Web3 とは何か?急速に注目を集める新たなトレンド

公開日 2021年12月15日 20:19,

更新日 2021年12月18日 10:02,

有料記事 / テクノロジー

ここ数ヶ月、日本や米国などで Web3(もしくは Web3.0)という言葉が話題となっている。

著名VCのAndreessen Horowitz(a16z)でパートナーを務めるアンドリュー・チェンは、以下のように「Web3 は一時的な流行やバブルではない」として、それが巨大な潮流であることを指摘している。

2005年、オープンソース運動の著名な支持者であるティム・オライリーはブログやソーシャルメディアの台頭、Wikipediaのような集合知の発展、プラットフォームやコミュニティの広がりなどを指して、Web2.0 という概念を提唱した。この概念の明確な定義はないが、GoogleやAmazon、Apple、そして後のFacebookのような巨大テック企業(ビッグ・テック)によって体現されてきた世界だと言える。

そこから15年以上が経過し、今度は新たに Web3.0 が提唱されている。Web3 と呼ばれることが多い本概念は、一体何を意味するのだろうか?そして、従来のインターネットとは何が異なるのだろうか?

Web3 とは何か?

Web3 とは、端的に言えばブロックチェーン技術を活用した分散型ウェブの世界だ。FacebookやGoogle、Twitterなどの巨大な仲介業者(ビッグ・テック)を排除して、情報へのアクセスとデータ利用を民主化する様々なアイデアの総称とも言える

この世界では、巨大企業ではなくユーザー自身がデータを保持して(分散化)、ネットワーク上のデータの正しさがシステムによって検証され(透明性 / 検証可能性)、ネットワークやデータの一部を所有することで(所有権)、収益化することもできる(経済的インセンティブ)。

具体的に言えば、ユーザーは自身の個人情報をビッグ・テックに渡さないまま、検索やソーシャルネットワーキング、データ保存、金融などの各種サービスを利用することができる。またブロックチェーン技術を利用して発行された仮想通貨(*1)である「トークン」を介して、運営に参加したり報酬を得ることも可能だ。

Web3 の世界では、後述するNFTやDeFi、DAOのようなユースケースも登場しており、それらはブロックチェーン技術によって支えられている。つまり、Web3 とは具体的なサービスやビジネスモデル、技術を指すのではなく、より広範な理念や概念であると言える 。

またこの概念や理念をめぐっては「理念的な議論」と「経済的な議論」が混在している(もちろん両者は不可分ではあるが)点もポイントだ。この新しい概念の擁護者あるいは批判者が、どちらを語っているかに注意する必要があり、それを前提として議論を概観していこう。

(*1)Web3 の文脈を尊重するならば、crypto-currency は暗号通貨と訳すべきだろうが、本記事では人口に膾炙した仮想通貨で統一する。

Web3 を支えるブロックチェーン(分散型台帳)

まず、Web3 について考えるためには、それを支える技術としてのブロックチェーンについて触れる必要がある。特に、Web3 は分散化という考え方によって語られるが、その特徴を担保しているのがこの技術だ。

仮想通の Bitcoin(ビットコイン)の名前が広まるとともに、多くの人がブロックチェーンという言葉を耳にすることが増えたが、これは簡単に言えば「取引情報が記録された台帳」だ。

たとえば Bitcoinの取引記録は、すべてブロックチェーンに記録されており、その記録は透明性を持ち、改ざんが困難(ほぼ不可能)となっている。ブロックチェーンのデータは、単一のサーバーに保管されているのではなく、相互に接続されたコンピューターのやりとりによって、その取引情報が正しいことを保障し合う仕組みとなっている。

つまり現行のウェブサイトは、管理者のサーバーに情報が保持されているが、ブロックチェーンはこうした中央集権的な管理者が存在しない。そのためブロックチェーンは「分散型台帳」とも呼ばれており、Web3 の世界では、この分散化がポイントとなっている。

では、このWeb3 という概念はどのように生まれ、具体的にはどのような特徴を持っているのだろうか?

