San Francisco bridge at daytime(Natalie Chaney, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

なぜサンフランシスコが荒廃しているのか?強盗と薬物乱用悪化の背景とは

公開日 2023年11月30日 17:34,

更新日 2023年11月30日 17:49,

有料記事 / アメリカ(北米) / 社会問題・人権

この記事のまとめ
💡サンフランシスコの街が荒廃、治安悪化の背景は?

⏩ 犯罪総数は減少も、強盗や自動車盗難は増加
⏩ 州法「プロポジション47」の影響が示唆されるが、専門家の意見は割れる
⏩ 街の空洞化や薬物問題の深刻化も背景に

日本時間11月16日、岸田文雄首相は、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に参加するため、カリフォルニア州・サンフランシスコに到着した。

そのサンフランシスコでは現在、略奪の急増や空き店舗の増加など街が荒廃する事態に陥っている。3月、市庁舎で撮影をしていた CNN のテレビクルーが車上荒らしの被害に遭ったほか、6月には、映画監督のイーライ・スティール氏も車の窓ガラスを割られ、1万5,000ドル(約220万円)相当のカメラ機材を盗まれた。

APEC 直前の11月12日(現地時間、以下同様)には、チェコ人カメラマンが強盗に銃を突きつけられる事件が発生、1万8,000ドル(約268万円)相当の機材を盗まれたという。

そして、強盗事件に加え、サンフランシスコで問題になっているのが薬物過剰摂取による死者の増加だ。同市では2020年、700人以上が薬物の過剰摂取で死亡し、新型コロナによる死者数を「はるかに上回った」という

このように、サンフランシスコでは強盗などの事案が急増しているほか、薬物乱用の蔓延が後を絶たない。ただ、米国全体の暴力犯罪は2022年に減少し、2023年はさらに減少する見込みだという。なぜ、サンフランシスコだけ治安が悪化しているのだろうか。

何が起きているのか?

サンフランシスコの治安悪化とは、具体的に言えば、強盗などの犯罪、そして薬物の過剰摂取による死者の増加だ。

前提として、米・連邦捜査局(FBI)によれば、米国全体の暴力犯罪は2020年をピークに減少傾向ある。人口10万人あたりの暴力犯罪は、2020年が398.5件、2021年は387件、2022年が380.7件だった。2022年の数値は、パンデミック前の2019年とほぼ同じ水準だ。


全米の人口10万人あたりの暴力犯罪発生率(FBI / Department of Jusitce, Public domain

この傾向は、サンフランシスコでも同様に見られる。2023年1月から2023年11月12日まで、サンフランシスコの犯罪総数は4万3,190件で、前年同期の4万6,916件と比べて約 7.9% 減少している。

ただ、トータルで減少していても、特定の犯罪に関しては増加傾向にある。特に増加しているのが、強盗と自動車の盗難だ。強盗は2,392件で前年同期比 13.7% の増加、自動車の盗難は5,890件発生し、7.5% 増加している。

さらに、サンフランシスコで問題視されているのが薬物過剰摂取による死者の増加だ。アメリカでは、本来医療用の鎮痛剤(オピオイド)の過剰摂取が深刻化しており、サンフランシスコでも1990年代から流行している

2010年代からは、オピオイドの一種であるフェンタニルという薬物の過剰摂取が蔓延し、近年さらに悪化の一途を辿っている。市の主任検視官によると、2020年初頭以来、サンフランシスコでは2,600人以上が薬物の過剰摂取で死亡しており、そのほとんどがフェンタニルによるものだった。2023年の死亡者数は10月までで692人に達し、既に前年の数字(647人)を上回っている

米国全体では犯罪が減少しているにもかかわらず、なぜ、サンフランシスコでは治安が悪化しているのだろうか。

なぜ治安が悪化しているのか?

サンフランシスコで治安が悪化している原因については、大きく3つの理由が示唆されている。具体的には(1)プロポジション47の存在、(2)街の空洞化、(3)薬物問題の深刻化だ。

1. プロポジション47の存在

第1に、プロポジション47という法律の存在が、現在のサンフランシスコにおける治安悪化を助長したと言われている。プロポジション47とは、2014年にカリフォルニア州の住民投票によって承認された州法を指す(*1)

同法は、被害額が950ドル(約14万2,500円)以下の場合、万引き、盗難、詐欺、違法薬物の個人使用などは「軽犯罪」に分類されるという内容だ。軽犯罪扱いになれば、注意や罰金処分で終わり刑務所に投獄されることはない。

当初は、それまで問題になっていた刑務所の過密状態を緩和し、浮いたお金を学校プログラムや、薬物乱用対策に充てるビジョンを描いていた

しかし、プロポジション47が予期せぬ結果をもたらしたと指摘される。具体的には、薬物過剰摂取による死亡者の増加や、万引きの急増などだ。中には、盗み出す金額が950ドルを超えないようにするため、万引きの際に電卓を使った泥棒までいたという

ただ、プロポジション47が本当にサンフランシスコでの治安を悪化させたかは定かでなく、専門家の見解も分かれている

(*1)当時、カリフォルニア州の司法長官を務めていた人物は、カマラ・ハリス現副大統領。

分かれる専門家の見解

プロポジション47が犯罪の増加に寄与したかについては、当初から専門家の間で意見が割れていた。

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✍🏻 著者
シニアリサーチャー
早稲田大学政治学研究科修士課程修了。関心領域は、政治哲学・西洋政治思想史・倫理学など。
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