なぜ米国はベネズエラを攻撃し、それは批判されているのか = 台湾有事にも影響するのか

公開日 2026年01月05日 12:13,

更新日 2026年01月05日 12:16,

有料記事 / アメリカ(北米) / 国際

この記事のまとめ
💡 米国がベネズエラを攻撃、マドゥロ大統領は拘束

⏩ 麻薬対策や石油利権、不十分な説明?
⏩ 注目すべきは、「裏庭」と西半球の優位性を守る新モンロー主義、麻薬・移民問題・反共産主義・石油利権が重なるベネズエラ
⏩ 力による現状変更が正当化され、台湾侵攻に近づく?

米国は3日未明、南米・ベネズエラを攻撃して、同国のニコラス・マドゥロ大統領を拘束した。その後おこなわれたドナルド・トランプ米大統領による記者会見では、少なくとも一時的に「米国政府がベネズエラを統治」することも明らかにされた。

またトランプ大統領は、自身のSNSでマドゥロ大統領を国外移送したことを明らかにして、移送中と見られる写真も公開している。

移送中のマドゥロ大統領
移送中のマドゥロ大統領(Donald Trump

ベネズエラへの武力行使は、国際的な議論を呼んでいる。

たとえば国連・グテーレス事務総長は、「危険な前例となる」とした上で、「国連憲章を含む国際法をすべての人が全面的に尊重することの重要性を引き続き強調する」とした。また中国・外務省は「米国による主権国家への露骨な武力行使と大統領への行動に深い衝撃を受け、強く非難する」とする声明を発表した。

EUのカヤ・カッラス欧州委員会副委員長は、マドゥロ大統領には「正統性がない」としつつも、平和的な政権移行を支持すると述べて、「いかなる状況下でも、国際法の原則と国連憲章が尊重されなければならない」と明らかにした。

米国の軍事行動が、ロシアや中国など権威主義国家の論理を正当化する危険も指摘されている。上智大学の植木安弘名誉教授は、次のように述べる

このような「勢力圏」内における一方的軍事力行使が正当化された場合、中国の台湾武力統一やロシアのウクライナ軍事攻勢を勢いづかせることが懸念される。

すでにロシア側からは、米国のダブルスタンダード(二重基準)を批判する動きも見られている。

ベネズエラ危機の複雑性

一方で、今回の事態を「トランプ政権の暴挙」としてのみ片付けられない複雑性も存在する。

前述のカッラス副委員長が述べるように、マドゥロ政権には長らく国際的な非難が向けられてきた。そのため各国は、ベネズエラが抱える政治・経済的な危機に言及しつつ、米国の武力行使に懸念を表明している状況だ

たとえば、チリのガブリエル・ボリッチ・フォント大統領は米国による武力行使への「懸念と非難を表明」しつつも、「ベネズエラ危機は、暴力や外国の干渉を通じてではなく、対話と多国間主義の支援を通じて解決されるべきだ」と述べた。また英国のキール・スターマー首相のように、米国の武力行使への賛否や国際法違反について明言を避けるリーダーも見られる。

なぜアメリカはベネズエラを攻撃し、それはどのような問題点を孕んでいるのだろうか?

攻撃の理由

米国によるベネズエラ攻撃を理解するためには、近年の両国関係を押さえておく必要がある。

麻薬対策

トランプ政権は近年、ベネズエラへの圧力を強めてきた。その大義名分として掲げられてきたのは、麻薬対策だ

トランプ大統領は就任以来、米国内の若者に甚大な被害をもたらしている麻薬流入への対処を訴えてきたが、中でもマドゥロ大統領について、組織的な麻薬取引の背景にいると名指ししてきた。

最初の任期であった2020年には、マドゥロ大統領を麻薬テロとコカイン密売の共謀罪で起訴していたが、今年7月には「ベネズエラを拠点とする犯罪組織」を「国際テロ組織」に認定し、同大統領をその指導者であると宣言した。

昨年9月には、麻薬密輸の阻止を理由としてベネズエラ近海での船舶攻撃を開始、本格的な武力行使にも踏み切った。船舶への攻撃は昨年末にかけて繰り返され、年末までに少なくとも115人が死亡したとされる。

今回のベネズエラ攻撃および大統領の拘束は、トランプ政権による一連の麻薬対策の集大成とも言える。

ただし専門家やベネズエラの野党関係者などは、マドゥロ大統領が麻薬組織の直接的な指導者であるという主張に否定的だ。ベネズエラの軍関係者が麻薬取引に関与していることは事実だが、マドゥロ大統領を「テロ組織」のトップと名指しすることは難しい

米国によって「国際テロ組織」と名指しされるカルテル・デ・ロス・ソレス(*1)とは、麻薬密売を含む様々な犯罪行為に関与するベネズエラ軍将校と政権関係者の緩やかなネットワークを指す。そのため「組織」と呼ぶのはミスリードだと指摘され、軍事行動の正当化に用いられることにも疑義が呈されている。

加えてベネズエラは、米国で最も悪名高い薬物のフェンタニルとはほとんど関係がない。コカインの中継拠点となっていることは事実だが、それらが米国の流通量の多くを占めるわけでもない。

