Xuanwu Lake, Xuanwu, Nanjing, China(Hassaan Malik, Unsplash), Kishida Fumio(Kantei, CC BY 4.0), Xi Jinping(Kremlin, CC BY 4.0), Illustration by The HEADLINE

なぜ中国経済の「日本化」が、世界から懸念されているのか?

公開日 2023年08月31日 19:07,

更新日 2023年09月11日 14:32,

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この記事のまとめ
💡中国の「日本化(Japanification)」に注目が集まっている

⏩ 不動産問題と鈍化する経済成長に直面する中国を「失われた30年」の日本になぞらえる動き
⏩ 少子高齢化や消費マインドの減退(デフレ傾向)など、共通点も
⏩ 世界第2位の経済大国・中国に何が起こっている…?

世界第2位の経済大国・中国の行く末に、注目が集まっている。不動産セクターの低迷が続いている他、消費者物価指数(CPI)がマイナスになるなどデフレ圧力が強まり、米・バイデン大統領は中国経済が「時限爆弾」だと酷評している。

こうした中、あるキーワードが世界中のメディアで散見されるようになった。それは、中国経済の「日本化(Japanification)」だ。この言葉は2010年頃、消費者が消費を拒否し、企業が投資を控え、銀行が資金を滞留させることで生じる、需要崩壊という「デフレの罠」に陥る状態への危惧から生まれた。

一体、中国経済に何が起こっており、それはなぜ「日本化」と呼ばれているのだろうか?

「失われた30年」と驚くほど似ている?

この現象は、まず今年2月の Financial Times(FT)誌で指摘された。同誌は、現在の中国が不動産バブル後の日本と「驚くほど似ている」という Citi Group の分析を参照して、

  • 日中両国は、インフラ投資と輸出促進によって、力強い経済成長を実現(日本は戦後、中国は WTO 加盟の2001年から)
  • 両国ともに、商業銀行(間接金融)に依存した金融システムが形成され、実体経済との切り離しが起こった
  • 貿易黒字の増加に伴い、米国との貿易摩擦が生じた

という類似点を挙げる。その上で記事は「これは中国の特徴を有した日本化であり、投資家が注意すべきリスクは銀行システムだと、Citi は結論付けている」と締め括られている。

すぐさま反論したのは、中国・共産党機関紙系の Global Times(環球時報)だった。FT 誌の主張に対して、同国経済は不動産市場の上昇など「力強い回復兆候を強めて」いる他、経済のファンダメンタルズは安定し、すでに不動産バブルは「抑制されている」と述べた。その上で、中国の景気回復が世界経済にとって「重要な推進力」であることは広く知られているとしつつ、西側諸国の一部は「中国経済が直面する潜在的な長期リスクを、中国の不動産セクターのあら探しによって大きく取り上げようとしている」と批判した。

しかし、中国経済の「日本化」が懸念されている理由は、決して不動産セクターの脆弱性だけに起因しない。

著名な経済学者のポール・クルーグマン氏は、中国の未来が日本よりも「悪いものになる」とすら予言しており、その低迷の原因は「個人消費の抑制」にある見ている。中国は、同国が保有する巨額の資本について、適切な投資ではなく「肥大化した不動産セクター」に振り向けてきたが、クルーグマン氏はそれが持続不可能な戦略だと指摘する。

また野村総合研究所のリチャード・クー氏は、中国が「バランスシート不況」に入りつつあると指摘する。これは、バブル崩壊後の日本が陥った状況であり、株や土地の下落による資産価値の暴落に対応するため、企業が借金返済を優先することで、金融緩和の効果が薄れる状態を指す。

また FT 誌による別の記事では、日中が「全く異なる国であり、時代も大きく異なる」とされつつも、「長期にわたる人口動態の悪化や経済の低迷、デレバレッジとデフレ圧力という包括的な病」が類似していると述べられる。そして「日本化」を好意的に捉えるような論者も、中国は「日本のソフトランディング」を見習うべきだと主張して、その共通点を強調する。

すなわち多くの論者は、現在起こっている中国の景気減速は、不動産問題のみに起因する一時的な弊害ではなく、構造的な要因から生じていると考える。そして、それは1990年代の日本が陥った問題と、少なからずの経験を共有しているようだ。

鈍化する中国経済

コロナ禍からの急回復が期待されていた中国経済は、現在のところ減速傾向にある

なぜ中国はゼロコロナ政策に固執し、それは行き詰まっているのか?
有料記事 / 社会

今年1月までゼロコロナ政策に固執していた同国は、その後、各種規制が撤廃されたことで経済活動が持ち直してきた。しかし、その伸び率は期待を下回っており、春頃には工業生産や小売売上高、固定資産投資などの各種指標で、伸び率の低下が目立った。外食や旅行などのサービス部門の回復も予想より遅れ、世界銀行による成長率予測も 4.3% となり、以前の予測から 0.9 ポイント下回っている。

特に最近になってから鈍化傾向は顕著となっており、中国政府が掲げた 5% 成長の目標も達成できない可能性が指摘されている。サービス部門は、第1四半期(1-3月)にはリベンジ消費の影響もあって、工業部門より成長が見られたものの、第2四半期(4-6月)には減速傾向が目立った。また自動車や家具などの耐久消費財も振るわず、消費者の "節約志向" は顕著となっている。

こうした状況を表すのが、6月の生産者物価指数(PPI)と7月の消費者物価指数(CPI)が、いずれもマイナスとなったことだ。

PPI は生産者によって出荷された製品・原材料などの販売価格、CPI は消費者によって購入される消費・サービスなどの小売価格の変動にもとづく経済指標だ。各国のインフレ動向を図る上での重要な指標となっており、各国がインフレと闘っているにもかかわらず、中国では両指数がマイナスとなっていることで、異例のデフレ圧力が浮き彫りとなった。

消費マインドの冷え込みは、「3年に及ぶゼロコロナ政策を経験したことによるショック」からもたらされている一方、中国経済が構造的な課題に直面しているとする声は強い。それこそが、同国の「日本化」が指摘される要因だ。

「日本化」の要因

中国経済の「日本化」を示唆するポイントは、大きく5つに分けられる。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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