背景(Web1.0 から Web3 へ)

Web3 の概念を早くから提唱したのは、 Ethereum(イーサリアム)の共同創設者であり元CTOであるギャビン・ウッド氏だ。

ウッド氏は、Web3 Foundation を立ち上げるなど Web3 を促進する活動をおこなっており、特に(Web3.0ではなく)Web3 と呼称する場合は、同氏や同財団の活動の文脈を踏まえていることが多い。

同氏は、Web3 について「恣意的な権力者から、より合理的なリベラル・モデルへと移行する、より広範な社会・政治的な動きの一部だ」と語っており、現行の Web2.0 の世界が持っている弊害を指摘しつつ、Web3 の理念を強調する。

つまり、Web3 の特徴を見ていくためには、Web1.0 からはじまるインターネット(Web)の歴史を抑えつつ、Web2.0 の弊害について理解する必要がある。

Web1.0

一般的に、Web1.0 の時期はインターネットが普及しはじめた1990年代半ばから、Web2.0 が生まれる2000年代半ばまでを指す。この時代は、HTMLでつくられた静的なウェブサイトが中心で、ユーザーもそのウェブサイトを閲覧するだけに留まり、何かを買ったり、コンテンツを投稿したり、あるいは相互にアクションしあうことは殆どなかった。

つまり「Read-only」(閲覧のみ)であり「Static」(静的)な世界だと言える。たとえば1995年に誕生した、個人がウェブサイトを作れるGeoCitiesは、Web1.0 の代表例だ。日本でも「Yahoo!ジオシティーズ」として、多くの個人サイトが立ち上がった。


GeoCities(1995年)

ちなみにWeb1.0 という用語は、Web2.0 の誕生によって規定された。もともと Web1.0 という概念はなく、Web2.0 が生まれたことで、それ以前の世界を1.0と呼び始めたというわけだ。

Web2.0

これに対して Web2.0 は、すでに見てきたようにGoogle、Facebook、Amazon、Appleなどのビッグ・テックに代表される世界だ。

静的なウェブサイトではなく、情報がデーターベースに格納され、コンテンツが動的に生成され、ユーザーが相互にアクションをおこない(たとえばフォローやいいねなど)、巨大プラットフォーマーたちのサービス上で消費者は多くの時間を過ごしている。つまり「Read-write」であり「Interactive / Collaborate」(相互作用)な世界だ。

当初、Web2.0 はブログサービスの Blogger や写真共有サービスの Flickr のように、双方向性を持ったサービスとして生まれてきた。


Blogger(2001年)

この流れの中で、大規模なネットワークを生み出し、広告などのビジネスモデルを通じて商業的成功を収めるプレイヤーが生まれてきた。それが、ビッグ・テックだ。

彼らの誕生と急成長によって、検索やメール、データの保存や共有、友人との会話、動画の閲覧などの各種サービスは多くが無料で提供され、モノやサービスの購入は格段に便利になった。その結果、2010年代後半からのインターネットは、Google や Facebook、Amazon、Apple、そしてNetflix などのサービスで完結するようになり、彼らの力は強大になっていった。

しかし、このビッグ・テックによる寡占とも言える状況は、大きな利便性を生みつつも弊害をもたらした。

Web2.0の弊害

a16z でゼネラルパートナーを務めるクリス・ディクソン氏は、ビッグ・テックに代表される Web2.0 の功罪を以下のように語る

良いニュースは、何十億もの人々が素晴らしいテクノロジーにアクセス出来るようになり、その多くが無料で使用できるようになったことだ。一方、新興企業やクリエイターは中央集権的なプラットフォームにルールを変えられ、視聴者や利益を奪われずにインターネットでの存在感を高めることが非常に困難になったことだ。その結果としてイノベーションは阻害され、インターネットの面白さやダイナミックさが失われた。

