牛肉は環境に悪いのか?牛肉は食べるべきではないのか?

公開日 2022年11月02日 16:13,

更新日 2022年11月02日 16:26,

有料記事 / 脱炭素

「牛肉は環境に悪い」という話題を一度は耳にしたことがある方も多いだろう。反芻動物である牛は、消化の過程で胃から温室効果ガスのメタンを発生させる。これが、いわゆる「牛のゲップ」であり、気候変動への悪影響が指摘されている。

牛に関する環境負荷への懸念が大きくなったことで「牛肉を食べる」という行為そのものが論点にもなっている。2019年9月に米・ニューヨークを訪問した小泉進次郎環境大臣(当時)は、「訪米中、ステーキはいつ食べるのか?」という記者からの問いに「毎日でも食べたいね」と返答。これには「信じられない発言」などとメディアからの批判が集まり、小泉大臣の”ステーキ発言”は大きな話題になった。

またヨーロッパでは、環境負荷への懸念から意識的に肉類の消費を避ける消費者が増加している。ある世論調査によると、EUにおける66%の消費者が、気候変動対策のために肉類の消費を減らしていると回答している

だが一口に「牛肉」と言っても、世界で流通している牛肉には様々な種類がある。では、それらはすべて等しく「環境に悪い」のだろうか?そして、仮に牛肉が環境に悪影響を与えるとして、牛肉をどう食べるべきなのだろうか?

「牛肉は環境に悪い」とは何を意味するか?

そもそも「牛肉は環境に悪い」という言説は一体何を意味しているのだろうか?

牛肉の種類:グレインフェッド

牛肉と一口に言っても、様々なタイプのものがある。もちろん、産地や牛の品種という問題もあるが、もっとも根本的な違いは「どのような環境で育ってきたか」という部分だ。肉牛には、与えるエサによって大きく2つの種類がある。

1つは、トウモロコシなどのカロリーの高い穀類をエサの中心として育つ場合だ。穀類は英語で「グレイン(grain)」、”与える”は英語で「フェッド(fed)」のため、こうした飼養方法はグレインフェッドとも呼ばれる。また、このグレインフェッドではエサを補充する必要があるため、牛は人の目の届く区切られた牛舎などで飼われる。そのため、比較的狭い範囲で牛が集約的に飼われており、そのことから集約型畜産と呼ばれることもある。

このグレインフェッド・集約型畜産は、高カロリーなエサを与えるため、効率よく牛を肥えさせる(肥育する)ことができる。そのため、現在アメリカや日本ではこのグレインフェッドの集約型畜産が主流になっている。

牛肉の種類:グラスフェッド

もう1つの肉牛の種類は、主に牧草や乾草を食べて育つものだ。草は英語で「グラス(grass)」のため、この飼養方法はグラスフェッドと呼ばれている。

一般的に、グラスフェッドは牧草地に牛を放牧し、牛に自由に草を食べさせる。そのため、広い土地が必要となり、日本のような国土の狭い国では難しく、オーストラリアなどの広い牧草地を確保できる国で主に行われている。

また、カロリーの少ない草をエサとするため、牛の成長スピードが遅い。さらに、日本で好まれるような脂身(サシ)の多い肉も、グラスフェッドではつくることが難しい。 

牛肉の環境負荷を考えるためには、まずこうした肉牛の飼養環境の基本を踏まえることが重要だ。

グローバルな環境問題:メタンの発生

また「牛肉は環境に悪い」という言説が問題視している環境問題とは何か、ということも注意して考えなくてはならない。

冒頭でも触れたように、牛肉にまつわる環境問題として有名なのは、いわゆる「牛のゲップ」だ。牛は4つの胃を持ち、このうち第1胃のルーメンでエサに含まれる食物繊維などを分解・発酵する過程でギ酸塩や水素が発生し、これにメタン生成菌が作用することで温室効果ガスのメタンが発生する。また、家畜の排せつ物からもメタンは発生することが知られている。

メタンは、二酸化炭素よりも強力な温室効果を持つ。そのため二酸化炭素に次いで、現在の気候変動の大きな原因ともされている。

このメタンの世界全体での排出量のうち、約3割が畜産業から発生しているまた、二酸化炭素を含めた温室効果ガス全体で見ても、人間による排出量のうち、約14.5%は畜産業とその関連産業による発生だとされる。

産業全体として温室効果ガスの排出量の多い畜産業だが、なかでも牛肉の生産による負荷は他の肉と比べても大きい。

上の表は英・BBCが作成した、主な食品の1食あたりの温室効果ガス排出量を示したものだ。これによると、牛肉は豚肉や鶏肉に比べて、特に排出量が多く「Low impact」(飼料の輸入過程などで排出量が比較的少ない)の場合であっても、豚肉や鶏肉の「High impact」(排出量が多い場合)とほぼ変わらない値となっている。

ローカルな環境問題:排せつ物による窒素汚染

家畜からの温室効果ガス排出が”グローバル”な環境問題である一方、畜産業には”ローカル”な環境問題も存在する。それが、家畜の排せつ物による窒素汚染の問題だ。

家畜の排せつ物には硝酸性窒素が多く含まれており、これが地下水を経由して飲料水などに多く含まれてしまうと、人間への健康被害が生じる。そのため、家畜の排せつ物は適切に管理する必要があるが、集約型畜産などで飼育規模が大きくなると、処理が不十分となり環境の「窒素汚染」が深刻になってしまう。

家畜排せつ物による環境汚染の深刻さを示す好例が、オランダだ。オランダは九州ほどの国土の広さながら、牛と豚の合計飼育頭数は日本全体を超える規模をもつ。

そのため、家畜排せつ物などからの過剰な窒素排出が「窒素危機」とも呼ばれ大きな政治問題となっている。この事態を受けて、今年6月にはオランダ政府が窒素排出量を最大で70%削減する計画を発表した。しかし、この政府の計画に対して、国内の畜産農家などは猛反発し、各地で農家によるデモが勃発。一部では高速道路を封鎖した農家のトラクターに対して、警官隊が発砲する事態にまで至った。

このように重大な政治問題となるほど、家畜の排せつ物による環境負荷の影響は大きい。

このように「牛肉は環境に悪い」と言っても「どのような牛肉が、どのような環境負荷をかけているのか」を整理しなければ正確な議論にはならない。

そこで以下では、牛肉の2つの種類、グレインフェッドとグラスフェッドについて、それぞれどのような環境負荷が問題となるのかを具体的に見ていきたい(*1)

(*1)グラスフェッドでも、出荷前の「仕上げ」の期間に穀物を与える場合は多い。そのため、ここでは「肥育期間の大部分を草中心の飼料で育った牛」をグラスフェッドとして扱う。

グレインフェッドの牛肉の環境負荷

まず、グレインフェッドでつくられた牛肉の環境負荷だが、現在日本で流通している大半を占めるのが、こちらの種類の牛肉だ。

比較的少ないグレインフェッドによるメタン排出

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✍🏻 著者
北海道大学大学院修士課程
北海道大学大学院農学院所属。専門はEUおよび英国の動物福祉政策史。関心領域は食料・農業政策、環境政策など。一橋大学法学部卒。
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