Biohazard sign in Chernobyl, Ukraine(Johannes Daleng, Unsplash) , Illustration by The HEADLINE

なぜ処理水の海洋放出に反対する声があるのか?汚染水との違い、トリチウム以外の問題も

公開日 2021年04月15日 21:37,

更新日 2023年09月19日 18:13,

有料記事 / 社会

2021年4月13日、日本政府は東京電力福島第一原発で保管されている処理水について、海に放出して処分する方針を発表した。今後、準備作業を進めて、2年後をめどに海洋放出を開始する予定だとしている。

しかし、全国漁業共同組合連合会は政府の方針に対して「極めて遺憾」と声明を発表し、断固反対の意思を表明している。また日本政府の方針に対して、韓国や中国、台湾政府などは懸念を示す一方で、米国やIAEAなどは賛同を表明しており、各国の反応は別れている。

そもそも処理水とは何であり、汚染水とは違うのだろうか?また世界中にある原子力発電所から放出される処理水は、どのように処分されているのだろうか?

処理水とはなにか?汚染水との違いは?

処理水とは、どのようなものなのだろうか。そもそも処理水に関する用語も統一されていない。たとえばNHKは当初、「Radioactive water(放射線水)」という表現を使っていたが、「水が処理されずそのまま放出されるような誤解」を与えるとして、「treated water(処理水)」という表現に差し替えた。


NHK公式サイト(スクリーンショット)

国外メディアについては、中国共産党傘下の英字新聞China Daily紙や韓国のハンギョレ紙も「contaminated water」や「오염수」として「汚染水」に該当する表現を使っている。またThe New York Times紙は、写真のキャプションで「Radioactive water(放射線水)」を使っていたものの、それ以外は「wastewater(廃水)」などの表現を使っている。

国内メディアの表記は、東京新聞が「汚染処理水」、NHK毎日新聞読売新聞は「処理水」、日本経済新聞は「原発処理水」となっている。また朝日新聞は使い分けについて、以下のように説明する。

朝日新聞は記事で、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)に触れた冷却水が地下水などと混ざった高濃度の水を「汚染水」、多核種除去設備(ALPS)で処理した後の、そのまま海には放出できない水を「処理済み汚染水」として区別してきた。

タンクに保管されているのはこの水で、放出基準の1万倍を超える放射性物質を含んだ水も含む。今回、海洋放出する方針が決まったのは、タンクに入っている処理済み汚染水を再びALPSで処理し、セシウムやストロンチウムなどの放射性物質の濃度を法令の基準より十分低くした「処理水」だ。

このように汚染水と処理水ついて、呼び名が厳密に定義されているわけではない。ただし、それらは大きく3つに区別され、それぞれを定義することは可能だ。

汚染水

まず汚染水とは、高濃度の放射性物質を含んだ水であり、どのような処理もされていない状態を指す。

東京電力福島第一原発では、毎日およそ140トンもの汚染水が発生している。

原発事故から10年が経過したものの、未だに原発1-3号機の原子炉内には、事故によって溶けて固まった燃料(燃料デブリ)が残っている。燃料デブリは水をかけ続けることで冷却された状態を維持しているが、この水が燃料デブリに触れることで、高濃度の放射性物質を含むことで汚染水となる。

この高濃度の放射性物質を含んだ汚染水は、原子炉建屋内などに滞留しており、建屋内等に流れ込んだ地下水や雨水と混ざることによっても汚染水が発生する。

処理水(処理済み汚染水)

汚染水は、そのまま海中や大気中に放出してしまうと汚染されてしまうため、多核種除去設備(ALPS)と呼ばれる装置によって、トリチウム以外の放射性物質が取り除かれる。一般的にこの状態を処理水と呼ぶが、前述した朝日新聞の指摘通り、ALPSによって処理された汚染水にも2つのパターンがある。

1つは、ALPSで処理したものの、トリチウム以外にも規制基準値以上の放射性物質が残っている水だ。朝日新聞はこれを「処理済み汚染水」と呼んでいるが、経済産業省はもともとこれを「ALPS処理水」と呼んでいた。しかし「規制基準値を超える放射性物質を含む水、あるいは汚染水を環境中に放出するとの誤解」が生じることから、これを「ALPS処理水」と呼称することを止めた。

本記事では、これを処理水(処理済み汚染水)と呼んでいく。現在、福島第一原発には処理水をためるタンクが約1000基あるが、そこで保管されている水の約7割は処理水(処理済み汚染水)にあたる。

ALPS処理水

もう1つが、今回新たに経済産業省によって「ALPS処理水」と定義され、朝日新聞が処理水と呼ぶものだ。これは処理水(処理済み汚染水)を再びALPSによって処理することで、放射性物質の濃度を法令基準以下にしたものだ。経済産業省によれば「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」と定義されている。

今回、「汚染処理水」や「Radioactive water(放射線水)」などと報じられ、2年後の放出が決まった処理水は、いずれもこのALPS処理水のことを指す。

ここまでの話をまとめると、汚染水と処理水は以下のように区分できる。

  • 汚染水:福島第一原発の建屋内の放射性物質に触れた地下水や雨水、燃料デブリを冷却した後に建屋に滞留した水。高濃度の放射性物質を含んでおり、いかなる処理もされていない。
  • 処理水(処理済み汚染水):汚染水をALPSなどによって処理したものの、規制基準値を超える放射性物質を含む水。
  • ALPS処理水:処理水(処理済み汚染水)を再度ALPSによって処理した水。今回、2年後の放出が決定。

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✍🏻 著者
編集長 / 早稲田大学招聘講師
1989年東京都生まれ。2015年、起業した会社を東証一部上場企業に売却後、2020年に本誌立ち上げ。早稲田大学政治学研究科 修士課程修了(政治学)。日テレ系『DayDay.』火曜日コメンテーターの他、『スッキリ』(月曜日)、Abema TV『ABEMAヒルズ』、現代ビジネス、TBS系『サンデー・ジャポン』などでもニュース解説。関心領域は、メディアや政治思想、近代東アジアなど。
リサーチャー
The HEADLINEリサーチャー。立教大学文学部文学科文芸思想専修所属。関心領域は文学、西洋哲学、人権・LGBTQ問題など。
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