また中央集権化は、より広範な社会的緊張を生み出した。フェイクニュースや国家が背後にいる有害なボット、ユーザーの「プラットフォームからの排除」、EUのプライバシー法、アルゴリズムによるバイアスなどが議論されている。こうした議論は、向こう数年間でさらに激化するだろう。

ディクソン氏が述べるように、近年のビッグ・テックは批判の渦に晒されている。2018年、Facebookの大規模なユーザーデータが、英国のデータ分析企業であるケンブリッジ・アナリティカ社に渡っていた問題が発覚すると、同社をはじめとする多くのビッグ・テックが批判を集めはじめた。

Facebook の共同創業者クリス・ヒューズ氏や、初期投資家のショーン・パーカー氏、元副社長のチャマス・パリハピティヤ氏など、Facebookの元関係者らも次々と同社を批判し、ビッグ・テックが膨大なデータを保持していることや、アルゴリズムによって消費者の中毒を煽っていること、社会の分断を加速させていることなどが議論されていく。

こうした批判は、大きく4つの方向性に分けられる。

1. データの独占

まず、ユーザーの個人情報や膨大なデータが、ビッグ・テックによって独占されていることだ。

去年10月、米議会下院はビッグ・テックについて反トラスト法(独占禁止法)に基づく調査報告書を発表した。同報告書は、Google や Amazon、Apple、Facebook が「石油王や鉄道王の時代を思い起こさせる独占企業」になっており、支配的な地位を利用して、商取引や検索、出版、広告などの分野で、自社に有利な価格やルールを設定していると批判した。

2017年、The Economist誌がおこなった「世界で最も価値がある資源は、石油ではなくデータだ」という有名な指摘にあるように、こうした企業は消費者のありとあらゆるデータを集めることで、膨大な利益を手に入れた。

こうした問題は、単なる独占的な地位による不当な利益という論点だけでなく、プライバシーの権利や表現の自由など基本的人権への侵害という論点にまで広がっている。加えて、データの独占やアルゴリズムへの利用は、ヘイトスピーチやフェイクニュースなど、社会の健全性や民主主義のガバナンスを揺るがしていると言われる。2016年の米国大統領選挙をきっかけとして「社会的分断」が問題視されるようになり、ビッグ・テックがそれを加速させているという論調が強まっていく。

2. 透明性の欠如

2つ目として、ビッグ・テックにおける透明性の欠如という問題がある。

収集されたデータがどのように使われているか?プラットフォーム上でどのようなアルゴリズムが動いているか?危害を生み出す可能性のあるコンテンツ(たとえば)をどのようにモデレート(管理)しているのか?などの説明責任が十分に果たされていない、という批判だ。

こうした問題意識から欧州委員会は、2020年にデジタルサービスアクト(DSA)を公表して、「オンライン上のコンテンツに関連する被害と、その結果についての透明性を高める」ことを目指している。米国でも、政府の監視機関を設けるべきだという論調や科学的根拠にもとづく独立した監視委員会を求める声が高まっている。

特に今年9月、Facebook の傘下にある Instagram が、10代女性のメンタルヘルスにとって自社サービスの悪影響を知りながらも、十分な対策を講じていないことが明らかになり、規制を求める声は拡大している。Facebook はすでに、表現の自由に関連した独立委員会を設置しているが、問題の内部告発者であるフランシス・ハウゲン氏は、政府に対してより抜本的な対応を求めている

3. 所有権の不在

ビッグ・テックによるデータの吸い上げによって、消費者側に所有権がないことも問題視されている。

これは、ビッグ・テックが個人情報や様々なデータの所有権を持ち、本人よりもその欲求とニーズを理解している問題に限らず、ゲームアイテムや映像、画像など、クリエイターによって生み出されたコンテンツが、ビッグ・テックによって所有されている問題を指している。

著名VCである Index Ventures のレックス・ウッドバリー氏が述べるように「今日、私たちは音源をSpotifyから、ドメイン名をGoDaddyから、ブログ記事をSubstackから『レンタル』している。私たちは真のオーナーではなく、クリエーターも所有者ではないのだ。(テイラー・スウィフトが最近、自分のアートの所有権をめぐって争っていることからも明らかだ)」。

