示した地図Population exposed to floods.
Population exposed to floods(Nature Communications(CC BY 4.0)

なお人口順上位の国は、主要な河川や沿岸地域に人口が集中していることが特徴であるとも指摘される。例えば、バングラデシュの首都ダッカ周辺は、ガンジス川とブラマプトラ川が交差する点に位置しているため、同国人口の約58%の人々が洪水の危険にさらされている(人口比では2位、1位はオランダの59%)。

(*1)同レポートでは、洪水リスクとは①激しい降雨や雪解けによって河川が氾濫する河川氾濫、②雨水が土壌の吸収能力を超えて溜まることで発生する洪水(土砂災害を含む)、③沿岸部の高潮や高波によって引き起こされる海岸洪水のいずれかに該当するものと定義されている。一般的に、③の海水による水害の場合は、「洪水」ではなく「高潮災害」、「津波災害」といった呼び方をするが、本稿では議論の簡便化のために、レポートの定義に従って「洪水」で統一する。

経済的リスクや貧困・環境問題との関連も

同研究は、人口だけでなく、経済活動に対するリスクとしても洪水被害の状況を数値化して分析している。

それによれば、今回の研究で示された被洪水地域が生み出すGDPは約9.8兆ドルだ。この数字は、全世界のGDPの約12%に相当する。特に大きな経済的リスクを負っているのは、中国(3.3兆ドル)、米国(1.1兆ドル)、日本(7,000億ドル)、インド(6,000億ドル)の4カ国だ。

また洪水リスクに直面する約18億人のうち、89%が低・中所得国に居住していることを指摘し、気候変動がもたらす災害が、(洪水対策の整備が不十分な国に住む)最貧困層に特に偏っていることを強調した。

こうした報告を受けて、アイルランド国立大学のトーマス・マクダーモット氏は、政策立案レベルでできる対策として、

  1. 温室効果ガス抑制
  2. 災害対策の強化
  3. 洪水リスクが高い地域での建築の回避

に取り組むことが重要であるという提案をおこなっている。

日本にはどのような洪水リスクがあるのか

改めて、日本国内の洪水リスクについても詳細に見ていこう。世界銀行のレポートでは、日本国内の地域別での具体的な言及は少ないため、以下では日本国内の統計や調査に基づいて、具体的なリスクについて検討していく。

洪水被害が起こった地域は97%以上

まず日本の洪水リスクは、国内のすべての地域で非常に高い。上述の世界銀行のレポートでは、深刻な洪水リスクにさらされるおそれがある人数として約3,600万人という数字が計上されていたが、より広範な洪水リスクという意味では、さらに多くの数の人々が対象となる。

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✍🏻 著者
シニア・エディター
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社マイナースタジオの立ち上げに参画し、同社を売却。その後、The HEADLINEの立ち上げに従事。関心領域はテックと倫理、政治思想、東南アジアの政治経済。
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