King Salman(Erin A. Kirk-Cuomo, CC BY 2.0), Ali Khamenei(khamenei.ir, CC BY 4.0), Illustration by The HEADLINE

サウジアラビアとイラン、中国の仲介で外交関係を正常化 = 中東における米国の存在感低下?

公開日 2023年03月17日 17:09,

更新日 2023年09月07日 03:21,

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この記事のまとめ
⚡️サウジアラビアとイランが中国の仲裁で7年ぶりに外交正常化

⏩ 2016年、シーア派指導者処刑を機に断交
⏩ 近年、正常化に向けた協議を重ねるも頓挫
⏩ その中で両国とも中国と接近
⏩ 中東におけるアメリカの存在感低下という見方も

3月10日、中東で対立関係にあるサウジアラビアとイランが外交関係の正常化で合意し、協議を仲裁した中国とあわせて3国の共同声明を発表した両者の外交正常化は2016年以来7年ぶりだ。

関係各国を含め、近隣の中東諸国やアメリカは全体的に歓迎する声明を発表した。中国の外交トップ王毅(ワン・イー)政治局員は「対話と平和の勝利」であると述べ、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は中国による仲介努力に謝意を表明した。アメリカ政府は今回の協議に直接関与していないが、サウジアラビア政府から報告を受けていたと明かした。そのうえで「地域の緊張関係を緩和させようとするあらゆる取り組み」を支持する一方で、「イランが履行義務を果たすのか、それ次第だ」とした

両者はなぜ、「電撃的」とも言われる合意に至ったのだろうか。さらに、中国が仲裁役を果たしたという事実は何を意味するのだろうか。

合意の内容

共同声明によると、合意内容のポイントは大きく2点ある。ひとつは、今後2ヶ月以内に外交関係を再開し、イランとサウジアラビアで相互に大使館や公館を設置することだ。もうひとつは、双方とも国家主権の尊重と内政への不干渉を確認することだ。今後、両国の外相が会合し、大使帰任の手配などを協議する予定になっている。

これによって、さしあたり両国の外交関係が再開する目処が立った。

なぜ両国は対立していたのか?

次に、なぜサウジアラビアとイランが対立していたのかについて、両国の断交から振り返っておこう。

対立の背景には大きく3つの事件がある。

両国が断交するきっかけになったのは、2016年に起きたサウジアラビアによるイスラム教シーア派指導者二ムル師の処刑だシーア派が人口の大多数を占めるイラン側がこれに反発。首都テヘランで抗議するデモ隊がサウジアラビア大使館を襲撃した。大使館襲撃の翌日、サウジアラビア外相はイランとの断交を発表した。

次に、2018年、アメリカのトランプ前大統領がイラン核合意からの離脱を発表した。同合意は、イランが核兵器開発を制限することと引き換えに、アメリカやEU、国連による経済制裁を緩めるものであった。サウジアラビアは、アメリカの合意離脱にともなうイランの核開発加速に警戒心を強めることとなった。

そして2019年9月、イエメンの親イラン武装組織フーシ派がサウジアラビアに対するミサイルおよびドローン攻撃をおこない、両国の緊張関係はピークに達した。この攻撃によりサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコの石油関連施設で火災が発生、原油生産が打撃を受けて価格高騰につながった。サウジアラビアと欧米各国は、関係が疑われるイランを非難したが、イランは攻撃の責任を否定していた。

なぜ外交を正常化させたのか?

深刻化する状況を受けて、イランとサウジアラビア双方は中東情勢の安定化を目指してきた。後述するように、両国は2021年頃からイラクで会合を重ね、関係修復に努めていた。

また今回の合意において、中国が仲裁役として重要な役割を果たした。中国としても中東情勢を安定化させるメリットがあり、直接的な関係者ではないが仲裁役を買って出た格好だ。

以下、各国のねらいを具体的に概観し、イランとサウジアラビアの外交正常化へつながった理由を見ていこう。

サウジアラビアのねらい

サウジアラビアのねらいは、近隣諸国との関係を安定させることである。イスラム教のスンニ派が多数を占めるサウジアラビアは、シーア派が多数を占めるイランと、近隣諸国において代理戦争をおこなってきた前述したイエメンとの衝突はその一環である。サウジアラビアとしては、イランとの外交を正常化することで、同国の支援を受けるイエメンやシリア、レバノンの武装勢力との対立を沈静化させたい考えがあったと言える。

イランのねらい

イランのねらいは、アメリカによる制裁解除にある。イラン経済は、アメリカからの制裁によって大きな打撃を受けてきた。しかしながら、2018年にアメリカが離脱した核合意について、立て直しに向けた協議は難航し、経済制裁が解除される見込みは立っていなかった。イランは、安全保障・経済分野でアメリカと深い協力関係にあるサウジアラビアとの関係修復により、アメリカから経済制裁解除を引き出そうとするねらいを持っていた。

