フランスの大学入試、バカロレア資格とは何か?

公開日 2022年06月17日 12:22,

更新日 2022年09月15日 11:04,

有料記事 / 欧州 / 社会

日本時間6月15日午後、フランスの大学入試に相当するバカロレアの哲学試験が執り行われた。

今年の哲学筆記試験では「芸術の実践は世界を変えるか」「何が正しいかを決めるのは国家なのか」といった問題が出題された。いずれも難問揃いだ。このように「フランスでは高校生が哲学を学んでいる」という事実は、日本の暗記偏重教育を批判する際の根拠として引き合いに出されることが多い。

だが、フランス哲学を専門とする京都薬科大学准教授の坂本尚志氏は、バカロレアは自分の思ったことを自由に書けばよいという理解は誤っているとして警鐘を鳴らす。同氏によれば、バカロレアは厳密な採点基準が存在し、思ったことを何でも書いてよいわけではない。バカロレアの採点基準は、日本で思われているよりもはるかに形式重視なのだという。

では、バカロレアの採点基準とは一体どのようなものなのだろうか?また、その基準はいかなる理念に基づいているのだろうか?

バカロレアとは?

バカロレア(baccalauréat)とはフランスの高校卒業資格だ。日本の大学入学共通テストと同様、高校3年生の終わりに試験が行われる(*1)

この試験に合格してバカロレアの資格を取得すれば、基本的には希望する大学に入学することができる。フランスは日本と異なり大学の個別入試が存在しないためだ。これは、国内の大学間に優劣は存在せず、どの大学も平等であるとする理念に基づいている

(*1)なお、フランスのバカロレアは、日本でも取得できる高校が増えた「国際バカロレア」(IB)とは別物だ。後者はスイス・ジュネーヴに拠点を置くNPOが主宰しており、フランス政府は運営に一切関与していない。

 
普通バカロレアの合格証書(Wikimedia

バカロレアの制度

では、フランスの大学入試に相当するバカロレアは、一体どのような制度によって運営されているのだろうか?

バカロレアは「一般」「技術」「職業」の3区分に分かれている。受験生はこのうち1つを選んで受験するが、半数以上の学生が「一般」の区分を受験する。「技術」と「職業」の区分は、主として専門学校や技術系の短大(IUT)への進学のために用意されたものだ(*2)

さらに、一般バカロレアは2021年まで理系・文系・経済社会系という3つのコースに分かれており、それぞれ受験科目や問題が異なっていた。一体どんな内容なのだろうか?以下で詳しく見てみよう。

(*2)またこれに加え、理工科学校(エコール・ポリテクニク)や高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリウール)といったグランゼコールへの入学を目指す生徒は、バカロレア取得後に準備学級でさらに2年間受験勉強に取り組む必要がある。

受験科目は?

バカロレアの受験科目の主なものには、国語、数学、地歴、理科、外国語などがある。このうち国語(フランス語)だけは高校2年の終わりに受験する。毎年6月に行われる哲学の試験はバカンスシーズンの到来を告げる風物詩であり、大手新聞やテレビでは哲学者が講評をおこなったり、実際に解答例を作成してみる企画が恒例となっている。

哲学の試験問題は?

バカロレアの哲学試験の問題は特徴的だ。「芸術作品は美しくあるべきか?」(2017年、経済社会系)、「欲望とは人間の欠陥の証なのか?」(2018年、理系)、「トクヴィル『アメリカのデモクラシー』の抜粋を説明せよ」(2015年、文系)などといったように、哲学的命題が一行で記され、この問題に関する解答を詳細に論述する。

学生は3題から1つを選択し、朝の8時から12時まで、4時間かけて解答する。鉛筆で書くことは禁止されており、必ずペンで清書する。

なぜ論述形式?出題のねらいは?

このような形式の試験を見ると、高校で哲学を学ぶフランスの教育制度は優れていると感じ、日本の教育を暗記偏重だとして批判したくなるかもしれない。しかしながら、そうした評価には留保が必要だ。

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著者
パリ社会科学高等研究院博士課程
東京大学文学部卒業後、同大学院にて修士号(文学)取得。現在はパリ社会科学高等研究院の博士課程に在籍中。専門は政治文化史・社会政策思想史。著書に『欧米圏デジタル・ヒューマニティーズの基礎知識』(共編、2021年)、『歴史を射つ』(分担執筆、2015年)など。
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