消費者はコンテンツだけでなく、ネットワークも所有することができない。たとえば Instagram で熱心に集めたフォロワーを TikTok に持ち込むことは出来ず、膨大な時間をかけて作り上げたファンとの関係性も、突如として Ban(削除)されるリスクに晒されている。

これは De-Platforming や no-platforming と呼ばれており、最近では今年1月の連邦議会議事堂襲撃事件を受けて、ドナルド・トランプ前大統領や QAnon などの極右グループおよび関連ユーザーが、FacebookやTwitterから削除された事例がある。差し迫った危険を理由としたアカウント削除には擁護の声も多いものの、ビッグ・テックが大統領の言論を左右できる状況への危惧は強い。

4. コミュニティとの利害相反

ここまで見た、2つ目と3つ目の問題によって、コミュニティと企業の間には利害相反が起こっている

この問題については、前述したクリス・ディクソン氏による説明がわかりやすい。

ビッグ・テックは、最初にユーザーやクリエイター、開発者、サードパーティの事業者などを自社のプラットフォームに呼び込むための様々な施策を講じる。これによってネットワーク効果が高まり、プラットフォームはますます力を得る。ところが今度は、ユーザーからデータを吸い上げ、サードパーティ事業者などと競争をはじめ、最終的に彼らを締め出す。

たとえば Google には、地域のレストランの口コミ情報などが表示される。当初、同社は人気口コミサイトの Yelp を検索結果の上位に表示させることで、ユーザーに情報を提供していたが、後から自社で類似サービスをリリースすることで、このライバル企業を苦しめた。つまり、ユーザーが Google というプラットフォームの利便性を認識するまでは、Yelp のコンテンツが必要だったわけだが、自らのブランドが確立された後は、彼らを切り捨てたのだ。

同様の物語は、Facebook と Zynga、Twitter とサードパーティ事業者などでも見られる。

また、プラットフォームの成長に貢献したユーザーやクリエイター、開発者らは、その貢献に対して十分な経済的報酬を得ることができないまま、弱い立場に置かれたままだ。Instagram でも YouTube でも TikTok でも、突如としてアルゴリズムに冷遇されるようになったクリエイターは、黙って爪を噛む以外の方法はない。最近でも、ゲームストリーミングサービスである Twitch の内部情報が漏洩したことで、クリエイターに対する不平等な報酬条件が話題となった。

プラットフォームとしては、株主からの要求に応えて利益を最大化するため、(彼らが離反しない程度に)収益還元を抑える必要があり、両者のインセンティブは根本的に緊張関係にある。クリエイターへの報酬に関する透明性の欠如は、企業とコミュニティの利害が一致していないことを示唆している。

Web1.0 + Web2.0 = 3.0 ?

つまりWeb2.0 の世界は、ビッグ・テックによって「閉ざされた」ものとなっており、消費者の権利が、理念的にも経済的にも不均衡に弱まっている。こうした Web2.0 の弊害を受けて、生まれてきたのが Web3 という概念だ。

ところが、この「閉ざされた」世界に対する「フリーで開かれたインターネット」という理念は、インターネット草創期からのヴィジョンでもある。つまり、Web3 とは Web1.0 への回帰だとも言える。

たとえばクリス・ディクソン氏は Web3 について Web2.0 のアンチテーゼとしてではなく、Web1.0 と 2.0 の融合として捉えている。Google や Facebook が存在しない Web1.0 の時代は、分散型でコミュニティによって管理されたオープンな空間だった。Web3 は、その理念的な空間に、Web2.0 で生まれたモダンで最先端の技術や機能が加わった世界なのだ。

ちなみに、Web2.0 が「フリーで開かれたインターネットを終焉させる」という予言は、2010年にWIRED誌の編集長だったクリス・アンダーソン氏がおこなっている。少し長くなるが、10年以上前の言葉とは思えないほどアクチュアルな指摘であるため、下記に引用しておこう。