さらに、混乱するイランの内政を落ち着かせるねらいもありそうだ。The New York Times紙のヴィヴィアン・ネレイム氏によれば、イランにとって、反政府抗議による数ヶ月にわたる内政の混乱後に、地域の敵と関係を修復することはよろこばしい救い(welcome relief)と言える

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中国のねらい

ドイツ系シンクタンクのCEOアドナン・タバタバイ氏によれば、中国は中東情勢がカオスに陥ることを防ぐ大きな利益がある。なぜなら、中国の主要な原油調達先はサウジアラビアを筆頭とする中東諸国であり、同地域の不安定化は原油価格の高騰を意味するからだ。たとえば、2019年にはホルムズ海峡での石油タンカーへの攻撃によって、原油価格が急騰したことがある。こうした事態を防ぐため、中国にはイランとサウジアラビアの均衡を保ち、外交回復協議の仲裁に努力をささげる潜在的な利益があったと言える。

このように、サウジアラビア・イラン・中国それぞれに今回の外交正常化から利益を得られる見込みがあったことがわかる。

なぜ今だったのか?

では、なぜ今回のタイミングで正常化へと至ったのだろうか。その理由は大きく2つあると考えられる。ひとつは、2021年頃からサウジアラビアとイランは外交正常化へむけた協議をおこなっていたが、それが頓挫したこと。もうひとつは、両国が最近になって中国との関係性をさらに深化させていることがあげられる。

正常化へむけた協議の挫折

サウジアラビアとイランは、高まっていた緊張を緩和させようと、2021年4月頃からイラクで会合し、外交の正常化にむけた協議を重ねていた。会合は複数回おこなわれ、両国の外相会談を実現させようと試みられていたという

しかしながら、イラクでの総選挙のため、すべての交渉がストップし5度の会合から新たな進展は見られなかった。その後、オマーンでも安全保障レベルの会合が開催されたが、成果は得られなかった。

サウジアラビアとイランは、近隣国で協議を重ねることで関係修復への道を模索してきたが、その試みは失敗に終わっていた。

中国との関係性深化

こうした文脈において、サウジアラビア・イラン双方が中国と関係を深化させてきたことが今回の関係正常化に重要な役割を果たしたと考えられる。

昨年12月7日から10日にかけて、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は国賓としてサウジアラビアを訪問し、第1回中国・アラブ諸国サミット、第1回中国・湾岸協力会議(GCC)サミットに出席した。中国国営メディア人民網は「習近平主席がアラブ諸国、GCC、サウジアラビアの首脳との「3つのサミット」に立て続けに出席したことは、中国外交の新たな重大な壮挙であり、時代を画す一里塚的意義を持つ」とした

イランのライシ大統領は今年2月に北京を訪問し、習主席と会談した。中国はイラン最大の貿易相手国であり、アメリカから輸出制裁を受けているイラン産原油の唯一の買い手である。ライシ大統領と習主席は共同声明の中で、イラン核合意について「完全かつ効果的な履行を促進するため、検証可能な形で関連する全ての制裁を全面解除すべき」と述べた。

イラン国家安全保障最高会議のアリー・シャムハーニー書記が同国の通信社The Islamic Republic News Agencyに語ったところによれば、ライシ大統領の訪中が、新しく真剣な交渉を形成するプラットフォームを提供した。

サウジアラビアとイランによる関係修復へむけた試みが行き詰まる中、中国が両者との関係をさらに深めることができたこのタイミングで、各々の思惑が一致し今回の合意に至ったと考えられる。

今後の見通しは?

今回の合意とそれに至る経緯はいったい何を意味するのだろうか。以下では、中東の安定・イラン核合意・米中の中東における存在感という3点を概観しておこう。

1. 中東の安定に結実するかは不透明

今回の合意が中東情勢を安定させるかは不透明だ。とくに、サウジアラビアの懸念点であったイエメン情勢については合意文書で言及されなかった。

中東情勢全体については、楽観的な見方と悲観的な見方のどちらも提供されている。

楽観的な見方からすれば、今回の合意には中東の安定性をもたらすポテンシャルがある。Al Jazeeraのアリ・ハシェム氏は「今回の合意が地域におけるよりよい安全保障状況の構築につながりうる。両国はこれらの国々において多大な影響力を持っている」と述べた。また、同局のジョルジオ・カフィエロ氏も「今後数年、新たな地域戦争が生じる可能性を著しく減じる仕方で、サウジアラビアとイランが問題に取り組むことを容易にする大きなポテンシャルがある」と指摘する

