なぜパンデミック下でタバコが売れるのか?規制強化と市場縮小の中で

社会

公開日 2020/07/29 17:56,

更新日 2020/07/30 10:58

有料記事

タバコの健康リスクを訴え続けてきたWHOは、加熱式を含めたあらゆる種類のタバコについて使用の中止を推奨している。特に、喫煙行為が新型コロナウィルスへの罹患率を高めるという報道も相まって、2020年以降の見通しはタバコ業界にとって暗いものとなっていた。

しかし、業界は必ずしも不況に陥ってはいない。「マルボロ」や「ラーク」といった銘柄を販売するフィリップモリス・インターナショナルアルトリアは、第2四半期の収益が予想を上回ったことで配当を引き上げるなど、タバコ業界は意外なほどに好調な動きを見せている。

だが、新型コロナウィルスとの関連で規制が強められた国もある。例えば、南アフリカではロックダウン中、タバコの販売と購入が禁止された。日本でも、2020年4月1日から改正された健康増進法が施行され、受動喫煙対策とコロナ対策を合わせて、全国的に喫煙所の閉鎖・撤去が進められるなど、タバコは徐々にそのニーズを落としてきた。実際、「ラッキーストライク」や「ケント」、「クール」などを販売するブリティッシュ・アメリカン・タバコ社は、先進国市場での取引は好調だとしつつも、収益成長予測を引き下げている。こうした世界的な規制強化と市場の縮小に対し、タバコ業界は今後の対応を迫られている。

では、健康リスクが指摘され続け、外出や旅行の減少による免税を含めた減収減益が想像されるパンデミック下で、なぜタバコ業界は売上が上昇しているのだろうか?そして、中長期的に見て規制強化や市場縮小が進む中で、タバコ業界は今後どのように対応していくのだろうか?

パンデミック下でタバコが売れる理由

逆説的だが、タバコの売り上げは新型コロナウィルスのパンデミックによってもたらされたとも言える。アメリカでは旅行や娯楽への支出が減り、タバコの消費量が増加したことに加えて、電子タバコに対する連邦政府の規制を受けて、伝統的な紙巻きタバコへと回帰している。実際、アルトリアは投資していた電子タバコJuulが10代の喫煙者を増加させ、死者も出たことから訴訟が増加したことで、大きな損失を出しており、メーカーとしても電子タバコへの注力がしづらい状況にある。また、喫煙率の減少幅は2020年7月時点では2%ペースに鈍化しており、購買・消費行動の理由としては、ストレスの増加による喫煙や外出を控えるためのカートン買いが考えられる

しかし、こうした喫煙率減少の鈍化は短期的な傾向と見られており、パンデミック以降も持続する動向とは考えられていない。そもそも、鈍化したとはいえ喫煙率は低下しており、従来のタバコ製品の市場は縮小傾向にある。

健康リスクへの意識の高まりに伴う規制強化を受けて、1960年代には成人男性の半数近かったアメリカでの喫煙率は、1980年代初頭から毎年3〜4%ずつ減少し、2019年の7%という大幅な減少を受けて、2020年は例年よりさらに喫煙率は下がると予測されていた。また、連邦法により、従来の18歳から21歳に喫煙可能な法定年齢が引き上げられたことで、若年層へのリーチをかつてより難しくなった。

こうしたタバコ業界への逆風はアメリカに限った話ではない。EUではタバコに対する最低消費税と物品税、付加価値税(VAT)が設定され、国によって異なるが、小売価格のうち7〜80%が税金となっている。加えて、2020年5月20日からイギリスを含むEU全体で、主に10代の若者の喫煙率を下げる目的でメンソール風味のタバコの販売が禁止された。

では、こうした市場縮小や規制強化に対し、タバコ業界は今後どのような対応をしていくのだろうか。

続きを読む

この続き: 1,744文字 / 画像0枚

この記事の全文を読むためには、メンバーシップ(月額980円または3200円の定期購読)に参加していただくか、単品購入する必要があります。持続可能で良質なメディアをつくるため、下記のリンクよりメンバーシップについてご確認ください。(すぐに課金されることはないのでご安心ください

メンバーシップについて知る

または、記事を単体購入する

著者
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院にて修士号(社会学)取得。現在、同大学院博士後期課程に在籍中。専門は社会調査・ジェンダー研究。Twitter : @keity_lied
おすすめの記事

政治・国際関係

なぜ米軍はドイツから撤退しようとしているのか?

有料記事

米軍が、ヨーロッパ最大の駐留先であるドイツからの一部撤退を予定している。ドイツの西部・南部を中心にあわせて約3万5000人の米兵が駐留しているが、トランプ大統領はこのうち1万2000人を撤退させるとし···

政治・国際関係

なぜ米国や日本は、TikTokを禁止しようとしているのか

有料記事

米国で、TikTokなど中国製アプリの締め出しに関する議論が盛り上がる中、日本でも一部自民党議員から同様の声が上がり始めた。28日、自民党の「ルール形成戦略議員連盟」の会合において甘利明会長は「水面下···

社会

コロナ禍における実例で見る「客観的」データに隠れた問題

無料記事

一旦は落ち着いたかに見えたコロナウイルスの感染が日本においても止まらない。2020年7月25日現在1日に確認される陽性者数は1000人前後に上っており、状況は悪化している。この問題は、世界中を大きな混···

社会

アフター・コロナに生じる変化 - 3つの分類による検討 -

無料記事

前回、ニューノーマルについて「変化が起きるには時間がかかり、問題は従来から起きていた経済的格差である」という主張をおこなった。今回は、その変化について詳細に検討していく。すでに「アフター・コロナ後の世···

社会

韓国、衝撃の「n番部屋」事件とは

無料記事

今月17日、韓国で衝撃を呼んでいる「n番の部屋」事件の首謀者として1人の男性が逮捕された。すでに筆者は、本事件について下記YouTube動画を公開しているが、動画では扱えなかった事件の全貌について、現···

人権・社会問題

フェミニズムとは何か?:なぜ女性の権利ばかりが主張されるのか

無料記事

わたしたちは、フェミニズムの時代に生きている。フェミニズムを時代性やブームのように捉えることに異論はあるかもしれないが、#MeTooムーブメントや韓国の書籍『82年生まれ、キム・ジヨン』のベストセラー···

政治・国際関係

強制投票は実現可能か、それは”良いもの”か?

無料記事

HEADLINEでは、今秋より月額3,200円の有料会員サービスを開始します。この記事は、サービスの開始後は有料記事となる予定です。もし、この記事に"読むべき価値がある"と感じられたら、ぜひ記事下部か···

政治・国際関係

AppleやNikeのサプライチェーンが関与するウイグル人強制労働。パナソニック、シャープ、SONYなど日本企業も

有料記事

以前の記事で、イスラム教徒として知られる少数民族・ウイグル人への中国政府による監視と管理について、歴史的起源を紹介した。昨年11月と今年の2月、ウイグル人への監視・管理について具体的な実態を記した文書···

政治・国際関係

ポリティカル・コレクトネスの時代とその誤解:なにが「ポリコレ疲れ」を生んでいるのか?

無料記事

アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが勝利したことは、全世界で多くの衝撃を持って受け止められている。なぜトランプが勝利したのか?あるいは、なぜ事前調査で優勢と見られていたヒラリー・クリントンが敗北し···