香港・国家安全法で対応を迫られるテック企業:言論の自由と規制対応

政治・国際関係

公開日 2020/07/08 08:56,

更新日 2020/07/08 09:05

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香港での国家安全法の施行を受けて、TikTokが香港向けのApp StoreとGoogle Playストアからアプリを取り下げ、サービスの撤退を表明した。またFacebookやGoogle、Twitter、Microsoftなどテック各社は、同法によって言論の封殺や政府批判への弾圧が加速するとして、現地法に違反した犯罪者などに関する香港政府からのユーザーデータ要求の処理を一時的に停止している。香港の抗議活動でも使われていたTelegramやSignalでも、当局に対する同様の動きが起こっている。

なぜ、こうしたテック企業は香港国家安全法を受けて、ユーザー情報に関する対応を迫られているのだろうか。

香港国家安全法によるユーザーのリスク

国家安全法のどういった点が、テック企業にとって問題となるのだろうか。

同法は、基本的に中国国内ですでに施行されている国家安全法に準拠しており、一国二制度を脅かす内容となっている。具体的には、国家の安全に関する事柄について監視を強化し、外国組織に対して必要な措置を講ずることができる。

同法内では国家分裂罪・国家権力転覆罪・テロ罪・外国との共謀罪といった法律が定められている(第20〜30条)ものの、その構成要件は不明瞭である。また、国家安全維持委員会が設置され、警察などによる取締りがおこなわれる(第12〜16条)。もし容疑者となれば、中国本土の不透明な司法で裁かれうる(第55〜59条)。

曖昧な犯罪の構成要件や本土への引き渡しが批判される中、状況を注視する必要があると判断され、こうした企業は、ユーザー情報の提供を一時的に停止したと解釈できる。

香港国家安全法によるテック企業側のリスク

しかし、なぜ「一時的な停止」措置に対応にとどまっているのだろうか。それは同法第38条で、処罰対象に外国人が含まれているからである。

同法による処罰として、法律に違反する投稿などの削除をおこなわなかった個人は、1年の懲役と10万香港ドルの罰金が科される。法律の遵守や協力を怠ったサービスプロバイダーは6ヶ月の懲役と10万香港ドルの罰金、虚偽や不正確・不完全な情報を提供した場合は、2年以下の懲役と10万香港ドルの罰金が科される可能性があると発表されている。つまり、国家安全法下でユーザー情報を渡さないままでいれば、いつテック企業側が処罰を受けてもおかしくないのである。

一方で、同法第43条4の「情報の削除または情報提供」の要求を除くと、具体的な「必要な措置」の内容は明確ではない。こうした法的規制の不明瞭さが、テック企業の危機感を煽る一方で、ユーザー情報の提供をめぐる対応を困難にしている。

各国のTikTok規制と情報提供への懸念

では、国家安全法の施行を受けて香港からの撤退にまで踏み切ったTikTokはどうだろうか。

TikTokはこれまで、いくつかの国で規制を受けている。6月29日には、ヒマラヤ山脈地帯での国境沿いで中国との緊張が高まっているインドで、WeChatなど他の中国系アプリと共に利用が禁止されることとなっており、TikTokユーザーのうち、30%ものシェアを失う打撃を被った。 またアメリカでは、現地時間の7月6日夜、マイク・ポンペオ国務長官がFOXニュースのインタビューで、TikTokを含む中国系のソーシャルメディアアプリを米国内で利用禁止にする可能性があることを語っている

これらの国々は、TikTokを運営するByteDance社が中国当局へユーザーデータの提供をめぐりセキュリティ上の懸念を示していたが、同社はこれまで情報提供の可能性を否定してきた。しかし国家安全法により、問題は一層センシティブな局面を迎えていることから、撤退という極端な選択となったと見られる。

一貫しないユーザー情報提供

しかし、テック企業による国家への情報提供のあり方も、必ずしも一貫していないことが指摘されている。

例えば、Zoomは中国政府の要請を受けて、天安門事件での抗議者虐殺についての会議の中止と、主催者である中国系アメリカ人のアカウント凍結をおこなった。また、Yahoo!による中国人記者のメールアカウント情報開示が、中国当局による彼の逮捕につながったこともある。Facebookもかつて中国進出に向けて当局と会談しており、LinkedInはコンテンツの検閲をおこなった上で中国での運用を可能にしている。また、アップルはApp Storeやその他サービスのポリシングについて現地の規制を遵守している。

現地法に違反する投稿への対応は、ソーシャルメディアの運営企業にとって一般的である。しかし、論争を呼ぶ投稿に対して規制したり、違反ユーザーとして当局への情報提供をおこなうかは、テック企業側も対応に苦慮するところである。

巨大市場と検閲

グレート・ファイヤーウォールによる情報統制や検閲体制に反発しながらも、魅力的な巨大市場として、中国はテック企業を惹きつけてきた。一方の中国当局も、言論の自由や海外からの諜報などによって、中国共産党の支配体制を弱体化させるリスクを感じながらも、中国企業の外国市場へのアクセス強化など、テック企業が持つユーザー情報のメリットを無視できない。サービス提供における言論の自由やユーザー情報の保護、国家による規制のバランスは、常にアンビバレンスを抱えながら模索されてきた。かつて香港王立警察で刑事情報課のトップを務めたスティーブ・ヴィッカースは次のように語っている

「外国企業は、言論や情報の自由を守ることと、巨大な中国市場で事業を展開したいという商業的欲求との間で、ある種のナイフエッジに立たされています。中国やテック企業が何を言っているのかよりも、実際に何をしているのかが重要になり始めています」

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著者
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院にて修士号(社会学)取得。現在、同大学院博士後期課程に在籍中。専門は社会調査・ジェンダー研究。Twitter : @keity_lied
The HEADLINE編集長。株式会社マイナースタジオを創業後、2015年に株式会社メンバーズ(東証一部)に企業売却。早稲田大学政治学研究科修士課程修了(政治学)。関心領域は、メディア論や政治思想など。Twitter : @ishiken_bot
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