宗教はパンデミック下の世界とどう向き合っているのか?

社会

公開日 2020/09/23 17:49,

更新日 2020/09/23 23:33

有料記事

2020年11月のアメリカ大統領選において、宗教は重要なファクターとなっている。ドナルド・トランプ大統領など共和党保守層の支持基盤として知られる福音派だけでなく、ジョー・バイデン個人のカトリックとして信仰が選挙キャンペーンにおいて強調されるなど、民主党にとってもキリスト教徒へのアピールが重要な意味を持つと見られている。アメリカにおける福音派は、歴史的・神学的・文化的に人種差別的な面があると指摘されるなど、かねてからその保守性が問題視されてきたが、こうした保守性は新型コロナウィルスの感染拡大とも無関係ではない。

アメリカでは、保守的な宗教関係者が新型コロナウィルスの危険性を否定し、教会での集会やイベントを断行するなど、非科学的で強硬な姿勢を崩しておらず、トランプ大統領のコメントによって勇気づけられた者もいたとされている。こうした非科学的かつ宗教的な理由づけで新型コロナウィルスの危険性を否定する宗教関係者はアメリカにとどまらず、イギリスロシアアフリカ諸国などでも、その動向が報じられている。

日本でも知られた事例では、韓国での新天地イエス教会の集会によるクラスター感染がある。同国では新天地イエス教会だけでなく、保守的キリスト教系グループであるサランジェイル教会による政治デモが新たな、そしてより大規模なクラスター感染を引き起こすことが懸念されている。宗教的な集会によるクラスター感染はマレーシアのモスクニューヨークのシナゴーグでも発生している。

上記のような報道では、宗教の政治的な側面や、非科学性などコロナ禍においてはネガティブな側面が目立っている。しかし、宗教にはある信念や世界観を人々に与え、礼拝や集会、結婚や葬儀などを通じて生活とともにある、という側面もある。では、宗教はこのパンデミックの渦中にある世界とどのように向き合っているのだろうか。

各宗教のコロナ対応

そもそも、宗教は現代においてどのような位置を占めているのだろうか。2019年にピューリサーチセンターがおこなった調査によると、生活において宗教が重要な役割をはたすと捉えている人は62%であるが、世界的に見てその重要度や実際のコミットメントにはかなりばらつきがある。特に新興経済圏では、先進経済圏と比べて生活における宗教の重要度が高く、また宗教を道徳的な基盤に置いていることが多い。このため、宗教やその実践を通じた公衆衛生の訴えかけは、特に新興経済圏において非常に大きな効果を発揮しうる。

例えば、東南アジア圏の寺院・教会・モスクでは封鎖や礼拝を禁止する措置が取られた他、オンラインでのライブストリーミングや教義の解釈による代替的な宗教儀礼の実施でパンデミックを乗り切る方法が模索されていた。カトリックの総本山であるバチカンの枢機卿も、科学と宗教の間での対話や協力を訴え、公衆衛生と宗教実践との対立を緩和しようと努めていた。中国では道教寺院などで、寄付金を用いて医療品を購入するといった互助がおこなわれるなど、パンデミックの中でも慈善的な活動が継続されていた。

宗教に基づくコミュニティは、連帯に基づく脆弱性に晒されたメンバーへのサポートや、ローカルレベルでの知識の共有、フランシスコ教皇やダライ・ラマ14世のような宗教的権威による内外への発信力、そしてメンタルヘルスにおける不確実性や不安への対処に大きく寄与する。このように、実践がパンデミックによって制限された中であっても、宗教は人々をサポートする力を有している。

宗教的熱意と科学的公衆衛生との対立

以上のように宗教は、現時点では世俗世界からの回答が出ていない新型コロナウィルスをめぐる問題に対する最初の慰めともなりうる。公衆衛生の観点から見れば、多くの宗教的実践の要である共同集会は、ウイルスの蔓延と闘うために制限されなければならない。にもかかわらず、宗教的な熱意が科学的に無根拠な治療や、神聖な場所や儀礼に人々を導いてしまう可能性が指摘されている。

続きを読む

この続き: 2,304文字 / 画像0枚

この記事の全文を読むためには、メンバーシップ(月額980円または3200円の定期購読)に参加していただくか、単品購入する必要があります。持続可能で良質なメディアをつくるため、下記のリンクよりメンバーシップについてご確認ください。

メンバーシップについて知る

または、記事を単体購入する

著者
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院にて修士号(社会学)取得。現在、同大学院博士後期課程に在籍中。専門は社会調査・ジェンダー研究。Twitter : @keity_lied
おすすめの記事

政治・国際関係

規制か合法か?大麻の論点を辿る(2)賛成派と反対派の主張を追う

有料記事

大麻の合法化や非犯罪化、非刑罰化といった解禁動向は広がりを見せつつあるものの、依然として国際的な足並みは揃っていない。では、具体的な大麻合法化の賛否に関する議論はどのようになされており、論点はどのよう···

社会問題・人権・環境

K-POPの光と闇。世界的な成功の裏に、活動休止や極端な選択が相次ぐ理由

有料記事

韓国の大手芸能事務所JYPエンターテインメントの女性グループNiziU(ニジュー)のミイヒが、体調不良のため休養することが発表された。同事務所のグループTWICEの日本人メンバーであるミナも、2019···

社会

ヴィーガンという食生活はどんな意義を持つのか?

有料記事

ヴィーガンは世界的なトレンドとして、小さいながらも着実に成長を続ける市場である。サステイナビリティ、健康意識、宗教・倫理、食物アレルギーなど、さまざまな動機からヴィーガンとしての食生活を選択する人々が···

社会

リモートワークで生産性が上がるのか?

有料記事

新型コロナウィルスの感染拡大により、出勤による感染リスクを避けるために、企業がリモートワークを導入する動きが広がっている。2020年3月から北米オフィスの全従業員に在宅勤務を要請していたGoogleは···

社会

韓国、衝撃の「n番部屋」事件とは

無料記事

今月17日、韓国で衝撃を呼んでいる「n番の部屋」事件の首謀者として1人の男性が逮捕された。すでに筆者は、本事件について下記YouTube動画を公開しているが、動画では扱えなかった事件の全貌について、現···

政治・国際関係

日本学術会議の任命拒否問題とは何であり、何が問題なのか?

無料記事

今月1日、日本学術会議(学術会議)の新会員について、同会議が推薦した会員候補のうち6名を菅義偉首相が任命しなかったことが、しんぶん赤旗によって報じられた。これに対して、野党から批判が集まった他、Twi···

社会問題・人権・環境

フェミニズムとは何か?:なぜ女性の権利ばかりが主張されるのか

無料記事

わたしたちは、フェミニズムの時代に生きている。フェミニズムを時代性やブームのように捉えることに異論はあるかもしれないが、#MeTooムーブメントや韓国の書籍『82年生まれ、キム・ジヨン』のベストセラー···

政治・国際関係

なぜ米国や日本は、TikTokを禁止しようとしているのか

有料記事

米国で、TikTokなど中国製アプリの締め出しに関する議論が盛り上がる中、日本でも一部自民党議員から同様の声が上がり始めた。28日、自民党の「ルール形成戦略議員連盟」の会合において甘利明会長は「水面下···

政治・国際関係

なぜ日本は核兵器禁止条約に参加しないのか?

有料記事

8月9日は、6日の広島市につづく長崎市への原爆投下の日である。毎年この時期になると話題になるのが、日本の核兵器に関する立場だ。6日に広島市で開かれた平和記念式典であいさつした安部首相は、「唯一の戦争被···