なぜ北朝鮮はミサイルを発射するのか?「体制維持のための核抑止力」という論理

公開日 2022年01月19日 19:27,

更新日 2022年01月19日 19:53,

有料記事 / 政治・国際関係

今月17日、北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイルと思われる飛翔体を発射した。北朝鮮は、今月14日にも短距離弾道ミサイルとみられる2発を発射しており、今年に入って4回目の発射実験となる。

相次ぐ北朝鮮によるミサイル発射実験については「核・ミサイルの性能を向上させ、交渉力を高める狙いがある」という見方や「米国を交渉に引き出す戦術を続けるつもりなのだろう」という見方、「米中対立が激しさを増し、国際社会の北朝鮮問題への関心が薄れる中、改めて存在感をアピールして米朝交渉の主導権を保持する狙い」といった見方など、その意図をめぐって様々な報道がある。

しかし、こうした見解について専門家の多くは否定的であり、国際社会からの関心を集めて、米国などとの交渉で優位に立つことが目的だという指摘は、(全てが誤っているわけではないものの)ミスリードな主張だと言える。

では、なぜ北朝鮮はミサイルを発射し続けるのだろうか?

食糧危機とミサイル発射実験

過去2年間にわたって、北朝鮮は新型コロナウイルスの流行を防ぐため国境封鎖をおこなっており、燃料や食料などで依存する中国との貿易が滞っている。その結果、悪天候や国際的な経済制裁も重なって、昨年6月には、金正恩総書記が厳しい食糧事情を認めるに至るほどの食糧危機となっている。

2019年の国連・世界食糧計画による報告では、北朝鮮の人口の40%となる推定1,100万人が栄養不足となっており、人道支援が必要であると警鐘が鳴らされた。しかし2021年3月以降、北朝鮮に入国するためには3ヶ月の検疫などが必要となったため、実質的に食糧援助は停止している状態であり、状況はますます悪化していると予想される。

活発化するミサイル発射実験

こうした厳しい経済状況の中でも、北朝鮮はミサイルの発射実験を続けてきた。金正恩体制になって以降、核実験や弾道ミサイルが発射される回数は飛躍的に増えており、金正日・前最高指導者の体制下では、弾道ミサイルなどが発射されたのは計16発だったが、現体制下ではすでに計94発以上が発射されている。

特に2016年と2017年には20発前後が発射され、シンガポールで開催された米朝首脳会談の影響などで発射実験が無かった2018年を挟んで、2019年には25発が発射されるなど、2020年まで活発に発射実験がおこなわれた。

活発化するミサイル発射実験にあわせて注目をされているのが、ミサイルの「多様化」だ。2017年に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験が成功して以降、北朝鮮は主に短・中距離ミサイルの開発に焦点を移してきた。今月11日に発射された極超音速ミサイルや、同14日の鉄道機動ミサイル連隊、昨年9月の長距離巡航ミサイルなど実験対象は幅広くなっており、同国が保有するミサイル技術が多様化していることが伺える。

すなわちミサイル発射実験の数に加えて、実用化する武器の多角化という意味でも、北朝鮮の軍備増強に対する動きは活発化していると言える。

外交カード?

経済的に苦しい中でも、積極的に軍備増強をおこなう北朝鮮の姿勢について、日本でもよく知られているのが「挑発で関心を引いて交渉の幅を大きくするという、数十年間繰り返した瀬戸際戦術の一環」という見方や「緊張を高めることで交渉において優位に立とうとする、政治的な思惑が絡んでいる」という分析だ。

また足元の食糧危機とあわせて、経済制裁を解除するための揺さぶりとしてミサイル発射を繰り返しているという見方や、金正恩総書記の好戦的な性格が影響しているという見方もある。

細かい論調の違いはあるものの、これらは総称して北朝鮮の「瀬戸際外交」として用いられる「外交カード」論だと言える。経済的な苦境はもちろん、国際社会から孤立している北朝鮮だからこそ、ミサイルや核兵器というカードを利用して、外交交渉を有利に進めようという考え方だ。現実的な軍備増強の意図があるかはさておき、日米韓など関係国との外交交渉で優位に立つために、核およびミサイル発射実験を繰り返している、という見解だ。

こうした分析の背景には、北朝鮮を「理解不能」とする認識や、その政治的リーダーを「狂人」として捉えるような見方があることもポイントだ。「瀬戸際外交」という言葉からも分かるように、合理的な判断に基づいて交渉カードが切られていると言うよりも、博打のような形で、脅しと突発的な行動が繰り返されている、というニュアンスがある。

確かに、世界的にも珍しい社会主義の独裁国家と、予測不能な行動を取るその政治的リーダーである金正恩総書記について、常人とは異なる思考回路の持ち主だと考えることは直観的でもある。

しかしながら、こうした議論は「なぜ核を持たなければならないのか、という北朝鮮側が積み上げて説明してきた論理」(慶應義塾大学・礒崎敦仁准教授、BSフジ『プライムニュース』2018年4月30日)を無視したものとなっており、専門家からは否定的に捉えられている。

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著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『スッキリ』月曜日コメンテーターの他、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
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