ここ数年、デジタル世界における最も重要な変化のひとつは、完全に開かれたウェブから、インターネットを伝送手段として用いて、表示にはブラウザを必要としないセミクローズドなプラットフォームへの移行だった。これは主に、iPhone のようなモバイル・コンピューティングの台頭によってもたらされたもので、Googleがクロールできない世界であり、HTMLが支配しない世界でもある。消費者は、ますますこの世界を選択しはじめているが、それはウェブという概念を否定しているからではなく、専門化されたプラットフォームがより良く機能し、生活に適合しているからだ。(画面が自分のところにやって来るため、画面を探し出して行く必要はない。)

(略)

実は、ウェブには常に2つの顔がある。1つは、既存ビジネスや伝統的な権力構造の崩壊を促すインターネットを意味している。そしてもう1つは、絶え間ない権力闘争の場としてのインターネットだ。多くの企業が、TCP/IPで満たされた世界の全て、あるいは大部分を支配することを戦略の柱としていた。Netscape はホームページを、Amazon.comは小売業を、そしてYahooはウェブのナビゲーションを支配しようとした。

Googleは、このプロセスの終着点となった。オープンなシステムと平準化されたアーキテクチャを象徴するかのように、優れた皮肉と戦略的な才覚によって、オープンなシステムをほぼ完全に支配したのだ。単一のプレイヤーに、これほど完全に従属した世界は他にないだろう。Google によるモデルでは、映画の配給会社が1社だけ存在し、その企業がすべての映画館を所有している。Google は、トラフィックと販売(広告)の両方を管理することで、これまでウェブでビジネスをしてきた他企業が、同社よりも巨大になることはもちろん、対抗することも不可能な状態を作り出した。世界で最も分散化されたシステムを支配する皇帝となったのだ、ローマ帝国のように。

この指摘には2つの含意がある。1つは、消費者が「フリーで開かれたインターネット」という理念を否定したから、Googleなどが台頭した "わけではない" ということ。もう1つは、彼らはただ独占しているだけでなく「分散化された世界」を独占しているということだ。この指摘は、Web3 について考える上でも、示唆的な見解だと言えるだろう。

Web3 の4つの特徴

ここまで Web2.0 の歴史と弊害を見てきた。では、その弊害と対比させる形で Web3 の特徴を見ていこう。

結論としては、分散化・透明性(検証可能性)・所有権・インセンティブという4つが Web3 を特徴付けるポイントだ。冒頭で述べたように、前者の2つが主として「理念的な議論」であり、後者の2つが「経済的な議論」となっている。

1. 分散化

まず Web3 の世界では、ビッグ・テックに独占された個人情報やデータが分散化によって市民の手に取り戻されることが挙げられる。

たとえば、NFTのマーケットプレイスである OpenSea などを利用する際、MetaMask(メタマスク)と呼ばれる仮想通貨ウォレットを通じてログインする。これは従来の Facebook や Google によるログインとは異なり、自身のアイデンティティを自ら所有する仕組みだ。

またメッセージアプリの Status は、ブロックチェーンの Ethereum を基盤としており、検閲を受けず、ユーザーが自身のプライバシーを守ったまま利用することができる。


メッセージアプリ Status

分散化の利点は、サーバーがダウンしたり障害が発生してもサービスが利用し続けられることや、ハッキングのリスクを減らせること、De-Platforming や no-platforming を回避できることが挙げられる。また国家安全法が施行された香港のように、国家がユーザの個人情報などを不当に取得しようと試みた場合、それに対抗できるメリットもある。

この問題を考える上では、ギャビン・ウッド氏が指摘する「Less trust, more truth.(信頼よりも、真実を)」という理念に触れておく必要がある。

同氏は、現実の証拠や合理的議論がないまま、人や組織を盲目的に信仰(人や組織に対して、ある種の権限を与えること)することは望ましくないと指摘する。しかし現在、多くの市民は「ビッグ・テックが真実を語っている」という信頼(盲目的な信仰)にもとづいて行動している

