規制か合法か?大麻の論点を辿る(5)大麻の薬効と薬害

公開日 2020/12/30 18:31,

更新日 2020/12/30 18:42

有料記事 / 社会問題・人権・環境

大麻の規制や合法化を考える上で、経済効果や犯罪抑止と並んで重要になるのが、大麻そのものが持つ効能である。日本をはじめ世界各国において、大麻は薬物として法規制の対象とされて、その効能が問題視されているが、一方で価値を見い出されている側面もある。

これまで、商業・娯楽的な大麻利用の例を紹介してきたが、薬物の効能や法規制上の区分から重要なのは、医療における大麻の扱いである。例えば、2020年に大麻合法化の国民投票をおこなったニュージーランドでは結果的に否決されたものの、同国の医師会は投票に先立って、反対から中立へ組織のスタンスを変更している。また、娯楽目的の大麻を禁止していても医療目的では合法化している国があるように、その効能は医療面で注目を集めている。

一方で、「大麻が依存性の高い商品であり、タバコ業界やアルコール業界のように政治・経済的な影響力を持ちうる」という産業構造上の懸念があるように、依存性をどのように扱うかも、薬物としての大麻をめぐる論点となっている。

では、薬物としての大麻にはどのような薬効/薬害があり、どのような検討がなされているのか。ここでは医療・化学分野での研究動向を参照しながら見ていくことにしたい。

大麻の薬効

そもそも、大麻が持つ効果はどのような成分からくるのだろうか。

治療薬としての大麻は、利用の歴史は紀元前まで遡るにもかかわらず、研究の歴史は19世紀にようやく始まった。現代に続く科学的な薬効の探求が本格化したのは、1963年のヘブライ大学のラファエル・メコーラムの研究以降であり、その歴史はまだまだ浅い。

大麻に含まれる化学物質はカンナビノイドと呼ばれ、これまでに少なくとも100以上もの成分が大麻草特有のものとして分離され、研究されてきた。

このうち、特に有名かつ実用化が進んでいる成分が、1940年代に発見されたCBD(カンナビジオール)と1960年代に発見されたTHC(テトラヒドロカンナビノール)である。日本では大麻草の成熟した茎または種子以外の部位から抽出・製造された場合、どちらも「大麻」として取締の対象とされているが、化学的に合成されたCBDは法的に認可されている。

両者は構造が非常によく似ており、化学式も同一だが、原子配置が違うことから効果が異なっている。特に大きな違いとして、THCが精神活性作用、いわゆる「ハイ」になる作用があるのに対し、CBDはリラックス作用があるとされている。いわゆる大麻としてそのまま摂取する際、カンナビノイド同士は相互に影響し合うとされているが、この2つの成分については、THCの精神活性作用をCBDが抑える、といった関係にある。

では、これらの成分は具体的にどのような薬効を持つのだろうか。

鎮痛作用

大麻が持つ医療効果として、もっともポピュラーなのが鎮痛作用である。神経障害による鎮痛効果や炎症の緩和、多発性硬化症に伴う筋肉のけいれんの改善、化学療法による悪心や嘔吐の予防や治療に対しては、さまざまな研究でその効果が認められている

こうした鎮痛作用の恩恵は人間だけのものではない。変形性関節症の犬に対してCBDオイルを使うことで、痛みが緩和され、より活動的になるという研究結果も報告されており、獣医学においてもその利用可能性が見られている。

オピオイドとの関係

医療用大麻は、同じ鎮痛薬であるオピオイドの代替薬として、法的認可が期待されている

オピオイドは、鎮痛効果のある医療用麻薬としてアメリカで普及してきた。しかし、過剰摂取による中毒死の多さから、販売促進を提案してきたマッキンゼーが製薬会社にリベートをアドバイスするなど、かねてからその中毒性が問題視されてきた。こうした危険性のあるオピオイドに対し、同じ効能を持つ大麻が取って代わるのではないか、と期待されているわけである。

しかし、医療用大麻は必ずしも問題を解決するわけではないようだ。2014年の全米を対象とした研究では、医療用大麻を認めた州では認めない州と比べて、オピオイド鎮痛薬の過剰摂取による死亡率の増加が遅いとされていた。ところが、同じく全米を対象とした2019年の研究では、2017年以降に傾向が逆転し、医療用大麻を認可した州の方が、オピオイド過剰摂取による死亡率が高くなっていた

この結果に対して米国立薬物乱用研究所(NIDA)は、娯楽用大麻の解禁やTHC濃度の制限といった法的要因の検討がなされていないことを指摘している。また両研究はいずれも、医療用大麻の法的認可とオピオイド過剰摂取による死亡率との因果関係を証明していないため、そもそも「両者が関係を持っている」という仮説自体に検討が必要なのだ。

発作軽減

またCBDは、小児てんかんで稀に起こるレノックス・ガストー症候群およびドラベ症候群といった、珍しい病気の発作軽減に有効だと証明されている。

発作軽減という点では、他の薬物への中毒症状や精神病への効能も提起されている。例えば、ヘロイン使用歴のある患者の、渇望のような禁断症状の軽減にCBDが効果をもたらしたという研究結果が報告されている。また、不安障害PTSDへの効果も期待されている。

ただし、2020年のレビュー論文では、現時点では精神障害や精神病を改善するエビデンスはほとんどないとされており、効果の実証には今後の研究が待たれている。

食欲増進

「マンチ(Munchies)」と呼ばれる大麻による食欲増進効果を利用して、食欲不振や体重減少による諸症状を改善しようとする動きもある。THCやCBDといったカンナビノイドにはHIV/AIDSやガン、摂食障害、うつ病などによる消耗性症候群の患者の食欲増進を促す効果が期待されており、実際にTHC系の錠剤が米国食品医薬品局(FDA)に承認されている。

カンナビノールについて

以上のような効能からCBDとTHCが注目を集める中、カンナビノール(CBN)という成分も、その薬効の研究が進められている。CBDやTHCと比べてマイナーなCBNだが、実は1899年、イギリスの化学者によって最初に同定されたカンナビノイドである。

マイナーではあるものの、カンナビノールの効能は多岐にわたっている。例えば、他のいくつかのカンナビノイドと並んで抗菌効果が検証されており、抗生物質に耐性のある黄色ブドウ球菌などへの効果が見込まれている。また、ラットを用いた実験では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症を遅らせる効果や食欲刺激効果が確認された。CBNには酩酊効果がないため、使用時に「ハイになる」THCを代替可能な成分として期待されている。このほか、ウサギを用いた研究でCBN及びTHCに眼圧を下げる効果が認められており、緑内障などの治療に応用される可能性もある。

しかし、大麻の成分は必ずしも良い事ばかりをもたらすものではない。そもそも、確実な薬効として科学的に認められているのは慢性疼痛、化学療法誘発性の悪心および嘔吐、および多発性硬化症(ALS)に関連する複数の症状に限られている

研究の歴史が短いことも相まって、これまで挙げてきた例のように、効能の有無からして研究途上のものがほとんどである。このように薬効が不確かな側面も多い大麻だが、逆に大麻がもたらす薬害についてはどうだろうか。

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早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院にて修士号(社会学)取得。現在、同大学院博士後期課程に在籍中。専門は社会調査・ジェンダー研究。Twitter : @keity_lied
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