⏩ 市場が警戒する背景には、AI への懸念、法治の武器化、財政優位による中央銀行の手詰まりなど
⏩ AI 関連銘柄やゴールド、暗号資産の急落に市場は警戒
⏩ 求められる投資戦略は?
著名投資ファンド Bridgewater Associates(ブリッジウォーター・アソシエイツ)創業者であるレイ・ダリオの発言に注目が集まっている。ダリオは、10年以上前から「ビッグサイクル」を提唱してきたが、足元の事象が同サイクルを示唆していると警鐘を鳴らしている。
金・銀、そしてビットコイン価格の急落、Microsoft の株価下落などから市場の先行きに懸念が生じてる中、なぜダリオの発言が話題となっているのだろうか。
ダリオの危惧
ダリオは27日、長文記事を公開して現在の米国が置かれている状況について危惧を示した。
ダリオは著書『How Countries Go Broke: The Big Cycle (Principles)』(邦題『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』)において、ビッグサイクルという概念を提唱した。
ビッグサイクルとは、
1)生活水準を大幅に向上させる創造性と生産性に富む平和な繁栄の時期、
2)富と権力を巡る争いが多発し、富、生活その他大切なものが破壊される不況、革命、戦争の時期
との間を行ったり来たりする
こと(ダリオ、P.10)を意味して、およそ80年周期で生じるという。同サイクルを念頭に置くと、現在の米国は崩壊前夜にあると位置づけられる。
本書の読者にとっては、私たちがビッグサイクルの第5段階(既存秩序の崩壊前)から第6段階(既存秩序の崩壊)に移行しようとしていることが今や明らかになっているはずです。
ダリオは、以下の「典型的な有害な組み合わせ」が、国家内部の闘争をもたらすと考える。
- その国や国民(または州や都市)が劣悪な財務状態にあること。
- その内部に、大きな所得、富、そして価値観の格差が存在すること。
- 深刻なマイナスの経済ショックが発生すること。
そして、第5段階(既存秩序の崩壊前)の深い位置にいる国家では、ポピュリズムと二極化(分断)、階級闘争、法制度や警察組織の武器化などが生じると言い、米国の現状がまさにそこにあると考える。
米国では現在、ICE(合衆国移民・関税執行局)をめぐって生じている連邦政府と州・地方政府の対立激化が生じている。中西部にあるミネソタ州ミネアポリスで、抗議中の市民が ICE の捜査官によって相次いで射殺され、抗議の声が拡がっている状況だ。
ダリオは、米国が「今、火薬庫と化している」と結んでいるが、米国で生じている状況を「内戦とも言うべき事態」と呼ぶ声は少なくない。
加えて米国が直面している問題は、ICE ばかりではない。ダリオは、米国における債務増大と、それに対抗するための金利操作がもはや限界に達していると考える。債務の利払いが税収を圧迫し、それを賄うためにさらに通貨を発行する「国債のマネタイゼーション(Debt Monetization)」が進むことで、ドルの価値だけでなく、ドルにペッグ、あるいはドルを準備資産とする全ての法定通貨システムが連鎖的に崩壊するという論理だ。
いま起こっている変化は「米ドルの価値の終焉か」とダボス会議で尋ねられたダリオは、「既存の通貨システムそのものの終焉だ」と答えた。
債務の問題や法制度や警察組織の武器化、そして階級闘争などが重なっている状況は、まさにビッグサイクルにおける第6段階(既存秩序の崩壊)を意味している、というわけだ。言うまでもなく、世界の超大国である米国の既存秩序が崩壊するのであれば、日本を含めた他国への影響は甚大なものとなる。
反論
ダリオの議論自体には、多くの反論が寄せられている。たとえば、アメリカンエンタープライズ研究所のトゥンク・バラダラジャンは「歴史の避けられない『サイクル』を信じる彼の考えには、ある種の宿命論が含まれているように思えてならない」とする。
ビッグサイクルの概念が、社会科学の方法論に則ったものでも、学術的な厳密性の観点から検証されたものではないことは明らかだ。それは、平凡な決定論の焼き直しのように思えるかもしれない。
また米国の優位性を支えてきた同盟や機関が衰退したとしても、流動性の高さや代替通貨の不在、米国債の存在などによって、ドルは依然として特権的な地位に留まると考える専門家は多い。21世紀以降、国際準備金に占めるドルのシェアが低下してきたこと事実だが、それが直ちにドルの優位性の低下に繋がったわけではない。
その意味で、ダリオが極端なシナリオにもとづいて議論を展開してることは間違いない。にもかかわらず、いくつかの視点でその議論は真剣に受け止められている。
石田健(イシケン)