規制か合法か?大麻の論点を辿る(2)賛成派と反対派の主張を追う

公開日 2020年10月28日 17:31,

更新日 2020年10月28日 17:56,

有料記事 / 政治・国際関係

大麻の合法化や非犯罪化、非刑罰化といった解禁動向は広がりを見せつつあるものの、依然として国際的な足並みは揃っていない。では、具体的な大麻合法化の賛否に関する議論はどのようになされており、論点はどのようなところにあるのだろうか。

今回の記事では、大麻合法化賛成派・反対派の主張をそれぞれ概観し、賛否を決める上で問題となっている論点を析出する。

なお、今回見出されたそれぞれの論点の具体的な検証については、次回以降で順次おこなっていくこととしたい。

国連および英語圏での議論

国連では、第1回でも紹介した国際条約の枠組みは守りつつも、薬物規制への対応を改革する動きが見られる。2016年3月、国連総会の麻薬に関する特別セッション(UNGASS)が開催され、結果文書が公表された。この文書自体は、1961年の「麻薬に関する単一条約」1971年の「向精神薬に関する条約」1988年の「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」といった国際条約に変更を迫る内容ではない。

しかし、「非犯罪化、合法化、およびハームリダクションの柔軟性向上」「麻薬犯罪に対する死刑廃止」「医療目的での薬物アクセスの改善」といった趣旨の改革方針が示された。

ここでいうハームリダクションとは、個人の人権の擁護と社会正義を目的として、健康被害や危険をもたらす行動習慣(合法・違法を問わない)にともなう害や危険をできるかぎり少なくするための、公衆衛生上の実践、方略、指針、政策を指している

英語圏での議論:アメリカ・ニュージーランド・カナダ

次に、国内での合法化状況にばらつきのあるアメリカ、現在は非合法だが合法化への国民投票がおこわれたニュージーランド、そしてすでに全面的な合法化がなされているカナダでの議論について、それぞれ見ていくこととしたい。

アメリカでは、第1回でも触れた通り、11州が完全合法化しており、今後さらに合法化を進める州が増えると見られているが、連邦法と州法のねじれが存在している。

合法化の支持者は、米国中の数十万人の逮捕者とその背後にある人種格差、違法マリファナの闇市場から麻薬カルテルに流れる数十億ドル規模の経済的損失、世界中での厳罰主義的で暴力的な規制作戦のための資金といった、マリファナ禁止による害を排除すると主張している。こうした害を取り除くことで、合法化に伴う可能性のある大麻使用の増加などの潜在的な欠点を上回ると見なされているのである。

一方、反対派は、健康への悪影響が指摘されている大麻が合法化されれば、巨大なマリファナ産業によって社会的責任を負わないままに販売される可能性があると主張している。彼らは特に、依存性の高い商品により産業を拡大し、依存症などに伴う健康被害や犯罪によって公衆衛生や治安上の課題を生み出した、アルコール産業およびタバコ産業が社会にもたらした経験を指摘している。また、タバコ産業が現在もおこなっているように、経済力とそれに基づくコネクションでロビイングや政治的介入を図る事態も起こりうる

10月17日に総選挙と共に、大麻合法化に関する国民投票がおこなわれたニュージーランドでも賛否は分かれている。
賛成派はギャングからの違法な供給を排除し、その品質と安全性を規制し、20歳未満の人々へのアクセスをブロックすることで、大麻による害を減らすことができると主張している。

これに対して反対派は、大麻は特に青年の間で精神的健康を害する深刻な薬物であり、それを合法化することは「大麻が問題のないものだ」というメッセージを子どもたちに伝えてしまう反論している。

実際、ニュージーランドの世論は、アーダーン首相を含め数多くの人々が大麻を経験しているにもかかわらず、必ずしも合法化を支持しているわけではない。また、国民投票が総選挙と同時に実施されたことで、実際の法制化は次期政権に委ねられるにもかかわらず、大麻合法化が総選挙の争点の一つとなってしまっている。この結果、総選挙での勝利を優先して保守層の取り込みのために各党の姿勢が保守化し、国民投票の政治的な意思決定の結果が歪められてしまうリスクも指摘されている。

すでに大麻が合法化されているカナダについても、合法市場を形成するための生産・小売規制は概ね成功と評価されているものの、先住民コミュニティとの関係など社会的公平性の問題や、過去の犯罪歴の取り扱い、合法市場へのアクセス拡大と違法市場の取締り、産業の活性化に課題があるとされている。

ここまで国連と英語圏3カ国の議論を概観した。以下では賛成派と反対派それぞれの論点にフォーカスして検討することとしたい。

賛成派の主張

大麻合法化賛成派は、既存の刑事司法的な不平等の改善や、麻薬カルテルなどの資金源を断つことによる組織犯罪の抑止、新規産業および税収による経済的メリットを主張している。

犯罪抑止(不均衡な刑事司法的リスクの軽減)

大麻に関わる逮捕・有罪リスクは、マイノリティに対する刑事司法上の不均衡の大きいことがかねてから指摘されてきた。アメリカでは、黒人は白人と比べて、大麻を含めた薬物犯罪による逮捕・有罪リスクがはるかに高い。近年のBlack Lives Matterで訴えられている警察による不当な扱いや犯罪歴・懲役による社会的不利益の一端として、こうした刑事司法場の問題が存在している。

続きを読む

この続き: 3,928文字 / 画像0枚

この記事を読むためには、月額980円のメンバーシップに参加するか単体購入が必要です。10日間の無料トライアルで、いますぐ読むことができます。

いますぐ無料トライアル

メンバーシップに関するご質問、決済や支払い方法などについては、「よくある質問」をご覧ください。

著者
法政大学ほか非常勤講師
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院修士課程にて修士号、同大学院博士後期課程で博士号(社会学)を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。
最新情報を受け取る

ニュースレターやTwitterをチェックして、最新の記事やニュースを受け取ってください。

おすすめの記事