⏩ 2022年以降、アメリカの教育界で禁書を求める運動が活発化
⏩ 有色人種を主人公にした小説や、同性愛を描いた本などが標的に
⏩ その背景にはアメリカの政治的文脈も?
2023年5月、フロリダ州の一部の小学校でアマンダ・ゴーマンの詩集が禁書(Book Ban)に指定された。ゴーマンはアメリカで広く活躍している若き詩人であり、2021年の大統領就任式において歴代最年少の22歳で詩を朗読した。今回、その際に読まれた詩が、保護者からの苦情申し立てにより閲覧禁止の対象となったのだ。
2022年以降、このような禁書を求める運動がアメリカの教育界で活発化している。とりわけ、有色人種を主人公にした小説や、同性愛を描いた本などが禁書に指定されるケースが相次いでいる。
後述するように、アメリカで禁書を求める運動自体は珍しいものでないが、その試みは「加速している」とも言われる。なぜ、こうした事態が生じているのだろうか?
アメリカで禁書に指定される書物が急増
2022年から、アメリカの教育界では、禁書を求める運動や実際に禁書に指定される書籍が急増している。アメリカ全土を対象にした調査によると、禁書の標的になった本は2022年に約2,500冊にのぼるとされ、2021年と比較すると約40%増加した。特に保守的な価値観の強いフロリダ州やテキサス州、ミズーリ州やサウスカロライナ州において、禁書をめぐる運動が活発化している。
このような流れの具体例として、2023年5月にアマンダ・ゴーマンの詩集が禁書に指定された事例がある。
フロリダ州でアマンダ・ゴーマンの詩集が禁書処分
2023年5月、フロリダ州の一部の学区においてアマンダ・ゴーマンの詩「私たちの登る丘(The Hill We Climb)」が禁書(閲覧禁止本)に指定された。現在、この詩を含むゴーマンの詩集は、同学区にある学校図書館の小学生向けブースから撤去されている。
詩の作者であるゴーマンは、「私たちの登る丘」が禁書に指定されたことに対して、「子どもたちが文学の中で自分の声を見つける機会を奪うことは、子どもたちの思想の自由や、言論の自由といった権利を侵害する行為だ」とコメントした。
ゴーマンは、1998年に生まれた黒人女性であり、その「天才ぶり」を称賛されることもある詩人だ。彼女は2015年に全米青年桂冠詩人に選ばれ、2021年の大統領就任式では「私たちの登る丘」を朗読した。アメリカの大統領就任式では、国を代表する詩人が自作した詩を朗読する文化があり、ゴーマンは歴代最年少の22歳で抜擢された。この詩はオバマ元大統領をはじめ、多くの著名人に賞賛されていた。(*1)
(*1)ゴーマンが大統領就任式で読んだ「私たちの登る丘」の原文は、ここから読むことができる。
なぜ禁書処分が求められたのか?
今回、「私たちの登る丘」が禁書に指定された直接的なきっかけは、ある保護者からの苦情申し立てだった。