つまり、武力行使の背景を麻薬対策だけに求めるのは不十分な説明だと言える。

(*1)「ソレス」とは将軍の制服に描かれた星を指す。

大統領としての正統性

マドゥロ政権を理解する上で、もう1つ抑えておきたい論点が大統領の正統性だ。

米国に限らず多くの西側諸国は、2024年におこなわれたベネズエラでの選挙で不正が蔓延したことを理由として、マドゥロ政権の正統性を否定している。トランプ政権は、マドゥロ大統領を「非合法の独裁者」であると位置づけ、今回の作戦についても、国家に対する「武力行使」ではなく「法執行活動」だと主張することで、武力行使を正当化している。

たとえ「法執行活動」であっても、ベネズエラ政府の同意なく法執行作戦を実施することは、同国の主権侵害にあたる可能性が高い。それでもトランプ政権にとって、マドゥロ政権の正統性が重要な論点として位置づけられていることは間違いなさそうだ。

そして、ベネズエラの選挙結果が疑わしいことは事実だが、それは「不正選挙の仕組みが、2020年にトランプ大統領が敗北した米・大統領選挙とも結びついている」という根拠のない陰謀論にも繋がっており、事態を複雑化させている。2025年にノーベル平和賞を受賞した野党指導者のマリア・コリナ・マチャド氏も、マドゥロ大統領がアメリカの不正選挙に加担しているという誤った主張を展開してきた。

トランプ大統領は、昨年秋からマドゥロ政権の転覆も示唆してきたが、体制転換の論拠として政権の正当性を持ち出すレトリックは、ロシアによるウクライナ侵攻や米国による過去の介入でも度々持ち出されてきた。マドゥロ政権に問題があることは間違いないが、それらの論理が直ちに体制転換を正当化するものではないことには注意する必要がある。

歴史的対立

ただし米国とベネズエラの対立は、トランプ政権に限ったものではない。

ベネズエラは、1999年に権力を握ったウゴ・チャベスの時代から米国への敵対姿勢を見せてきた。特に、チャベス政権が石油資源を国有化して、欧米の石油企業を排除して以降、米国との対立は決定的となった。

2013年にチャベス大統領が亡くなったことで後を継いだマドゥロ政権は、ハイパーインフレと大量失業、経済破綻による極度の貧困などを引き起こして、国内外から批判を集めてきた。米国によるベネズエラへの制裁措置はブッシュ政権からオバマ、バイデン両政権まで続いており、政権ごとに制裁の論理や重点は異なるものの、両国が一貫して対立傾向にあったことが伺える。

そして2017年、トランプ大統領はベネズエラに対して「多くの選択肢があり、必要であれば軍事行動も選択肢の1つだ」と警告した。2019年に、選挙の混乱によって野党指導者のグアイド国会議長が「暫定大統領」への就任を宣言した際も、欧米諸国はグアイド側を承認した。

現在ベネズエラは、南米最大の難民危機を抱えた国となっており、790万人以上が経済的な事情などから避難を余儀なくされている。その理由について、アジア経済研究所の坂口安紀主任研究員は次のように述べる。

(略)大統領とその周辺の政治エリートに権力が集中するチャベス、マドゥロ両政権期の政治のあり方が民主主義を溶解させたこと、そして意志決定が一元化し、大統領の周辺に苦言を呈したり多様な意見を進言する者がいなくなるなか、不適切な経済政策が積み重なってマクロ経済を不安定化させたこと、生産活動のインセンティブを削ぐような経済政策を行い、国内生産が縮小したこと、それらの結果、経済破綻に至った、ということである。(*)

米国との歴史的な対立、チャベス・マドゥロ両政権が抱えてきた問題が、今回の武力行使の大きな背景にあることも押さえておく必要がある。

(*)坂口安紀『ベネズエラ―溶解する民主主義、破綻する経済』 中公選書、2021年、p. 294、Kindle Edition.

石油利権

以上のような麻薬対策と歴史的な対米関係に加えて、大きな焦点となっているのが、世界最大の石油埋蔵国であるベネズエラの石油資源だ。

今回の武力行使について、「背景には世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラの石油利権がある」と報じられたように、トランプ政権が石油資源を重視していたと見る向きは多い。

実際、トランプ大統領は記者会見で、米・石油企業が「数十億ドル」を投じて「壊れたインフラ」を修復し、「同国のために利益を上げるだろう」と述べている。同大統領はこれまでも、ベネズエラが石油の埋蔵量を掌握することで、米国の富と財産を盗んでいると繰り返し主張してきた。反対にマドゥロ大統領も、米国がベネズエラを敵対視する背景には、石油利権があると批判してきた。

The New York Times 紙は、ベネズエラ政策に深く関与してきたマルコ・ルビオ国務長官とピート・ヘグゼス国防長官、スティーブン・ミラー大統領顧問が、同国の石油資源に関心を持っていることを報じている。2016年、イラクから「石油を奪う」べきだと述べたトランプ大統領が、対外政策で類似したアプローチを考えたことは自然に思えるかもしれない。

ただし重要なポイントは、同国の石油資源開発には膨大なコストがかかり、エネルギーとして石油の重要性が相対的に低下している中、石油利権のために武力行使に踏み切ることは合理性が低いという事実だ。

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✍🏻 著者
編集長
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
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