マスターカードは、なぜPornhubを調査するのか?:決済手段・違法コンテンツ・ポルノ産業

公開日 2020年12月10日 09:27,

更新日 2020年12月16日 18:57,

有料記事 / 社会問題・人権・環境

*この記事には、性的暴行に関する記載が含まれています。

2020年12月6日、大手カード会社のマスターカードが、大手ポルノ動画サイトであるPornhubに対して調査を進めていることが報じられた

同年12月5日、マスターカードは法執行機関や全米行方不明・搾取児童センターなどの組織、Pornhubの運営元であるMindGeekの取引銀行と協力して、同プラットフォームの違法行為を調査するとしている。加えて、もし違法行為を発見した場合、効果的なコンプライアンス計画が実施されない限り、MindGeekとの取引終了を求めると発表している。

Pornhubは、人種差別や社会的不正と戦う団体への寄付や、ロックダウン時のプレミアムサービスの無償提供など、さまざまな社会貢献活動でも知られているが、もしクレジットカード会社との取引ができなくなれば、ユーザーからの支払いに影響が生じる可能性がある。 

世界10位のアクセス数を誇るポルノサイトと大手カード会社をめぐる報道は、財界だけでなく政界でも関心の的となっている。著名な投資家であるビル・アックマンが、この問題に関心を示し

「アメックス、VISA、マスターカードは、この問題が解決するまで、直ちに支払いを保留するか、引き出しを行う必要があります。PayPalはすでにそうしています。これが続けば、これらのサイトの所有者は刑事告発されるべきです。」

とコメントしており、またアメリカやカナダの政治家たちが、調査体制の強化や規制法の立案を通じてこの問題に取り組む動きを見せるなど、大手ポルノサイトの決済問題は注目を浴びている。

では、マスターカードが調査するPornhubの問題とは何であり、焦点となっている決済方法はどのような形でこの問題に関わっているのだろうか。

他の決済関連企業も同調

具体的な問題を見ていく前に、まずは他の決済関連企業のPornhubに対する動向を概観しよう。 ウェブ決済を請け負うクレジットカード会社は、インターネット上の「違法行為に対するゼロ・トレランス(許容度ゼロ)」を表明しており、マスターカード以外の企業も、今回の動向に同調している。

例えばアメリカン・エクスプレスは、アダルトサイトでのカード使用を禁止するポリシーを理由に、Pornhubについてもカード使用を禁止している。またVISAもマスターカード同様に調査をおこなっており、サイトが適用法または金融機関の利用規定と引受基準に準拠していないと特定された場合には、決済できないようにするとしている。

クレジットカード会社に先駆けて決済サービスを利用停止したのが、PayPalである。2019年、同社は「特定の性的指向のマテリアルまたはサービス」という利用規定への違反を理由に、Pornhubでのサービスを停止した。

Pornhubがポルノサイトである以上、性的コンテンツを取り扱うのは言うまでもないが、問題は何が「特定の性的指向のマテリアルまたはサービス」かである。

きっかけとなったコラム

マスターカードが問題視しているのは、児童ポルノや同意のない性交渉、差別的・暴力的なコンテンツなど、違法性の高いポルノのアップロードである。

マスターカードの調査のきっかけとなったのは、ニューヨークタイムズ紙に掲載されたコラムである。このコラムの筆者は、天安門事件やダルフール紛争に関する報道でピューリッツァー賞を受賞したこともある、ニコラス・クリストフだ。以下では、このコラムの要点から問題を整理することとしたい。

クリストフによると、Pornhubのプラットフォームとしての性質が、子どもや同意のない性交渉といった暴力を助長している。Pornhubには毎年680万本の動画が投稿されているが、これらの動画の性質や出演者の年齢・合意などをプラットフォーム側も明確に把握はしていない。くわえて、動画をWebサイトから直接ダウンロードできるため、当局の要請で違法動画を削除しても、共有や再アップロードが可能な状態となってしまう。こうした性質から、子どものレイプ、リベンジポルノ、シャワーを浴びている女性の盗撮動画、人種差別主義者やミソジニー主義者のコンテンツ、ビニール袋で窒息死している女性の映像が流通し続け、Pornhubはそれを収益化することとなっている。

ビル・アックマンが自身のTwitter

「頭の中で被害者を娘や息子に置き換えてみてください。参加者の年齢や同意確認、監視者による審査を経ていないコンテンツに対する、ポルノサイトの投稿許可を違法にすることで、この問題を解決できるのではないでしょうか。」

と述べていることからも、この問題の争点は児童ポルノや同意のないポルノといった違法コンテンツのアップロードと、プラットフォーマーの取り締まりの甘さにある。こうした主張に対し、Pornhubの運営元のMindGeek社側は、プラットフォーム上での児童性的虐待マテリアル(CSAM)を容認してはおらず、CSAM規制のポリシーを定めていると、上記の主張を否定している。

しかしクリストフの取材によると、Mindgeekで働いているモデレーターは世界中に約80人しかおらず、年間約136万時間もの新コンテンツがアップロードされる中での作業量は膨大であり、かつモデレーターをして「魂を破壊する」と言わしめる業務内容である。MindGeekは民事・刑事訴訟を警戒して対応を迅速化しているものの、違法コンテンツは流通し続けており、クリストフが取材したような被害者たちは依然として苦しんでいる。

ポルノコンテンツ自体の広がりを止めることも困難となっている。2019年、アメリカで22名の女性が、制作会社Girls Do Pornによって虚偽の条件でポルノに出演させられた事件の訴訟が起こり、Pornhubにアップロードされた動画の削除やチャンネルの閉鎖がおこなわれた。しかし、すでに拡散した動画のアップロードは依然として続いており、Pornhub側も削除対象の特定などが技術的な対応ができていない。また、ディープフェイクポルノのように、コンテンツを法的に規制できていないケースもあらわれつつある。

これらの問題は、Pornhubだけの問題ではない。クリストフはPornhubやXVideosのようなポルノサイトだけでなく、Twitter、Reddit、Facebookなどの一般向けサービスにも違法性のある性的コンテンツやアカウントが表示されるとしている。また彼は、Googleの検索システムがこうした違法な性的コンテンツの視聴で収益を得るビジネスモデルを助長していると指摘する。

こうした状況をふまえて、クリストフは事態の解決策として、規制の厳格化と検索エンジン、銀行、またはクレジットカード会社の取引停止といった制裁を課すことで、ポルノサイト側の自主規制を強化するよう促している。そして、具体的な自主規制強化策として、確認済みユーザーのみの投稿許可、ダウンロードの禁止、そしてモデレーターの増員を提案している。

ビル・アックマンのツイートも、ニコラス・クリストフのコラムも、ポルノ産業自体を問題視しているわけではない。問題は違法コンテンツへの対応の甘さとそれによる被害であり、こうした状況を改善できていない企業の収益化を助長している点で、決済手段を提供するクレジットカード会社も批判されたわけである。

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著者
法政大学ほか非常勤講師
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院修士課程にて修士号、同大学院博士後期課程で博士号(社会学)を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。
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