ビッグ・テックは、自らの利益のために制度変更やルールメイキングを実行したり働きかける「レントシーキング(rent-seeking)」をおこなう仲介業者となっており、彼らが真実を語っていると信頼できる証拠はない。実際、WikiLeaksやエドワード・スノーデン事件などで示されたように、政府すらも真実を語ることはなく、ビッグ・テックが恣意的に情報へのアクセスを遮断してきた事実もある。

つまり同氏によれば、分散化を促す Web3 は「利便性」という問題を超えて「実行可能なマグナカルタ(*2)なのだ。それは「専制君主の恣意的な権力に対する、個人の自由を擁護する基盤」となりえる存在だ。(*3)

(*2)1215年、イングランド国王の権限を制限した文書で、後の市民権や自由権に対しても影響を与えた。ここでは政府やビッグ・テックの恣意的な権力に対して、Web3 が分散化によって個人の自由を擁護する意味合いで用いられている。
(*3)ただしクリス・ディクソンは、分散化が重要な理由は「政府の検閲に抵抗するためでも、リバタリアン的な政治的立場でもない」と述べて、ビッグ・テックのプラットフォームが強すぎることが問題の中心にあると指摘する。

2. 透明性(検証可能性)

Web3 の2つ目の特徴である、透明性の確保(検証可能性)も「Less trust, more truth.」と大きく関わっている。

ブロックチェーンの特性として、分散化・不変性・透明性・セキュリティ上の特徴による「トラストレス(trustlessness)」という概念が挙げられる。トラストレスとは、特定の人や組織などを信頼(前述した「盲目的な信仰」)せずとも、自動化されたシステムによってデータを検証することで、その正しさを担保することを指す。

従来であれば、Facebook や Google などのビッグ・テックや政府などを信頼することで、人々は貨幣制度や法制度への参加、個人情報の提供などをおこなってきた。しかし Web2.0 の弊害で述べたように、その透明性と説明責任に疑念が生まれたとしても、現実的にその制度から抜け出すことは不可能だった。

これに対してブロックチェーンは、その技術的特性によってデータやネットワーク自体の正しさを検証していき、それは透明性によって基礎づけられている。つまり、透明性によって誰もがデータを検証することができるため、組織や人を盲目的に信仰することなく、真実に近づけるのだ。

ところで、ここまでの「理念的な議論」を見た時に、市民(あるいは消費者)はそこまで理念的なのだろうか?と疑問を持った人は少なくないだろう。

たとえば、メッセージングアプリの WhatsApp を通じて Facebook に個人情報を取得されたとしても、周囲の人が匿名性の高いメッセージアプリである Signal を使っていなければ、わざわざそこに乗り換える理由はない。言い換えれば、消費者は「説明責任や透明性に満足している」から Facebook を信仰しているのではなく「便利だから」信仰しているに過ぎないのではないだろうか?

前述したクリス・アンダーソン氏が述べたように、理念的には Web1.0 の世界は望ましいものの、結局のところ Web2.0 においてビッグ・テックが勝利したのは、その強烈なネットワーク効果だからではないのだろうか?

3. 所有権(トークン)

そこでポイントとなるのが、個人の所有権(*4)という3つ目の特徴だ。

続きを読む

この続き: 10,336文字 / 画像7枚

この記事を読むためには、月額980円のメンバーシップに参加するか単体購入が必要です。10日間の無料トライアルで、いますぐ読むことができます。

いますぐ無料トライアル

すでにメンバーシップに入っている方や単体購入されている方は、こちらからログインしてください。

メンバーシップに関するご質問、決済や支払い方法などについては、「よくある質問」をご覧ください。

著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『スッキリ』月曜日コメンテーターの他、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説をおこなう。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジア、テクノロジー時代の倫理と政治など。
最新情報を受け取る

ニュースレターやTwitterをチェックして、最新の記事やニュースを受け取ってください。

おすすめの記事