悲観的な見方に共通する懸念は、サウジアラビア・イランとは異なるグループの存在である。たとえば、前述したイエメンの親イラン武装組織フーシ派が、サウジアラビアに対する攻撃を続ける可能性は残存する。たしかにフーシ派はイランの支援を受けており、今回の合意でサウジアラビアへの攻撃を緩める可能性もある。だが、前駐チュニジア米国大使のゴードン・グレイ氏が述べるように「フーシ派には彼ら自身のアジェンダ」がありイランの思い通りに行動する必然性はない。また、The Guardianによれば、サウジアラビア政府関係者も、イランがフーシ派を止めてくれるという期待は依然として低いと見ている。

ほかにも、アラブ首長国連邦の支援を受けるイエメンの分離独立派である南部暫定評議会(Southern Transitional Council)、レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラといった存在も、悲観的な見方を後押しする要因だ。

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今回の合意が、中東全域にわたる衝突はもちろん、サウジアラビアとイランの対立に関するあらゆる原因を即座に取り除いてくれるわけではない。今後中東情勢が安定するかは、不透明なままである。

2. イラン核合意復活の可能性

次に、中東研究所のブライアン・カトゥリス氏によれば、アメリカとイスラエルは、サウジアラビアをパートナーとして、停滞するイラン核合意の修復に向けた協議を復活させる「新たな可能性」を手にいれる

ただし、事態が順調に運ぶかは疑問が残る。

というのも、イラン核開発に対して最大限の圧力を求めてきたイスラエルの反発が予想されるからだ。イスラエルのナフタリ・ベネット元首相は、今回の合意が「深刻かつ危険」なものであり、イランに対する「地域同盟構築の努力に対する致命的な打撃」だと述べた。イスラエル防衛相のヨアフ・ガラント氏は先日、アメリカのロイド・オースティン国務長官と会談した際に「私たちは、イランが核兵器を手にすることを防ぐために必要なあらゆる手段を講じなければならない」と述べた

イラン核合意が復活する可能性は示唆されるものの、予断を許さない状況が続くと言えそうだ。

3. 米中の中東における存在感

今回の合意は、中東における米中の存在感の違いを浮き彫りにしたとする見方がある。戦略国際問題研究所のジョン・アルターマン氏は、今回の合意によって米国の世界的な存在感の低下という認識が強められたと指摘した。ワシントンに拠点を置く政策に関する専門家の中には、今回の中国の関与を中東におけるアメリカ優位を弱体化させるものと考えるものもいる

さらに、アメリカとサウジアラビアとの関係性の揺らぎも示唆しているかもしれない。両者はかねてから、安全保障や経済分野で深い関係にあった。しかし、中国の習主席が昨年12月にサウジアラビアを訪問した際、サウジ側の高官は「アメリカはもはや、信頼できるパートナーでない」と述べたという。前述したタバタバイ氏も次のように指摘する

2019年秋頃から、イランだけでなくサウジアラビア内でも中東地域におけるアメリカのプレゼンスに対する懐疑的な見方が広がっていた。アメリカがサウジアラビアや他の中東諸国のために支援をするという考えは、もはや現実的ではない。それゆえ、サウジアラビアとしては自国の領土、国境、国益を確保するために、従来とは異なる仕方で考える必要性があった。

こうした見方は、米中の人権問題に関する姿勢の違いを反映している。人権問題について非難するアメリカと、そうしてこなかった中国という構図は、中東諸国の中国接近を後押ししてきた。アメリカによる非難の中でも象徴的なのは、2018年に起きたサウジアラビア人記者ジャマル・カショジ氏の殺害事件だ。アメリカは2021年、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がカショジ氏の「拘束または殺害を承認した」と結論づける報告書を公表した

とはいえ、すぐさまアメリカと中東、とくにサウジアラビアとの関係が劇的に変化するという見方には慎重になるべきだという指摘もある。Carnegie Endowment for International Peaceのヤスマイン・ファルク氏によれば、サウジアラビア高官たちはアメリカに中国が取って代わるとは見ていないという。ファルク氏は、防衛と安全保障の問題となると「リヤド(訳注:サウジアラビア政府)はいまだに英語で考える」とつけくわえた。アメリカ国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官も中東からアメリカが撤退する考えはないと述べた。

プリンストン大学教授のダニエル・クルツァー氏が述べるように、アメリカのパートナーが中国と関係性を密にすることが、アメリカにとって直接的な脅威となるかは論争的だ。ただ、中東地域の秩序は変化しており、今後の展開が注目される。

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
早稲田大学政治学研究科修士課程修了。関心領域は、政治哲学・西洋政治思想史・倫理学など。
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